大阪都構想の「バージョンアップ」とは市民をだます詐欺度アップ!
政令指定都市の大阪市を廃止する「大阪都構想」が最終局面を迎えた。府議会は8月28日、大阪市会は9月3日、大阪市を廃止し四つの特別区に分割する計画をまとめた「特別区設置協定書」を承認。大阪市選挙管理委員会は9月7日、大阪市民対象の住民投票を10月12日告示、11月1日に投開票の日程で行うと決めた。住民投票で賛成多数になれば、大阪市は約130年の歴史に終止符を打つ。
大阪市民をだます手口が巧妙に
大阪都構想は2015年5月17日の住民投票で反対多数となったにもかかわらず、大阪都構想が党是である地域政党「大阪維新の会」は、「バージョンアップ」を掲げて復活させた。2017年6月に特別区設置協定書を作成する「大都市制度(特別区設置)協議会」(通称、法定協議会)が再び設置され、紆余曲折を経て2度目の住民投票が目前となった。
では、今回の特別区設置協定書が本当にバージョンアップしたのかと言えば、大阪都構想の抱える矛盾はそのままであり、大阪市民が大損害を被る構想なのは同じである。ただし、今回の特別区設置協定書は、ぼろを隠す大がかりな仕掛けが施されている。バージョンアップとは、大阪市民をだまし切って住民投票で「賛成」させるための手口が巧妙化したことに他ならない。
政令指定都市の大阪市が廃止されても区役所はなくならない!?
5年前に住民投票で否決された特別区設置協定書と比べ、今回、制度設計が大きく変わったのは、大阪市内24行政区の「区役所」を存続させるとしている点だ。大阪都構想は政令指定都市の大阪市を廃止するので、当然、24行政区はなくなる。行政区がなくなれば区役所もなくなる。しかしながら、大阪都構想では、24行政区をそのまま24の「地域自治区」とし、行政区の区役所を地域自治区の事務所として区役所と同様の業務を行い、名称も「地域自治区事務所」ではなく「区役所」と呼ぶという。
2度目の住民投票に向け、「大阪維新の会」は「区役所はなくならない」という訴えに力を入れている。「大阪維新の会」代表代行の吉村洋文・大阪府知事は、大阪都構想のPR動画で「区役所がなくなるというデマがありますが、区役所はなくなりません」と断言。維新の地方議員らが学生のコスプレをして、学校の教室で授業が行われている仕立てにした動画「大阪都構想学園」でも、「区役所はなくなりません、遠くもなりません」とアピール。街頭での配布物にも「今ある区役所はなくなりません」と記載されている。
「大阪維新の会」が「区役所」にこだわるのは、5年前の住民投票では区役所がなくなって不便になると感じて反対した人が多かったためだ。「区役所存続」を強調し、前回は反対した人を今回は賛成させようという思惑だ。
将来的に区役所はとても維持できない制度設計
特別区設置協定書では、現在の24区役所はそのまま地域自治区の事務所となり、業務を引き継ぐと記載されている。しかし、問題は特別区の職員数とその配置だ。特別区設置協定書には特別区の職員配置まで記載されていないが、制度設計を詳しく記した「特別区制度案」を見ると、4特別区では総数2157~2820人の職員のうち、31%~40%が区役所(地域自治地区の事務所)に配置されている。つまり、「区役所」という出先機関に職員が手厚く配置され、特別区本庁の職員数がスカスカになっているのだ。
大阪都構想では大阪市廃止後に設置される特別区は中核市並みの仕事をすることになっているため、豊中市、高槻市、東大阪市など大阪市の近隣中核市6市の職員数をもとに、特別区の職員数をはじき出した。一方で「現在の区役所を存続させる」としているため、全体では中核市並みの仕事ができる職員数を確保しているものの、組織構造がいびつになってしまったのだ。
特別区の職員配置には大阪市役所内で悲鳴が上がる
大阪市会で大阪都構想の問題的を追及してきた前田和彦・市議(自民党)は2018年5月、近隣中核市6市に職員配置の調査を行い、3市から回答を得た。それによれば、支所やサービスセンターなど「出先機関」の職員数は平均17%だった。前田市議は「これが正常な自治体の姿だ。特別区の職員配置は完全に破綻している。『区役所はなくならない』と市民を安心させるため実現不可能な制度案を作り上げているだけだ。このままでは特別区本庁で人手が足りず過労死する職員が続出してもおかしくない。それを避けようとしたら区役所は維持できず、どんどん縮小して市民生活に大きな影響が出るのは間違いない」と指摘する。
自民党市議団は4特別区で約600人の「職員不足」が生じると試算しており、大阪市役所の各局からヒアリングしたところ「住民投票で賛成多数になり特別区への分割が決定した瞬間に、この制度案には修正を求める。とても通常業務がこなせる組織にはなっていない」との声が上がっているという。
「大阪維新の会」は大阪都構想を「大阪府と大阪市の二重行政の解消」と行政の無駄がなくなるイメージで進めてきたため、特別区に分割して必要職員数が大幅に増加するのでは「無駄の削減」を望む市民の理解を得られない。しかし、政令指定都市の「区役所」を廃止するのも不興を買う。大阪市4分割のスケールデメリットにふたをして、区役所も維持しようとした結果、特別区は持続不可能な職員配置になったのだ。
「市民サービスは維持」の裏でこっそりサービス削減計画
「区役所の存続」と同様、大阪市民を安心させるための詐欺的な記載は他にもある。「特別区の設置の際は、大阪市が実施してきた特色ある住民サービスについては、その内容や水準を維持する」と明記しているのだ。これを読めば誰しも「大阪都構想で市民サービスが悪化することはない」と思うだろう。しかし実は、大阪都構想は市民サービス削減とセットになっている。
前田市議は8月26日、大阪市会の都市経済委員会で、「大阪市を廃止して設置される4特別区は、市民利用施設の削減が前提になっている」と追及した。法定協議会の事務局である府市合同部署「副首都推進局」が作成した特別区の「財政シミュレーション」では、市民プール、老人福祉センター、子育てプラザなどの市民利用施設にかかる経費を、“改革”と称して将来的に年17億円削減することになっているのだ。これは節約で生み出せる金額ではなく、施設数をバッサリ減らすことを意味する。
特別区の不具合を体のいい言葉で隠ぺいした特別区設置協定書
大阪市から特別区になると法律上、固定資産税や法人市民税などが大阪府税になる。税源の乏しい特別区は、「財政調整交付金」という形で大阪府から税収を融通してもらって運営する不安定な自治体だ。しかも、大阪市が実施してきた行政事務を四つに分割して実施する「分割コスト」が、大阪都構想の制度設計には盛り込まれていない。自民党大阪市議団は「分割コストは少なくとも年200億円に上る」と独自に試算している。さらに不幸なことに、行政コストの上昇分が国の地方交付税で補填されず、自力でやりくりするしかない。大阪府内の4特別区は、国が保障している行政需要の基準すら満たせない日本一「火の車」の自治体となる。
ヒトもカネも足りない特別区は、スタート時点から「どの市民サービスを削るか」を考えなくてはならない構造だ。特別区設置協定書はこうした根本的な問題を、「区役所は存続する」「市民サービスは維持する」などの文言で隠ぺいしている。公文書の歴史に刻んでおくべき代物である。