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社内でAIを巡る対立か OpenAIサム・アルトマンCEOが退社へ

山口健太ITジャーナリスト
サム・アルトマン氏(OpenAI DevDayイベントの動画より、筆者作成)

11月17日(米国時間)、米OpenAIがCEOのサム・アルトマン氏の退社を発表したことが話題になっています。

アルトマン氏は同社の「顔」として有名だったこともあり、さまざまな憶測が飛び交っているものの、その背景は事業運営についてのさまざまな対立が表面化したものとみられています。

OpenAI社内の対立が表面化か

OpenAIはサム・アルトマン氏やイーロン・マスク氏らが2015年に創業。その後、マスク氏は離れたものの、「Open」にはグーグルに対抗するオープンソースの非営利企業にする意味合いがあったと語っています。

しかし2019年には利益に上限を設けた営利企業「OpenAI Global, LLC」を設立。これを非営利企業の「OpenAI Inc.」が所有する形になっており、「営利と非営利のハイブリッド」と説明しています。

こうした背景もあり、アルトマン氏は単に企業のCEOというだけでなく、日本では岸田文雄首相と面会したり、直近ではアジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加したりと、AIの普及に取り組むリーダーとしても活躍していました。

米国で11月6日に開かれた開発者向けイベントに登壇したサム・アルトマン氏(OpenAI DevDayイベントの動画より)
米国で11月6日に開かれた開発者向けイベントに登壇したサム・アルトマン氏(OpenAI DevDayイベントの動画より)

アルトマン氏の退社が発表されたのは、OpenAIのX(Twitter)公式アカウントの投稿によれば米国太平洋時間の12時28分のこと。これは株式市場での取引が終わる13時(米国東部時間16時)の約30分前というタイミングです。

発表文では、「OpenAIの設立と成長におけるサム(・アルトマン氏)の多大な貢献に感謝する」としつつも、「取締役会とのコミュニケーションに一貫して率直さを欠いており、責務を遂行する妨げになっていると判断した」と否定的に表現しています。

また、共同創業者であるグレッグ・ブロックマン氏について、この発表の中では会長職を退任するものの会社には残る形となっていましたが、その後、退社の意思を示したことをXに投稿しています。

ブロックマン氏の別の投稿によれば、アルトマン氏は当日の正午に設定されていたビデオ会議の中でCEO解任を告げられたとのこと。そこから12時28分までの間に、Webサイトに発表文が掲載されたとみられます。

背景として、多額の出資をしているマイクロソフトの意向があったのではないか、との声はあるものの、実際には直前まで知らされていなかったとAxiosは報じています。

また、マイクロソフトが出資しているのは営利側の企業であり、今回のCEO解任は非営利側(OpenAI Inc.)の取締役会での決定であることから、マイクロソフトは関与できないとの指摘もあるようです。

それでは何が原因だったのか、Bloombergは関係者の話として、AIの開発スピードや商用化、AI倫理といった面で対立が激化していたと報じています。対立していた人物としては、取締役会のメンバーでもあるイリヤ・サツケバー(Ilya Sutskever)氏の名前を挙げています。

OpenAIの社内でさまざまな対立があることは以前から知られていました。たとえばChatGPTのライバルとして話題の「Claude 2」を発表したAnthropicは、OpenAIの元従業員が立ち上げています。

AIの開発や運用には莫大なコストがかかることから、具体的な収益に結びつける必要性が高まる一方、人間を置き換える可能性が高まる汎用人工知能(AGI)については、規制を求める声も出てきています。

今後の展開は?

OpenAIの最大のパートナーといえるマイクロソフトは、CEOのサティア・ナデラ氏がOpenAIと長期的な契約を結んでいることに触れ、暫定CEOのミラ・ムラティ氏と引き続き協業していく方針を語っています。

国内では楽天がOpenAIと協業しています。アルトマン氏はスタートアップ企業のアクセラレーターとして有名な「Y Combinator」を率いていた時期があり、YouTubeには楽天の三木谷浩史社長にインタビューする2012年の動画が残っています。

2023年8月には、楽天のイベントにサム・アルトマン氏がビデオ通話で出演。AIサービスで協業するという基本合意に基づき、11月14日には新たなAIプラットフォームとして「Rakuten AI for Business」を発表していますが、今後に影響はあるか気になるところです。

イベントにビデオ通話で参加したサム・アルトマン氏(Rakuten Optimism 2023の基調講演動画より)
イベントにビデオ通話で参加したサム・アルトマン氏(Rakuten Optimism 2023の基調講演動画より)

また、OpenAIを追い出される形になったアルトマン氏、ブロックマン氏の両氏が、次にどのような動きをしてくるのかという点についても大いに注目されそうです。

追記:

CEO退社の発表後、翌18日には投資家からの圧力を背景に、OpenAIの取締役会はサム・アルトマン氏をCEOに戻すことを議論しているとThe Vergeなどが報じています。

追記:

11月19日(米国時間)、サム・アルトマン氏はOpenAIのオフィスを訪れた写真を投稿。復職に向けた議論があったと考えられるものの、決裂したとみられ、新たな暫定CEOとしてTwitchの元CEOであるEmmett Shear氏を招き入れています。

同日23時55分、米マイクロソフトはサム・アルトマン氏とグレッグ・ブロックマン氏の両氏が入社し、先進的なAI研究チームを率いることを発表しました。

追記:

11月21日(米国時間)、OpenAIはサム・アルトマン氏がCEOに復帰するとXの公式アカウントから投稿しました。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOも話し合いに参加し、合意したと語っています。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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