「グレタさんは中国を批判しない」は本当?―10億人の子ども達が直面する危機とは
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんについて、日本テレビが「グレタさん“日本は世界の子ども苦しめる”」と題した記事を今月21日に配信したことが、一部ネット上で論議を呼んでいる。ツイッターなどでは、右派/保守系層を中心に、最大の温室効果ガス排出国である中国を批判せず、日本を名指しするのはおかしいとの投稿が相次いだが、実際にはグレタさんは日本だけを名指ししたわけではない。日テレの記事タイトルにも問題があるが、グレタさんに「中国の手先」とのレッテルを貼ることで、温暖化防止に対する自国の責任をうやむやにしようとする、日本のネット上の風潮もおかしいのだろう。何より、世界の子どもたち、とりわけリスクの高い国々で10億人もの子ども達が温暖化による深刻な危機に直面していることを直視するべきだ。
○的外れなグレタさん叩き
日テレの記事は、グレタさんが温暖化防止を呼びかける活動を開始してから今月で3年となるにあたり、彼女の寄稿文をニューヨーク・タイムズ紙が掲載したことを報じたもの。同寄稿文でグレタさんは、中国や米国、ロシア、日本など10カ国が世界の温室効果ガスの7割を排出している一方、温室効果ガス排出の少ない途上国である中央アフリカやナイジェリアやギニアなどの33か国は温暖化によるリスクが非常に高く、これらの途上国の子ども達がより大きな被害に脅かされることを「世界的な不公正」と指摘したのだ。
このグレタさんの寄稿について、日テレの配信した記事のタイトルではグレタさんが名指ししたのが日本だけかのように受け取れるため、ツイッター上では主に右派/保守系アカウントから、「温室効果ガス排出が多いのは中国なのに、何故、日本に文句を言ってくる?」等、グレタさんを批判する投稿が相次いだ。ただし、日テレの記事本文及び動画では、具体的な国名こそ出していないものの、「日本を含めた10カ国」と表現しているため、上述のようなグレタさんへの批判は、ろくに記事本文も読まず投稿された的はずれなもの、と言える。
○グレタさんVS中国の国営メディア
今回に限らず、グレタさんの発言が報じられる度に「中国を批判しない」とのデマが流布される風潮が日本のネット上にある。だが、実際にはニューヨーク・タイムズの寄稿文がそうであったように、グレタさんはとりわけ大量排出国の首脳達の怠慢を批判しているのであり、どこかの国だけは例外になるとは一言も言っていない。また、グレタさんが中国を名指しして対策を求めることもある。例えば、今年5月7日のグレタさんのツイッターでの投稿では、中国の2019年の温室効果ガス排出量が米国やEU諸国と日本の排出量の合計よりも多かったとの報道を引用し、
と訴えた。
これに反発したのか、中国の国営メディアはグレタさんの外見をフェイク画像を使って揶揄するという非常に低レベルな反応をしたが、それに対し、グレタさんはツイッターに
と投稿するなどして応酬している。
日本の右派/保守層が事実に反してグレタさんを「中国の手先」とのレッテル貼りをしたいのは、不都合な真実から目を背けるためかもしれない。つまり、日本はCO2排出が極めて多い石炭火力発電に依存し、あまつさえ国外にも輸出しようとしていることだ(関連記事)。だが、温暖化防止を日本が中国に要求するにしても、自国が国際的な潮流に反して石炭火力発電に依存し、推進すらしているのでは説得力に欠ける。また、EUが導入を目指し、米国も追随の動きのある国境炭素税は、温暖化対策の不十分な国々からの輸出品に課税するというものであるが、このままでは日本からの製品も中国からの製品と共々、課税対象になりかねない。
○10億人の子ども達が危機に直面
グレタさんのニューヨーク・タイムズ紙への寄稿に話を戻すと、同寄稿文は、ユニセフ(国連児童基金)がグレタさんら温暖化対策を求める若者達の団体「フライデーズ・フォー・フューチャー」と共同発表した報告書に沿うものだ。『気候危機は子どもの権利の危機:子どもの気候危機リスク指数の紹介』と題され、今月20日に発表された報告書は、子ども達が温暖化による影響によってどれほど危険にさらされているかをまとめたもの。それによると、
などの気候・環境危機があるという。また、石炭や石油等の化石燃料の使用により、
と、同報告書は指摘している。世界中のほぼ全て、22億人の子どもたちがこれらの気候・環境危機のうち少なくとも1つに直面しており、推定8億5000万人の子ども達が、4つ以上の危機に脅かされているのだという。また、約10億人の子ども達が暮らす「極めてリスクが高い」と分類された33カ国について、報告書は「世界のCO2排出量のわずか9%にすぎない」として、最も責任のない国々の子ども達が最も苦しむことになる構図を指摘。上述のグレタさんのニューヨーク・タイムズ紙への寄稿文も、こうした温暖化被害の不平等さについて述べたものなのである。
○猶予は10年もない、脱炭素社会の実現を急げ
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書によれば、温暖化の破局的な影響を防げるかの大きな分かれ目となるのは、2030年だ。つまり、あと10年以内に世界全体のCO2の排出を半減させる必要があり、対策を怠れば温暖化の猛威に我々は直面することになる。幸いなことに、世界的に太陽光や風力などの再生可能エネルギーの技術は向上し、経済性でも原発や石炭に勝るようになっている。「天候まかせ」と揶揄された不安定さも大規模蓄電システムや、仮想発電所(需要者含む電力網全体で電気を融通するシステム)等の活用で対応可能だ。電気自動車(EV)の技術も既に実用レベルとなり、ノルウェイでは、昨年、新車販売全体の54%をEVが占めガソリン車を上回っている。日本においても、グレタさん叩きのような下らないバッシングをしている場合ではなく、脱炭素社会に向けた一層の取り組みが必要なのだ。
(了)