「稼がない」観光に逆戻り:客数に応じた補助金制度案
一見して、「ナンジャソリャ」の制度案が報じられました。以下、日経新聞からの転載。
観光客数に応じ補助金増 政府、文化財施設の競争促す
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H0T_T20C16A4PE8000/
政府は文化財施設の運営や文化財を生かした地域活性化事業について、観光客数の増加分に応じて補助金を増やす。運営主体の自治体などに、案内板の多言語化やウェブサイトでの情報発信など訪日外国人客らの誘致に向けた競争を促す。2020年に訪日客を4000万人に増やす目標の達成に向け、新たな成長戦略に盛り込む見通しだ。
政府は城や寺といった有形文化財がある施設の運営費や、無形文化財である地域の伝統行事などの活動費をほぼ一律で5割程度補助している。この補助率を外国人を含む観光客数の増加分に応じて上乗せし、集客増に向けた新たな試みを促す。 […]
安倍政権は、昨年6月に発表した改訂版経済成長戦略の中で「観光の『稼ぐ力』を育てる」という政策目標を明確に示し、観光客の頭数(あたまかず)のみでカウントしていた観光振興政策の効果を「消費誘発量」で評価するという新たな指針を示しました。しかし、上記の施策案はその新たな方針を改めて過去の「頭数(あたまかず)」でカウントする方式に引き戻すものであり、現在の安倍政権が示す観光振興方針に逆行する施策であると言えます。
この辺に関しては、過去に膨大な量のエントリを書いています。以下はその一部。
この客数ベースの補助金政策に関して、「街づくり業界の狂犬」の異名でご活躍の友人、木下斉氏が非常に本質を突いた発言をしています。
まさに木下氏の仰る通りで、この客数に連動した補助金システムだと観光客の送客側に居るツアー会社などは、各文化財施設と共謀して政府補助を「山分け」する目的で、自ツアーの中に大量に文化施設の訪問を盛り込んで観光客が望んでもない施設への送客を始めます。
これは端的に言うと、我々が日本から格安ツアーなどで海外旅行に行くと、滞在期間中にワケの判らん民芸品店なんかに無理やり立ち寄らされて時間を浪費させられるのと同じシステム。その分犠牲になるのは市中でのショッピングや、様々な遊興などを行う滞在時間であり、結果として観光客が消費機会を喪失し、滞在中の観光消費額が逆に低下しかねない施策であるといえます。
上記記事の文面中には「文化財」というワードが繰り返し使用されており、何となく観光庁ではなく文化庁側が発信した施策であるような印象も受けていますが、いずれにせよせっかく「稼ぐ観光」路線が政府に明確に出てきた事で、良い流れになってきたなと思っていたところでの、本施策の発表はガッカリ感が否めません。