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「マウンドで スピード違反 罪はなし」。福永投手が披露した一句です《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
11日に完封勝利を挙げた福永投手。ヒーロースピーチでは川柳を披露しました。

 22日に行われたウエスタン・オリックス戦(鳴尾浜)で、プロ初完投を完封勝利で飾った福永春吾投手。これは望月惇志投手が4月に、降雨コールドゲームとなった中日戦で5回を投げての完封勝利についでチーム2人目。というかウエスタン・リーグでも、今季は現時点でこの2人しかいません。よって9イニングの完封は福永投手がリーグ一番乗りです。

 そのあたりの話と、22日の試合詳細はこちらからご覧ください。→<5月は福永春吾投手の季節!プロ初完投、初完封で自身3連勝>

 きょうは前の記事で少し触れたように、22日のスポニチ紙面で私が書いた福永投手についてのコラムを、より詳しく細かく、また22日に書ききれなかった話題も合わせてご紹介します。

 では、そのこぼれ話をさっそく1つ。22日の試合で、3回に2死一塁からオリックス・根本薫選手がファーストゴロを打ち、それを捕った西田直斗選手が地面に尻もちをついてしまいました。こけたというよりは…尻もちですねえ。慌てて起き上がり、自らベースを踏んでぎりぎりアウトにしています。

 照れくさくて笑う本人はもちろん、ベースカバーに走った福永投手も、見ていた内野陣も爆笑でした。あ、ベンチもスタンドも。試合後に話を振ると、また思い出して恥ずかしそうに笑う西田選手。もしかして、あれは福永投手の緊張をほぐすためにわざと?と言ったら「そういうことにしといてください」と答えました。確かに、とってもリラックスできたはず!と言えるのはアウトにできたからですよね。

苦しかった4月、足が向いたのは…

 福永春吾投手は2月末、自ら立てた行動目標に沿って過ごした安芸キャンプを「100点満点」と振り返りました。矢野ファーム監督からキャンプの投手部門MVPに選ばれたことが、それを裏付けています。2年目のシーズンは昨年同様、上々の滑り出しだったはず。ところが3月を迎えると、状態は変わらないのに結果がついてきません。

監督、コーチからも「球はすごくいい」と言われていたけど結果が出なかった春。
監督、コーチからも「球はすごくいい」と言われていたけど結果が出なかった春。

 3月4日の教育リーグ・ソフトバンク戦で先発して4回9安打5失点と打ち込まれ、3月16日に“開幕投手”を務めたウエスタン・ソフトバンク戦は6回5安打3失点。ついで4月4日の広島戦で4回を投げ中村奨選手の3ランなど8安打で6失点。さらに同12日のソフトバンク戦は釜元選手の満塁弾など1イニングで6点を献上するなど、大量失点が続きます。

 常に前向きなことだけを口にする福永投手の「3月初めぐらいが一番落ち込んだかな。開幕して少しずつ上がってきているけど、結果が出ないという部分でしんどかった…。4月も苦しかったですねえ」という言葉に、少し驚きました。

 そんな中、4月4日の広島戦で投げて戻ってきた福永投手は「各自で食事を済ませて寮へ帰ることになっていて、しばらく行っていなかったから」と、西宮市内で飲食店を営む伯父さんのもとを訪れたそうです。お母さんのお兄さんにあたる伯父さんは、福永投手が独立リーグでプレーしていた頃からテレビや動画配信サービスなどで、そのプレーを見てくださっています。

 「久しぶりに行ったら『調子悪いなあ』って言われました」と苦笑い。なんて答えたんですか?「自分の中で球は走ってるんやけど、イマイチ合わへんねん…って。そしたら伯父さんが『素人目やし、わからんけど。なんか最近、カッカしているように見える。自分の投げている球に対して』と言うんです。えー、そうなんかな。カッカしているつもりはないのに」

伯父さんの言葉が思い出させてくれたこと

 さらに、伯父さんの鋭い観察眼による指摘が続きます。「独立リーグの時はヒットとフォアボールが出るたびに、バックスクリーンの方を向いて旗を見上げていたやろ?そのあと屈伸を一回やってから、こっちへ振り返っていたのに。最近ないな」

ヒットを打たれて、バックスクリーンの方を見る福永投手。
ヒットを打たれて、バックスクリーンの方を見る福永投手。

 これには福永投手も「よう見てるなあ!」と驚いたとか。「たぶん無意識だったと思うんで、自覚はないんですけど。確かに言われてみたら、落ち着くためにやっていたのかなと思いました。そうか、最近はやってなかったかなって」。そこで、伯父さんの言う“ルーティン”を再開してみたそうです。

これは別の場面ですが、ロージンを触る時に少し屈伸。
これは別の場面ですが、ロージンを触る時に少し屈伸。

 「5月1日のソフトバンク戦から、やり始めました。そしたらリズムもテンポもよくなった気がします。前まで1球1球考え込みながら投げて間が悪くなり、そのぶん相手は打ちやすかったかも。本当に、そう言われてみたらって感じですよね。やってみて、ここ2試合は全然違います!」

 明るい顔で語ってくれた言葉通り、5月1日は7回途中まで投げて5安打1失点、同11日は7回5安打3失点。白星も2つ続きました。そして迎えた22日のオリックス戦は見事、完封勝利で3連勝となったわけですね。

西田選手が尻もちをついた守備に、福永選手も笑いながら戻ってきました。
西田選手が尻もちをついた守備に、福永選手も笑いながら戻ってきました。

 前の記事でご紹介した福永投手のコメントに「打たれても考えすぎずに切り替えて」というのがあります。実はそのあとに「うしろも向いて」と付け加え、こっちを見てニヤッと笑いました。それが最初に書いた伯父さんの指摘から得た、今回の特効薬だったわけですね。

 ルーティンというような決まった動きではなかったけれど、ヒットや四球の際にバックスクリーン方向を見る、ロージンを手に取る一連の流れで屈伸もする、というのはありました。でも無意識みたいな、すごく自然な感じですね。それで我に返るとか、落ち着くという効果がきっと得られたのでしょう。

芽生えてきた自信は、やがて確信へ

 もちろん、目指すは昨年5月6日以来の1軍です。高橋建投手コーチが「去年1軍に行くまでのピッチングは本当に素晴らしかった!」と、今でも思い出して絶賛するくらいの状態で昇格した福永投手ですが、デビューは苦い苦い思い出となりました。先発で10安打6失点、5回持たずに降板しています。

 そこで出た課題が課題のまま残り、1年目のシーズンが終わってしまったと高橋コーチは言っていました。この課題を本人はこう振り返っています。

 「最初は力のあるボールをベース盤の上にどんどん投げ込めていたのに、あれを機に自分の持ち味が消えてしまったかもしれません。コントロールを意識するあまり、コースをきっちり狙いすぎて…。思いきりとか、投げっぷりの良さがなくなっていました」

不安が自信へと変わり、そして自信は確信につながっていく。
不安が自信へと変わり、そして自信は確信につながっていく。

 高橋コーチは、そんな福永投手の自己分析に「野球はミスをするスポーツだから。菅野でも失敗するし、(藤浪)晋太郎だっていっぱいミスがあります。だけどプロは次から次へと試合がやってくるので、切り替えの速さが必要。それに意図を持って投げておけば、失敗しても次へいける」と説いたそうです。

 そして「彼は今、充実していますよ。プラス思考の言葉をいろいろ与えたいですね」と高橋コーチ。その1つが「これまで不安だった部分が、今は自信に変わってきている。この自信を確信に変えられるように」というもの。先週半ばに聞いたという福永投手は、この言葉を胸に22日のオリックス戦へと向かいました。

 

 1年前の借りを返しに、甲子園のマウンドへ戻らないといけませんねと言ったら「その時が来るのを待ちます」と答えた福永投手。チャンスをもぎ取る、何がなんでも、という言葉ではなかったのが余計に、静かな闘志を感じさせますね。

お風呂で考えたヒーロースピーチ

初めての川柳披露で、今成選手(中)も横田選手(左)も大ウケの様子です。
初めての川柳披露で、今成選手(中)も横田選手(左)も大ウケの様子です。

 さて、22日の試合が終わってハイタッチをしたところでマイクを受け取った福永投手は「皆さん、きょうは暑い中、最後まで応援ありがとうございました!」と、まずお礼。そこから早口でよく聞き取れなかったのですが「今月、免許更新となっているのでいい顔で撮れる(取れる?)ように頑張りたい」というような内容だったと思われます。

 そのあと「最後に、今後の思いを五七五で」と続けたのでビックリ。なかなか攻めてきましたよねえ。でも昨秋のフェニックスリーグのイベントで、一緒に出演した才木浩人投手をも唸らせたトーク術ですから、きっと大丈夫。

 「マウンドで スピード違反 罪はなし。ありがとうございました!」

 並んだチームメイトから「おお~」という感嘆の声と笑いが、スタンドからも大きな拍手が送られたのは事実です。

無事に終わったヒーロースピーチ。なんだか満足げな顔に見えますねえ。
無事に終わったヒーロースピーチ。なんだか満足げな顔に見えますねえ。

 矢野監督の発案で始まった“ヒーロースピーチ”が浸透してきて、福永投手もその時のためにと用意していたのかな?「残留中に考えていました。お風呂の中で」。じゃあ試合の終盤あたり、もしかして…と頭によぎったりは?「いえ、それはないです(笑)。試合後にマイクをもらって、“あ、そうなんや。じゃあ考えていたアレを披露しよう”と思いました」

西岡効果を期待する矢野監督

 最後に、22日からファームの試合に出場している西岡剛選手について、矢野燿大監督は「きょう見ていて、内野のボール回しがいいなあと思った。剛の影響があるんじゃないかな」という話をしました。

 「体が何ともないのに落ちてきて、あいつも悔しさはあると思う。だけどショボンとしていても仕方がないから。剛からは、自分が試合に出ることでチームを引っ張ろうというような、何かを感じるんよね。その1つがボール回しやね。あいつがポンポンと俊敏にやることで、他のやつもじっとしとられへん。それで、いいボール回しができてるのかな」

1死満塁のピンチで二直併殺!セカンドの西岡選手(左)に感謝する福永投手。
1死満塁のピンチで二直併殺!セカンドの西岡選手(左)に感謝する福永投手。

 いい影響を受け、そのうえ若い選手たちがこの機会を生かしてくれるのは大歓迎ですね。「あいつには早い段階で1軍に戻ってもらわないとダメやけど、こっちにいる間に島田とか、すごくいい勉強ができると思う。剛はきょうも、ランナーでセカンドに行けば嫌な動きをするわけよ。足が速いから走れるということではなくて、相手の嫌なことをどうやったらできるかとか、隙があったら行ってやろうとか、剛にはある。そういうのを、特に島田には学んでほしいなと思う」。語らずとも背中を見ながら?「いや語っていると思うよ、あいつなら」と笑う矢野監督でした。

このところ、試合後の礼で発声を担当している島田選手です。
このところ、試合後の礼で発声を担当している島田選手です。

 島田海吏選手に聞いてみたところ、語っているみたいです。というのは冗談で、島田選手いわく「西岡さんから話しかけてくださって」と感激の面持ち。学んでほしいという矢野監督の言葉に「はい、もう学ぶところ“しか”ありません!守る場所は違うけど、打撃も走塁も、すべて勉強させていただきたい」と島田選手。そして「ずっと見ています!」という気合いのひとこと。ものすごい熱視線を感じそうですが、まずは観察からですね。頑張ってください。

    <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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