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『ドラゴン桜』で脚光の志田彩良の主演映画が公開 「好きな人のひと言に心が揺れるのはわかります」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

『ドラゴン桜』の秀才少女役で注目された志田彩良が主演する映画『かそけきサンカヨウ』が公開される。『愛がなんだ』、『アイネクライネナハトムジーク』など良作を生み続ける今泉力哉監督の新作で、志田は3度目の出演で初の主演。父との2人暮らしから再婚で新たな家族ができて、揺れ動く少女を演じている。等身大に見える思春期のリアルさはどう生まれたのか?

仕事はしていても同級生たちと変わりませんでした

――『かそけきサンカヨウ』では、志田さんが演じる陽の誕生日会のシーンがありました。実際の今年の7月の誕生日では、そういうことはしましたか?

志田 コロナ禍で友人たちとは集まれなくて、家族と自宅で焼肉パーティーをしました。兄から「プレゼントは何が欲しい?」と連絡が来て、欲しいものがありすぎたので1ヵ月以上悩みました(笑)。

――22歳というと、大人度も上がってきてます?

志田 自分で実感はないです。でも、マネージャーさんから「最近変わってきている」と言っていただけました。考え方が少しずつ変化しているのかなと思います。

――20歳の頃の取材では「ヒールを履くようになってきた」とのことでした。

志田 ヒールはあまり履かなくなりました(笑)。最近は歩きやすさ重視で、スニーカーが多いです。

――そこは10代の頃に戻ったんですね(笑)。陽は幼い頃に母親が家を出て、早く大人にならざるを得なかった少女として描かれています。志田さんも小6から芸能活動を始めて、周りの同級生よりは早く大人になった部分があったのでは?

志田 そんなことはなかったと思います。中学も高校も一般の学校に通っていたので。お仕事に行くと、周りの方々は確かに大人びていて、自分もしっかりしなくちゃという気持ちはありました。でも、プライベートでは素の自分に戻っていて、学校の同級生たちと何も変わらなくて。芸能界に染まる感じはなかったです。

撮影の練習で水餃子を100個作りました(笑)

――陽のように早くから料理をしていたりは?

志田 昔から母の料理のお手伝いをするのが好きでした。子ども用の包丁を買ってもらって、母の隣りで具材を切ったりしていました。

――劇中で陽がネギを切ったりする場面もありましたが、特に手際を練習する必要はなかったわけですね。

志田 練習はしました。水餃子を作るシーンを撮影する前日に、皮の包み方の動画を参考にして、餃子を100個作りました(笑)。

――すぐ作れたんですか?

志田 そうでしたね。私は器用かどうかはわかりませんが、細かい作業はわりと好きなので楽しかったです。

――志田さんはノートに役のことをいろいろ書き出すそうですが、今回もやりました?

志田 はい。『ドラゴン桜』のときは東大専科の同級生たちとの相関図を作って、今回は家族や同級生の陸たちについて「この人をこう思っている」ということや陽の気持ちを書きました。

学生時代ならではの心情が懐かしいなと

窪美澄の短編集が原作で、今泉監督が自ら希望して映画化した『かそけきサンカヨウ』。幼い頃に母が家を出て、父の直(井浦新)と2人暮らしをしていた陽(志田)。父の再婚により連れ子も含めた4人家族での生活が始まった。陽は戸惑いを、高校で同じ美術部の陸(鈴鹿央士)にさり気なく打ち明ける。

――陽役は今泉監督やプロデューサーが「志田さんならやれる」と決まったそうですが、志田さん自身もやれそうな気はしてました?

志田 原作を読んだときは、すごく繊細な役で難しそうだと思いました。でも、10代の学生ならではのちょっとしたことで揺れ動く感じなど、共感できる部分もあって。そういうところから、自分なりの陽を演じられたらと思いました。

――“高校生ならでは”を特に感じたのは、どの辺のシーンですか?

志田 やはり陸とのシーンですね。自分が想いを寄せている相手のひと言や行動で、傷ついたり嬉しくなったりすることは、私も学生時代にあったので。懐かしいなと思いながら演じました。

何も考えず、その場の感情で伝えました

――陽が朝の美術室に陸を呼び出して告白するシーンは、よくある青春恋愛映画だとどう転ぶにしても盛り上がるところですが、わりとヌルッと流れたのが実際ありがちな感じで、リアルに思いました。

志田 あのシーンは特に何も考えず、ただ台詞だけを頭に入れて、現場の感情で伝えたいと思って挑みました。央士くんが陸そのものでいてくれたので、私もすごく演じやすかったです。

――陽も取り乱さないというか、陸の言葉をフラットな感じで受けていて。

志田 そうですね。陽は陸の返事を聞きたかったわけでなく、自分の気持ちをちゃんと伝えたかったように思います。

――陽を大人だと思ったシーンもありますか?

志田 その告白のシーンも、もし私だったら返事をその場で聞きたくて、急かしてしまっていたと思います。でも、陽は相手の気持ちを尊重して、返事が返ってくるまで待っていたので、大人だなと思いました。

今泉組ではずっとやさしい空気が流れていて

――志田さんは今泉監督の映画は3本目、ドラマなどにも3本出演していますが、監督ならではの演出というのはありますか?

志田 現場の空気感が独特です。いつも温かい雰囲気の中で、お芝居させていただいています。監督自身が温かい方なので、やさしい空気がずっと流れているような雰囲気は、今泉さんにしか作れないと思います。

――今泉作品に出演した他の女優さんに聞いたのは、「力んでいくと浮いてしまう」とか「台詞を台詞でなく、普通に話しているようにしないといけない」とか。

志田 演技でウソをつくと、今泉さんにはバレてしまいます。自分が納得してないまま演じると、すぐ見透かされて「今のシーンは大丈夫だった?」と聞いてくださったり。小さな変化にも気づいていただけて、だからこそ丁寧な作品が出来上がる気がします。

――志田さんもそういう今泉監督の撮り方が合っている感じですか?

志田 すごく心地良くお芝居させていただけるので、今泉さんの現場は好きです。毎回「お芝居が好きだな」と実感もできます。

――今泉監督に言われて、演技の指針になったようなこともありますか?

志田 声の使い方を指摘していただいたことがあります。「もう少し自分の声をわかっていたほうが、演技がもっと良くなるかもね」と。役によって声の出し方を考える、ということだと思っています。

――陽の声についても考えたんですか?

志田 陽に関しては、特に触れられませんでした。私もあまり考えず、そのときに出た感情を素直に出していきました。

長回しのシーンで自然に泣いてました

――撮影に入ってから、陽の演じ方について悩んだことはなかったですか?

志田 難しい役で、ずっと悩んでいました。私が経験したことのない家庭環境で、陽はどんな気持ちだったのか。それと、(父の再婚相手の4歳の連れ子の)ひなたちゃんに対する気持ちの変化は、すごく考えました。

――特に印象に残っているシーンはありますか?

志田 陽がお父さんと2人でベッドの上で話し合うシーンは、撮影前からすごくドキドキしました。

――10分弱の長回しだったとか。

志田 そうです。でも、当初はあそこまで長く回す予定はなくて。現場でお芝居の確認をしていく中で、監督が「ここはワンカットでいこう」とおっしゃいました。私は今まで、あんなに長回しで続ける撮影をしたことがなかったので、すごく印象に残っています。

――沈黙や涙も、流れで出たものですか?

志田 「ここで泣こう」というふうに考えていたわけではなくて、自然と泣いてしまいました。

――そういうときって、いわゆる役に憑依した感覚ですか?

志田 憑依している感覚はないですけど、その場の空気から台詞を自分の言葉として出したとき、陽の感情になりました。

――そのシーンの前に、陽はひなたに大事な絵本を破かれて、「バカ!」と怒ってました。志田さんは普段、怒ることはありますか?

志田 めったに怒りません。学生時代の友人に「何をしたら怒るの?」と言われます(笑)。

――でも、演技では自然に爆発すると。

志田 そうですね。お芝居のために、普段から泣いたときや怒ったときに自分がどんな顔をしているのか、鏡で見たりしています(笑)。

空を飛ぶ夢を小さい頃から繰り返し見ていて

――劇中に出てきた“繰り返し見る夢”は志田さんにもありますか?

志田 空を飛ぶ夢は小さい頃から、いまだに見ます。

――どんな飛び方をするんですか?

志田 そのときによって違います。一番覚えている夢だと、家に昔あったソファーの上で、両手にうちわを持って扇いだら、空を飛べました(笑)。いつもはうちわを持ってなくても、手で扇ぐと高く飛べます。そういう夢を最近も見ます(笑)。

――あと、冒頭に出ていた“自分史上、一番古い記憶”は?

志田 幼稚園に入る前の2歳くらいの頃だったか、私が母に抱っこされていて、母が誰かと電話をしていて。そのとき、私の顔は母の胸辺りにあって、体から声が響いて聞こえてくる感じが、すごく記憶に残っています。

――陽は美術部の役でしたが、志田さんは絵は描きますか?

志田 絵は描きません。でも、ぬり絵は好きです。少し前に流行った大人のぬり絵に乗っかりました(笑)。コロナ禍でおうち時間が増えて、新しい趣味を見つけたいと思って始めました。

――『かそけきサンカヨウ』に主演して、女優人生の糧になったこともありますか?

志田 主演とは関係ないかもしれませんが、井浦新さんをはじめ事務所の先輩方のお芝居や現場での立ち居振る舞いを間近で拝見できました。皆さん本当に素敵で、私に対しても気に掛けて声を掛けてくださって。いつか私にも後輩ができたら、現場でそういう接し方をしたいと学べました。

――今泉監督の作品の良さも改めて感じたり?

志田 今回も独特な空気感の現場が居心地良かったです。もっと成長して、これからも今泉監督の作品でご一緒し続けたいと、改めて思いました。

写真は『かそけきサンカヨウ』より (C)2020映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

Profile

志田彩良(しだ・さら)

1999年7月28日生まれ、神奈川県出身。

2014年に短編映画『サルビア』に主演して女優デビュー。主な出演作は、映画『ひかりのたび』、『パンとバスと2度目のハツコイ』、『mellow』、ドラマ『his~恋するつもりなんてなかった~』、『ゆるキャン△』、『だから私はメイクする』、『ドラゴン桜』など。映画『かそけきサンカヨウ』に主演。

『かそけきサンカヨウ』

監督/今泉力哉 原作/窪美澄

10月15日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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