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小学生が「事故死」 USJでも死亡事故が起きたフォークリフトの危険性とは?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(提供:イメージマート)

年間20人以上に及ぶフォークリフトの労災死者

 8月28日の夕方、群馬県前橋市の住宅兼設備会社の敷地において、フォークリフトの使用が原因となり、小学校3年生の女の子が亡くなるという痛ましい事故が起きた。

 本記事執筆時点での報道によると、父親がフォークリフトのフォークに厚さ26センチ、重さ約150キロのパレット(荷物を乗せるすのこ状の台)を差し込んで高さ3メートルまで引き上げ、ベルトを吊るして「ブランコ」にして女の子を乗せていたところ、パレットが落下し、女の子の頭に当たってしまったという。

 本件は業務上の事故ではないが、フォークリフトによる死傷事故が発生するのは、一般的には職場での労災となるだろう。フォークリフトによる労災事故は非常に多い。2021年だけで死亡事故は21件、死傷事故は2028件も発生している。

 フォークリフト労災の実態については、今年7月にもユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で死亡事故が発生したばかりだ。

参考:USJで死亡事故! 知られざる「フォークリフト労災」の5つの違法行為

 実は、厚労省が深刻な労働安全衛生規則違反があるとして書類送検にまで踏み切った事件のうち、労災の「起因物」として一番頻出するのもフォークリフトである(直近の過去1年間で20件である)。そして、上記の記事でも示したように、フォークリフト使用に際して、安全対策がされていないために労災事故が起きるパターンはいくつかに分類できる。そのうち今回のケースでは、「用途外使用」と「立入禁止」の二点を特に指摘することができる。

 本記事ではこれらの論点を軸に、今回の事故と近年の労災事故の事例を通じて、フォークリフトの危険性について改めて考えてみたい。

鳥の駆除のため、クモの巣を掃除するため、雨漏りを直すために転落で死傷

 フォークリフトは、フォークの部分に荷を積み、その荷をフォークごと昇降させて、運搬するための車両である。下図のような機械を倉庫や港など目にしたことがある方も多いはずだ。

 自由に移動して、重量物を簡単に持ち上げることができるフォークリフトは大変便利であり、いろいろな場面で活用できる。だが、労働者を昇降させたり、荷を吊り上げたりなどの「主たる用途以外の使用」は原則として禁止されている(労働安全衛生規則第151条の14)。

フォークリフト
フォークリフト提供:イメージマート

 それでも、「出来心」で、あるいは恒常的に、フォークリフトを用途外で使用する現場は非常に多く、それを原因とした労災死傷事故は後を絶たない。中でも、今回の群馬の事故のようにフォークリフトをブランコとして使用するのは、「用途外使用」の危険性が際立っている。

 より一般的なフォークリフトの「用途外使用」として多いのは、労働者をパレットに乗せて持ち上げ、高所で作業をさせるケースだ。

 普段の作業では行っていなかったとしても、高さ数メートルの箇所で作業する必要性が急遽生じたときに、ちょうど良いからと人間を乗せてしまうケースも多い。下記のような事例がある。

害鳥を駆除しようとして墜落し意識不明に

 2022年4月、愛知県の貨物取扱業者が、害鳥を駆除する設備を設置しようとして、25歳の男性労働者をフォークリフトの簡易作業台に乗せ、高さ約6メートルの位置で作業させ、そのまま別の場所に移動させようとしたところ、フォークリフトがバランスを崩して転倒。男性は墜落して頭部を打ち、意識不明の重体になった。会社は7月に書類送検された。

蛍光灯を交換し、クモの巣を掃除しようとして墜落死

 2018年8月、大阪府の運輸会社が、倉庫の天井の蛍光灯を交換しようとして、40代の男性労働者をフォークリフトのパレットに乗せて、高さ約5メートルの位置で作業させた。その後、近くのクモの巣を取り除くため運転者が濡れ雑巾を持ってくる間に、男性が墜落。翌日死亡した。会社は12月に書類送検された。

雨漏りするバスの窓を修理しようとして墜落死

 2016年6月、岩手県の運輸会社が倉庫内で、大型バスの雨漏りする窓枠を修繕するため、フォークリフトのパレットに50代の労働者を乗せて、高さ約2メートルの位置で作業させたところ、墜落して脳挫傷等で5日後に死亡。会社は翌年6月に書類送検された。

 一方で、恒常的な作業の一環として、用途外使用が行われていたと思われる事例も多い。当たり前だが、「いつもやっている」からと言って、事故が起きないとは限らない。労働安全衛生規則に違反する危険な作業を日常的に行わせる職場は非常に危険である。

配管の撤去作業で高さ2メートルから転落して頸髄損傷

 2020年9月、新潟県の商業施設解体工事現場で、会社が天井配管の撤去作業中、フォークリフトのパレットに労働者を乗せ、床面から約2メートルの高さに上昇させていたところ、労働者が墜落して頚椎損傷などの重傷。会社は翌年11月に書類送検された。

荷降ろし作業中に高さ1.2メートルから転落して重傷

 2020年5月、岡山県の園芸資材製造販売会社が、工場内の荷降ろしのためにフォークリフトのパレットに50代の男性労働者を乗せて、高さ1.2メートルの位置で作業させていたところ、労働者が転落し、頭を強く打ち重傷。会社は9月に書類送検された。

 もちろん、ここまで紹介した事例は、あくまで一部に過ぎない。

 なお、フォークリフトの「用途外使用」は原則禁止であるが、労働安全衛生規則第151条の14には、「ただし、労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りでない。」というただし書きがある。では「危険を及ぼす恐れのないとき」とは、どのような条件を意味するのだろうか?

 厚労省の通達は、人の昇降については、「フォークリフト等の転倒のおそれがない場合で、パレット等の周囲に十分な高さの手すり若しくはわく等を設け、かつ、パレット等をフォークに固定すること又は労働者に命綱を使用させること等の措置を講じたとき」(昭和53年2月10日付基発第78号)を指すと定めている。

 このため、フォークにゴンドラ(高所作業台)をしっかり固定して取り付けるなどすれば、人を乗せて上昇させることは可能だ。とはいえ、慎重に使用することが必要であるのは言うまでもないだろう。

フォークリフトの「荷の吊り上げ」は、滑り落ちる危険性が高い

 フォークリフトの「用途外使用」は、人間をパレットに乗せて上昇させるだけではない。フォークによって荷を吊ることも原則的に禁止されている。実際、フォークに吊り下げた荷が滑り落ちてしまったり、荷を支えるロープが切れてフォークから落ちてしまったりなどの危険性は高い。

 フォークリフトの荷の吊り上げによる労災事故の例も紹介しておこう。

フォークリフトで袋を吊り上げたため、墜落死

 2020年1月、大阪府のプラスチック製品加工会社において、60代の男性労働者が、高さ2メートルのトラック荷台に積まれたフレキシブルコンテナバッグ(土砂や穀物のような粉末・粒状のものを運搬するために使う、吊るためのベルトやロープのついた大型の袋)の上で、そのロープを結びつける作業をしていたところ、フォークリフトでフレコンバッグを吊って運搬する作業の影響でバランスを崩し、墜落死。会社は9月に書類送検された。

 今回の群馬の事故も、フォークリフトのフォークに差し込んだパレットにベルトを垂らして小学生を吊っていたところ、「荷」であるパレットが滑り落ちてしまった事故と類似している。しかも、ブランコとして使用するという条件が重なり、よりいっそう滑り落ちやすくなっていた可能性がある。

 なお、荷を吊り上げる作業も、「労働者に危険を及ぼすおそれのないとき」に該当さえすれば、一般的に問題ないとされている。具体的には、荷がずれ落ちないように、フォークに滑り止めやフックのあるアタッチメントをつけるなどして使用することが挙げられる。とはいえ、これらも過信せず、慎重に使用することが重要だろう。

荷の下に入ってはいけない! USJの悲劇と重なる点

 今回の群馬の事故では、「用途外使用」だけでなく、フォークリフトに関して労働安全衛生規則が定める「立ち入り禁止」という点に反しているという見方もできる。

 労働安全規則第151条の7によれば、フォークリフトまたはその荷に接触することで危険が生ずるおそれのある箇所には、労働者を立ち入らせてはならないとされている。また、第151条の9では、フォークによって支えられている荷の下に労働者を立ち入らせてはならないとされている。

 これに違反して発生した典型例が、先日のUSJの労災事故だろう。今年7月、大阪市のUSJのバックヤードで、物流会社に勤務する28歳の男性が、落下した木箱の下敷きになって亡くなったと報道された。報道によれば、亡くなった男性は、配電盤が入った重さ約2トンの木箱をトラックからフォークリフトで降ろす作業中、フォークリフト上でバランスを崩した木箱を支えようとして、落下して木箱の下敷きとなったということだ。被害者は荷の下に立ち入ってしまったことが疑われる。

 労働安全衛生規則から考えてみると、今回の群馬の事故において、被害者の小学生はフォークで支えている約150キロの「荷」の真下にいたといえ、労働災害で言えば「立ち入り禁止」に該当する、極めて危険な状況で遊んでいたことがわかる。

 本記事で紹介したような危険性がもっと知られていれば、今回の小学生を襲った悲劇は食い止められたかもしれない。だが被害が起きてしまった以上、二度と同じような事故が起きないように、しっかりフォークリフトの危険性と安全対策を具体的に把握することが重要だろう。

 今回紹介したように、職場で労災事故が発生しそうな危険な業務をさせられそうになっているときは、できるだけ拒否し、外部の相談窓口に相談して改善を試みてほしい。また、仮に自分や家族・友人が労災事故に遭ってしまった場合は、労災保険制度の利用だけでなく、会社の責任を追求し、損害賠償を請求してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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