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不登校や退学を繰り返し女優の道で輝き出した中井友望 「青春を知らないからわかる気持ちがあります」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

今泉力哉監督の『かそけきサンカヨウ』から出演映画が相次ぎ公開される、新人女優の中井友望(とも)。はかなさと芯の強さを併せ持つたたずまいに、制服の役での美少女感が際立つ21歳だ。中学で不登校、高校と大学は退学と、人と関わるのが苦手で学校に馴染めないコンプレックスを抱えながら、女優を志したという。独自の澄んだ輝きがスクリーンに忘れられない印象を残す。

寂しいことのほうがよく覚えてます

 中井友望が出演した『かそけきサンカヨウ』の冒頭で、喫茶店に集まった5人の同級生たちが、「自分史上一番古い記憶」を語り合う場面がある。

「私が覚えている古い記憶と言うと、お父さんとお母さんがたぶん仕事で帰りが遅くなって、お兄ちゃんがソファーでゲームをやっていて。『誰も構ってくれない』とすごく寂しかったことです(笑)。小さい頃、楽しいこともたくさんあったと思いますけど、寂しいことのほうがよく覚えていますね」

 そんな中井友望が注目されたのは、昨年初めて出演したドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』。藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)が演じた主人公の高校時代の初恋相手の役で、回想が描かれた5話に長く登場した。暴力をふるって働かない父親と暮らし、アルバイトに明け暮れながら成績は優秀。東京の大学に進学する夢を持っていたが、高3の冬に交通事故で亡くなる。切ない境遇が中井の清らかではかなげな雰囲気と相まって、涙を誘った。

人と関わるのが無理で大学は半年で辞めました

 女優を志したのは中2の頃。不登校だった時期に、染谷将太と二階堂ふみが主演した映画『ヒミズ』を観たのがきかっけだった。

「私は感情表現が苦手で、言いたいことも言えない。『ヒミズ』に出てくる人たちが感情を爆発させているのが羨ましくて。私も映画の中だったら、こんなふうにできるのかなと、ちょっと希望が持てました」

 しかし、学校には相変わらず馴染めず、高校は3年生のときに退学している。

「明確に何かがあって行けなくなったのでなく、学校が合わないことを、気持ちより先に体が感じ取ったみたいです。高校の最寄りの駅まで着いて、そこから脚が全然動かなくなって、駅のベンチに3時間座っていたこともありました」

 その後、大阪の実家から出たい想いもあり、高卒認定試験を受けて東京の大学に合格したが、その大学も結局は半年で辞めた。

「1人で受験勉強していたら、すごくはかどって、『いい調子』と浮かれていたんですけど、大学生活が始まったら、やっぱり無理でした(笑)。もともとサークルとか入りたくなくて、あまり人と関わらずに勉強して、卒業したいと思っていたんです。大学は1人でやりたいことができるイメージだったのが、思ったより人と関わることが多くて。やっぱりしんどくなって、辞めることにしました」

やりたくないことより行きたい場所を選ぼうと

 芸能活動は高校生の頃から少しずつ始めた。だが、高校を退学した頃、演技も楽しくないと感じるようになってきた。それで全部辞めようと、最後の仕事のつもりで行った現場で『ミスiD』のことを知る。

 新しい時代の多様なロールモデルの発掘が趣旨で、玉城ティナらを発掘したこのオーディションに応募し、最後にするつもりだったのが、審査の間に「やっぱり仕事をやりたい」と気持ちが変わった。結果、グランプリを受賞し、現在に至っている。

 審査員の1人だったTVプロデューサーの佐久間宣行氏は「今までのうまくいかなかった人生を語るときも、これからの夢を語るときも、その眼差しはしっかりと前を見据えていて揺るぎなかった」とコメントしていた。中井友望自身は、学校に馴染めない自分にコンプレックスはあったのだろうか?

「当時はありました。『みんなは学校に行けて楽しそうなのに、なんで私は行けなくて楽しくないんだろう?』と思って。自分が甘えている感じもして、全部がイヤでした。でも、今は『やりたくないことをやる意味はない』と思っています。学校は辞めて良かったし、自分のやりたいこと、行きたい場所を選べばいいと考えられるようになりました。お芝居の仕事は心からやりたいと思えて、行きたくなくなることはありません」

穏やかな物語で現場も心地良くて

 『愛がなんだ』や『アイネクライネナハトムジーク』などの良作を生み続ける今泉力哉監督の新作『かそけきサンカヨウ』。中井は「ご一緒したい監督の1人でした」という。

「『愛がなんだ』や、松本まりかさんとカネコアヤノさんが出演してらっしゃった『退屈な日々にさようならを』を観てました。すぐ『これは今泉監督の映画だ』とわかる空気感があって、その一部になりたいと思っていました」

 日常を切り取って積み重ねていくような作風が、今泉監督の持ち味。

「今回の現場でも演出というより、私たちがどうすればやりやすいかを尊重してくださいました。だから普段通りの自分で演じられましたけど、出来上がった映画を観ると、テンションの低さとか、少し私すぎる部分もあります(笑)」

 『かそけきサンカヨウ』の主人公・国木田陽(志田彩良)は、幼い頃に母が家を出てから、父の直(井浦新)と2人で暮らしていた。だが、父の再婚で4歳の連れ子と共に4人家族の新しい生活が始まり、戸惑いを高校で同じ美術部の清原陸(鈴鹿央士)に打ち明ける。2人は淡い恋心を抱き合っていた。中井が演じる鈴木沙樹は、彼らと同じ高校に通う友だちという役どころ。

「原作の小説と台本を読んで、すごく穏やかでやさしい物語だと思いました。感情の波がめちゃくちゃあるわけでなく、今泉さんに合う空気感が文字だけでも伝わってきて。現場に行くと、それをさらにヒシヒシと感じて、とても心地良かったです」

自分の想いを言わないと決める感情を知りました

 陽は父と暮らす中で家事を一手に引き受け、早く大人にならざるを得なかった少女として描かれている。沙樹のほうも母子家庭。喫茶店でバイトをしながら、学費の安い国公立大学に進学しようと、仕事が終わると店の隅の席で勉強していて、やはり大人に感じる。あまり感情を表に出さず、密かに陸に想いを寄せているが陽への嫉妬は見せず、2人を「お似合いだと思う」と後押ししたり。

「そういう感情があることを、この作品で知りました。沙樹を演じているとイヤな気持ちが動いてしまうことがなくて、すごくやさしく2人と関わっていて。自分の想いは言わないと沙樹の中で決めていたと思うし、これから先もずっとそのままなんだろうなと」

 だが、学校を休んだ日にアパートを訪ねて来た陸に「変な同情とかいらないから」と、苛立ちを見せるシーンも。

「家に来られるのは想定外で、心が乱されたんでしょうね。あそこは沙樹の感情と気の強いところが出て、大事な場面だと思いました」

 バイト終わりに待っていた陸に、陽から告白されたと公園で言われたときは、淡々と聞きながら皮肉を返し、励ますようなことも言う。そして、雨の中で傘を放り投げ、バスケットボールをシュートするが、ゴールに遠く届かないというひと幕もあった。

「私はいちおう小・中学校とバスケ部だったのに、あんなに届かないとは思いませんでした(笑)」

今はトンネルを抜けるのが楽しいです

 高校を中退した中井自身は、この映画のような学校での恋はあまり経験なく「すごくいいなーと思います」という。

「でも、私は“学校で青春を経験してない”という経験をしているので。青春していた人たちが知らない気持ちを、私はわりと知っていると思います。100%明るいだけでない感情も演技には絶対必要なので、そういう意味では良い経験をしました」

 もう学校に行けないコンプレックスを抱えていた頃のトンネルからは、完全に抜け出したのだろうか?

「そういうトンネルからは抜けましたけど、1コ抜けても、また違うトンネルがあって。お仕事が思うようにいかないと『私は向いてない。ダメかもしれない』と、めちゃくちゃ落ち込みます。でも、次の日には『よし、頑張るぞ』と思えるようになりました。絶対抜けたいトンネルがあるのは、楽しいです」

 原点の『ヒミズ』で憧れた、感情の爆発もできるように?

「自分の殻を破るような経験は舞台でよくありました。大きい声を出すとか、泣いたり笑ったりとか、単純なことですけど、そういう感情をいつでも持ってこられるように、演技の引き出しを増やしたいと思います」

今できることは全部やった自信を持ちたくて

 一方、今も変わらず自分の中で課題にしていることがある。

「人とちゃんとコミュニケーションを取れるようになりたいです。学校時代にできなかったことなので、いまだになかなか難しくて。人見知りだし、話して別れたあとに『あれは言って良かったのかな? 言い方を間違えたかな?』とかいろいろ考えてしまって。『嫌われたかもしれない』と悩んだりもします」

 根は人一倍、繊細なのだろう。学校に馴染めなかったのも、会話ごとにそんなことを考えて、気が重くなっていたからかもしれない。

「無意識のうちに負担になっていたのかなと思います。今はとにかく正直に話すようにしていて。あと、本をたくさん読むようになりました。言葉は大切だと改めて思ったので、本でいろいろな気持ちを知って、自分も伝えられるようになれたら」

 好きな作家に挙げたのは、宮本輝と西加奈子。

「宮本輝さんの『錦繍』という小説は、離婚した男女の手紙のやり取りという形になっていて、場面の描写がほぼなく、全部が話し言葉の会話なんです。それがすごく面白くて。西加奈子さんの作品は全部好きですけど、最初に感動したのが今年アニメ映画になった『漁港の肉子ちゃん』。西さんの小説が実写化されたら、ぜひ出たいです!」

 女優としての夢はいろいろと広がっているようだ。

「もっとお仕事をしたいですし、もちろん大きい役もやりたいです。でも、演じたあとに100%満足することは一生ない気がします。毎回悔しいくらいですけど、逆に、満足したら終わっちゃいますよね。自分が今できることは全部やったという自信は、少しずつ持てるようになりたいです」

撮影/松下茜

Profile

中井友望(なかい・とも)

2000年1月6日生まれ、大阪府出身。

『ミスiD2019』でグランプリ。2020年にドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』で女優デビュー。映画『COMPLY+ANCE コンプライアンス』、舞台『アルプススタンドのはしの方 高校演劇ver.』、配信ドラマ『スマホラー「はためく」』などに出演。10月15日公開の映画『かそけきサンカヨウ』、11月5日公開の映画『シノノメ色の週末』、11月19日公開の映画『ずっと独身でいるつもり?』に出演。

『かそけきサンカヨウ』

監督/今泉力哉 原作/窪美澄

10月15日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

公式HP

(C)2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会
(C)2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

『ドラゴン桜』で脚光の志田彩良の主演映画『かそけきサンカヨウ』が公開

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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