Yahoo!ニュース

動きの遅い台風10号は進行方向右側と左側で大きな差がない 可航半円は帆船時代の話でどちら側も危険

饒村曜気象予報士
帆船(提供:イメージマート)

台風の進行方向右側と左側

 台風の性質は千差万別で、教科書等で説明しているものはあくまで一般的な話です。

 台風の進行方向右側(北上する台風であれば東側)は、進行方向左側(北上する台風であれば西側)に比べて風が強いとよく言われます。

 これは、台風全体を移動させる風Aと、台風自身の風Bが強めあうのが進行方向右側で、これを「危険半円」といいます。反対に、弱めあうのが進行方向左側で「可航半円」です(図1)。

図1 台風のモデル的な風
図1 台風のモデル的な風

 実際の台風の風はそのようになっていることが多いのですが、誤解もあります。

 まず、危険半円・可航半円という言葉は帆船時代にできた言葉です。帆船(タイトル画像)は動力が風ですから、台風の中心から逃れようとするときに、向かい風となる右側は逃げることができないので「危険」です。

 反対に左側は、台風の中心から逃げようとするときに追い風となるので「可航」です。

 台風の中心付近は、可航半円であっても強い風が吹くため危険ですが、とにかく可航半円に入り、追い風を利用して脱出するという操船が行われました。

 決して「航海できるほど安全」という意味で「可航」という言葉を使っているのではありません。進行方向左側でも、台風の中心付近では強い風が吹き危険です。

 また、日本海沿岸の台風のように、右側の陸地を通って吹いてくる減衰した風より、海から吹いてくる左側の方が強いこともあります。

 さらに、動きの遅い台風は、加えたり減じたりする風速が小さいので、右側と左側の差がでません。「進行方向右側が左側より危険」というのは、台風全体を移動させる風が強い(動きの速い)台風の場合です。

 現在北上中の台風10号の場合は、動きが遅く、進行方向右側と左側で大きな差がありません。

 台風が接近する地方では、台風の右側、左側にかかわらず、暴風や高波、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に厳重に警戒してください。

台風10号が鹿児島県・奄美大島に接近

 強い台風が鹿児島県・奄美大島近海にあって、発達しながら北上中です。

 8月27日3時では、970ヘクトパスカル、最大風速40メートル、最大瞬間風速55メートルで、25メートル以上の暴風域は中心から95キロと、右側・左側同じ距離です。

 台風が発達する目安とされる海面水温は27度ですが、台風10号は、この温度を上回る暖かい海を北上する見込みです(図2)。

図2 台風10号の進路予報(8月27日3時)と海面水温
図2 台風10号の進路予報(8月27日3時)と海面水温

 台風情報は最新のものをお使いください。

 気象庁が発表している3時間ごとの暴風域に入る確率で、一番大きな値となっている時間帯が台風10号が最接近する時間帯です。

 鹿児島県奄美地方北部では、8月27日の夜のはじめ頃(18時から21時)と夜遅く(21時から24時)が一番大きい数字、97パーセントですので、この時間帯に台風の最接近が予想されていることになります(図3)。

図3 各地における3時間ごとの暴風域に入る確率
図3 各地における3時間ごとの暴風域に入る確率

 そして、鹿児島県の鹿児島・日置では29日昼前(9時から12時)か昼過ぎ(12時から15時)、福岡県の福岡地方では29日夜遅くから30日未明(0時から3時)、高知県の高知中央では昼過ぎに台風が最接近と、奄美大島に最接近してから、かなり時間がたってからです。

 これは、台風10号の速度が、時速10キロと自転車並みのゆっくりした速度で進んでいるからです。

強い台風より動きの遅い台風に警戒

 秋から冬にかけての日本上空は、強い西風が吹いており、この西風によって台風は速度を上げるのですが、夏は、この強い西風が北上して弱まっています。

 このため、夏台風は、今回の台風10号のように、動きが遅いものが多いという特徴があります。

 ただ、台風の動きが遅いということは、台風によって強い雨が降り続くことを意味します。

 強い台風により猛烈な雨が降ったとしても、動きが早ければ総雨量は多くなりませんが、動きの遅い台風は強い雨が降る時間が長くなり、記録的な大雨となった事例が過去に多くあります。

 台風10号も、動きが遅いことから、8月27日0時から29日24時までの72時間では、九州南部で800ミリ以上、四国でも500ミリ以上という記録的な大雨の可能性があります(図4)。

図4 72時間予想降水量(8月27日0時から29日24時までの72時間)
図4 72時間予想降水量(8月27日0時から29日24時までの72時間)

 本州付近には、前線が発生する可能性があり、前線と台風という危険な組み合わせによって、総雨量が1000ミリを超える記録的な降り方をするかもしれません。

 今週は大雨に厳重な警戒が必要な一週間になりそうです。

図1の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100・一生付き合う自然現象を本格解説、オーム社。

図2、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事