日本が世界で初めて宇宙実証に成功「デトネーションエンジン」爆轟を利用した革新的な宇宙用エンジンとは?
ロケットエンジンに代わる画期的な推進装置「デトネーションエンジン」コントロールが難しい爆轟を利用したこのエンジンを、日本が世界で初めて宇宙実証に成功しました。
本記事では、デトネーションエンジンが切り開く新たな宇宙探査について解説していきます。
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■衝撃波を伴う爆発現象「爆轟」
宇宙ロケットなどに利用されている従来のエンジンは、内部で「爆発」を起こしそれを推進力としています。しかし、燃費効率が悪く、様々な代替案が研究されてきました。そこで登場したのが衝撃波を伴う「爆轟」を利用したデトネーションエンジンです。しかし、これは出力の安定性に大きな課題がありました。その原因は、デトネーションエンジンのメカニズムについて、まだ正確に理解できていないためです。デトネーションエンジンの特徴は、名前の通り「爆轟(デトネーション)」です。爆轟とは燃焼の一種。燃焼は、その速度によって名称と現象が変わります。焚火のようにゆっくりと燃えるものもあれば、爆発のように一瞬で燃えるものもあります。爆発よりも燃焼速度が速くなることもあり、燃焼伝播が音速を超えた燃焼は「爆轟」と呼ばれます。「爆発」と「爆轟」の大きな違いは、衝撃波の有無です。「爆発」は素早く燃焼するだけで衝撃波はありませんが、「爆轟」になると音速を超える衝撃波を生み出します。化学工場の爆発のように、一般的な認識では爆発も、離れた物を吹き飛ばしたり、建物のガラスを割る衝撃波を起こすイメージがありますが、それは正確には爆轟に分類されます。衝撃波を伴う爆轟は、通常の爆発とは比較にならないほどの威力です。
■爆轟をエンジンに利用する課題とは?
この力は推進力として活用できます。従来のエンジンは「爆発」を利用していますが、デトネーションエンジンは「爆轟」を利用したものです。デトネーションエンジンにも問題点があります。それは爆轟の出力を均一に保ちながら持続させるという安定性が実現できていない点です。音速を超える爆発とその衝撃波の利用では、当然、エンジンを安定させることが難しかったのです。JAXAでは、この安定性の課題を克服した回転デトネーションエンジンの開発を行い、2021年に観測ロケットに新型エンジンを搭載し、打ち上げ実証試験を行うこととなりました。
■日本が世界で初めてデトネーションエンジンの宇宙実証に成功!
待ちに待った2021年7月27日、JAXAは鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所で、宇宙空間でのエンジン性能実証を目的としたデトネーショネンエンジンを搭載した、観測ロケット「S-520」31号機を打ち上げました。打ち上げは朝5時半。ほとんど雲のない朝焼けの空をロケットはまばゆい光を放って突き進み、約20秒後、肉眼では見えないほど高い上空に達し無事打ち上げは成功しました!立ち会ったJAXA職員からは拍手が湧き上がったとのことです。おめでとうございます!
そして、名古屋大学を始めとする関連研究機関より、このデトネーションエンジンの飛翔データが発表されました。計測された圧力の推移などから、エンジンは安定に作動したとのことです。また、推力は518N、エンジンの燃費を示す比推力は、約290秒とのことです。推進剤であるメタンと酸素は1秒で約182gの速度で供給されていました。そして本発表は、極めて優秀な成果とのことで米国航空宇宙学会の圧力増大燃焼論文賞を受賞しています。
今回の宇宙実証の成功によって、月や火星などの宇宙探査用のエンジンとしての応用も期待され、ロケットエンジンなどの実用化に大きく近づくことになりました。日本が世界で初めて宇宙実証したデトネーションエンジンですが、この次世代エンジンが早期に実用化され、日本のロケット技術が世界を引っ張っていく世界になるのを楽しみにしています!
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