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横綱不在の名古屋場所を引っ張る「大関取りトリオ」と上位陣撃破の錦木 その裏にある彼らの努力とは

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
7日目に朝乃山を下した豊昇龍(右)。9日目勝ち越しを決めた(写真:日刊スポーツ)

「大関取りトリオ」が好調の白星

大相撲名古屋場所は9日目を終え、明日からは終盤戦に突入。序盤では、3日目の取組で横綱・照ノ富士が腰を痛めて無念の休場。入れ替わるように新大関・霧島が4日目から出場し、一人大関として結びの土俵を務めている。

そんななかで、場所前から注目されていたのが「大関取り」の3人だ。しなやかな体と運動神経で魅せる豊昇龍、左四つで圧倒する若元春、そして回転力の高い突き押しが武器の大栄翔。霧島に続けと言わんばかりに、連日土俵を沸かせている。

大栄翔は9日目、同じく突き押し相撲の阿炎と対戦。もろ手突きで立ち合った阿炎をものともせず、左からいなしながらあっという間に押し出した。直近2場所は22勝で、ほか2人の21勝より一歩リードしている大栄翔。勝ち越しまであと1つとし、大関昇進の目安とされる「33勝」にもあと4勝である。3人のなかで唯一優勝経験者でもある故、特に期待が高まる。

若元春は宇良戦。もう小兵とはいえない宇良故、立ち合いからしっかりと受け止めると、持ち前の冷静さで攻めるタイミングを見計らう。土俵際まで押し込んでいくと、最後は下から右が入り、そのまま右からすくい投げ。得意の左四つとは反対になったが、冷静に対処した。これで若元春も2敗をキープ。今日以降の勝ち越しを目指す。

1敗の豊昇龍は、腰の重い平戸海と対戦。真っすぐ当たってきた平戸海を、その決して大きいとはいえない体で力強く受け止め、持ち前の動きのよさを生かして引きながら回り込む。左をしっかりとおっつけた後で、流れを止めずに右から足を掛けながら豪快に投げる。土俵際での華麗な掛け投げが決まった。まずは勝ち越し。豊昇龍らしい華やかな一番であった。

幕内力士のなかで珍しく「型がない」豊昇龍。型をもったほうがいいと言われることが多いなかで、本人はそれこそが自分の武器だと訴え続けてきた。これまでは相手の出方によって対応することが多かったのだが、今場所の豊昇龍はなんだかいままでと違う。豊昇龍らしい華やかさはそのままに、自分から攻めていく相撲、最後まで我慢して勝ち取る相撲が増えているのだ。「大関取り」ということが相撲に影響しているのか――。いずれにせよ、「型がないのは悪いことではない」という証明を自らの相撲で示しつつある彼に、また話を聞くのが楽しみである。

錦木・北勝富士も躍進 初優勝に向かう

「大関取り」の3人が注目されるなか、実は今場所をけん引しているのは、横綱をはじめ上位陣を次々となぎ倒してきた錦木である。2日目に照ノ富士を豪快なすくい投げで撃破すると、上記の関脇陣3人にも連日勝利。ここまで1敗をキープしている。

筆者が取材するなかで、精力的に出稽古に行っている印象がある錦木。八角部屋、荒汐部屋、立浪部屋――、あらゆる部屋に取材に行くなかで「あら、また会いましたね」と言葉を交わしてきた。もともとの実力と強い力はもちろん、日々の地道な努力に裏打ちされた結果が今場所の快進撃なのだろう。そう感じて筆者はとても腑に落ちている。

さらに、豊昇龍、錦木と並んで1敗を守っているのが9枚目の北勝富士である。連日、持ち前の馬力で相手をどんどん攻めているが、今場所は特に前に出る力が非常に強い。7月15日には31歳の誕生日を迎え、見事白星で飾った。子煩悩で家族思いな優しい一面のある北勝富士だが、土俵上では気迫を見せ、このまま白星を重ねていけるか。躍進の場所にしてほしい。

連日最も大きな声援を受けていた朝乃山が中日に休場するなど、残念なニュースもある一方で、伯桜鵬、豪ノ山、湘南乃海ら新入幕勢も日々奮闘。土俵に立つ力士たちは「一日一番」必死に戦っている。今日が終わると、これからいよいよ終盤戦。その戦いを最後まで見守りたい。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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