NFLスカウトも面白い存在だと注目する日本人アメフト選手、庄島辰尭
約100人のNFL関係者が、庄島が参加したプロディを視察
昨シーズンはUCLAの全試合に出場した庄島辰尭庄島に興味を持っているNFLチームは複数あり、ドラフト指名外選手としてNFLの新人ミニキャンプに呼ばれる確率は低くはない。
3月中旬に行なわれたUCLAのプロディにはNFL全32球団合わせて100人近くのジェネラルマネージャーやヘッドコーチ、スカウトが集まったが、その中でパフォーマンスを披露した庄島に興味を示したチームは少くなかった。
プロディを視察したNFLのスカウトの一人は、「思っていたよりも身体能力が高い選手だし、パワーもあるので面白い存在だ。今日、彼を見たスカウト陣の中で、もう少し彼を見てみたいと強く思った者が1人でもいれば、ルーキーキャンプに招待されるだろう。今日の出来は良かったので、ルーキーキャンプに呼ばれるべき選手だと思ったよ」と高評価を与えた。
毎年、UCLAからは複数の選手がドラフトで指名され、ドラフト外を含めると新人ミニキャンプに呼ばれる選手は二桁に上る。昨年度のドラフトでは、1巡目1人を含む5選手がドラフトで指名され、6人のドラフト外選手を加えると11選手が新人ミニキャンプに参加した。
身長190センチ、体重130キロの庄島は、NFLのセンターとして十分なサイズを持っている。
昨季、AP通信が選んだNFLのオールプロ(ポジション別の最優秀選手)で、センターとして選ばれたのはスーパーボウル優勝を果たしたフィラデルフィア・イーグルスのジェイソン・ケルスだが、彼のサイズは191センチ、134キロで庄島とほとんど変わりない。
2011年のNFLスカウティング・コンバインにケルスが参加したときには、体重127キロで今の庄島よりも軽かった。そのときにケルスが出した記録は、40ヤード走(36.6メートル)が4.89秒。これはその年のオフェンシブ・ラインマンの中で最速だったが、庄島も40ヤードを4.97秒で走る。40ヤード走を5秒以下で走れるオフェンシブ・ラインマンはNFLでもトップクラスのスピードを誇る。
ペイトリオッツの先発センター、デビッド・アンドリュースはドラフト指名外からスーパーボウルの先発センターに上り詰めたが、191センチ、134キロと庄島と全く同じサイズ。プロ入り前のデータは、40ヤードが5.12秒と庄島よりも遅い。
庄島はベンチプレスで177キロを上げ、バックスクワットでは327キロも上げるパワーを誇る。今年のスーパーボウルで先発を務めた2人のセンターにサイズ、パワーでは対等に渡り合えるが、NFLのセンターに最も求められるのはフットボールIQの高さとリーダーシップ。
これこそが庄島の最大の武器であり、庄島がNFLでも通用すると思わせる最大の理由だ。
UCLAのオフェンシブライン・コーチとして庄島を指導したエリドリアン・クレムも「ジオはとてもクレバーで賢い選手。とてもタフで、どんな困難に直面しても決して弱音を吐かない。リーダーとしての素質も備えている点も気に入っている」と庄島のフットボールIQとリーダーシップを高く評価していた。
このクレムだが、トム・ブレイディが6巡目でペイトリオッツからドラフト指名を受けた2000年のドラフトで、ペイトリオッツに2巡目で選ばれた「ブレイディより先に選ばれた男」。ペイトリオッツとパッカーズ合わせてNFLで合計6シーズンをプレーして、3度もスーパーボウル王者に輝いた「持っている男」でもある。
リーダーシップに関しては、短大時代にキャプテンとして、チームをカンファレンス王者に導き、UCLAでもスペシャルチームのキャプテンとして、スペシャルチームを引張ってきた。
チームメートたちは、努力を惜しまずに、常に前向きな姿勢を保ち続ける庄島をリスペクトしている。プレーチャンスが巡って来なくても不平不満を漏らすことなく、どうすれば向上できるかだけに集中してきた庄島は、チームにプラス効果をもたらせる選手だ。
USニュース社による世界大学ランキングで13位のUCLA(日本の大学では東京大学の57位が最高位)で、優秀な学業成績を収めてきた庄島の頭の良さは疑いの余地がなく、その賢ささはフットボール・フィールドでも発揮されてきた。
センターというポジションは、オフェンシブラインの中心的な役割を担い、相手ディフェンスの布陣を見て、瞬時に味方のラインマンたちに指示を出せるだけの戦術理解力と判断力が要求される。
日本人初のNFL選手を目指す庄島は、田臥や福藤に通じるものを感じさせる
筆者はこれまで数々の日本人初の場面に立ち会ってきた。
マッシー・ムラカミこと村上雅則が日本人初のメジャーリーガーとなった1964年には、まだ筆者は生まれていなかったので、昔の文献を読んだ程度の知識しかない。2004年に日本人初のNBA選手となった田臥勇太と、2005年に日本人で初めてNHLのリンクでプレーした福藤豊のパイオニアたちは、マイナー時代から追いかけて、その軌跡を間近で目撃してきた。
その時の田臥と福藤から感じたものと同じ雰囲気を庄島も発している。
野茂やイチロー、大谷のようにアメリカでのプロ1年目からスーパースターとして大ブームを巻き起こすような活躍はできなくても、田臥や福藤と同じように下部リーグで揉まれながら、トップリーグ昇格を決して諦めることなく、上だけを見て必死に這い上がっていく。庄島にはそんな覚悟と諦めない力がある。
日本人として初めてNCAA(全米大学体育協会)のメジャー・カンファレンス校で公式戦に出場した庄島。そこまでの険しい道のりを切り拓いてきた彼ならば、まだ日本人が歩んだことがないNFLへの道も突き進めるはずだ。