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シリアのイドリブ県では「革命」の理想からかけ離れた反体制派の内部抗争と横暴が続く

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年4月19日

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を握るイドリブ県、トルコの占領下にあるアレッポ県北部、ラッカ県北部、ハサカ県北部。

「解放区」と俗称されるこの地域は、自由と尊厳をめざす「シリア革命」の橋頭堡にして、最後の牙城と位置づけられ、そこでは「アサド軍」、ロシア軍、そして「イランの民兵」の残忍な攻撃が続いているとされる。だが、4月17日から19日にかけて、この地で起きたのは、そうした理想からかけ離れた反体制派の内部抗争と横暴だった。

住民の反発に直面するシャーム解放機構

イドリブ県では、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、シャーム解放機構がシリア政府支配下のサラーキブ市とを結ぶ通商用の通行所を設置することを決定したことを受け、住民やメディア活動家らが4月18日、抗議行動を行うため、サラーキブ市・サルミーン市間の街道に集結した。

シャーム解放機構は、デモ参加者を強制排除したが、その後、通行所設置の決定を撤回した。

救援物資用倉庫の明け渡しを強要するシャーム解放機構

一方、イドリブ県北部のマアーッラト・イフワーン村では、シャーム解放機構が、支援物資用の倉庫をメンバーの住居として転用するとして、村の自治を担う地元評議会にその明け渡しを強要した。

これに対して、地元評議会は、倉庫は近く住民向けの医療クリニックとして転用される予定であるため、明け渡すことができないと回答した。

だが、シャーム解放機構は、国内避難民(IDPs)を収容している学校をクリニックとして転用すればいいとして、これを却下した。

アル=カーイダどうしの確執

イドリブ県ではまた、アルマナーズ市で4月19日、シャーム解放機構と新興のアル=カーイダ系組織の一つフッラース・ディーン機構の緊張が高まった。

シャーム解放機構が、アルマナーズ市に複数の拠点を構えているフッラース・ディーン機構を排除しようとしたことがきっかけ。

シャーム解放機構の嫌がらせにフッラース・ディーン機構が反発、非難する声明を出し、抗議の意思を示した。

シャーム解放機構司令官らを狙った暗殺

アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アターリブ市サッハーラ村を結ぶ街道で4月17日、シャーム解放機構の司令官が何者かに撃たれて死亡した。

また、19日には、イドリブ市で、外国人司令官が乗ったワゴン車に仕掛けられていた爆弾が爆発し、この司令官が負傷した。外国人の国籍、所属組織は不明。

トルコ占領地で散発する反体制派の内部抗争

シリア人権監視団によると、トルコの占領下にあるハサカ県北部(いわゆる「平和の泉」地域)の中心都市ラアス・アイン市で4月18日、トルコの支援を受ける国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army、TFSA)の憲兵隊と地元のアブー・マイーシュ部族の民兵が交戦し、部族側の民兵1人が死亡した。

この戦闘で、憲兵隊はアブー・マイーシュ部族が盗んだ物品を押収したという。

また19日には、同じくトルコの占領下にあるアレッポ県北西部(いわゆる「オリーブの枝」地域)の中心都市アフリーン市で、TFSAに所属する武装集団どうしが交戦した。

交戦したのは、ハムザ師団と第23師団の戦闘員どうしが交戦し、双方に複数の負傷者が出た。交戦の理由は不明。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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