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元統一王者の激突を制すのはテイラーか、ロペスか 伊藤雅雪に勝った元世界王者が予想

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

6月10日 ニューヨーク

マディソン・スクウェア・ガーデン・シアター

WBO世界スーパーライト級タイトル戦

王者

ジョシュ・テイラー(英国/32歳/19-0, 13KOs)

12回戦

元WBAスーパー、WBCフランチャイズ、IBF、WBO世界ライト級王者

テオフィモ・ロペス(アメリカ/25歳/18-1, 13KOs)

 スーパーライト級、ライト級の元4冠王者同士の対戦という好カードが今週末、ニューヨークで実現する。

 レジス・プログレイス、ホセ・ラミレス(ともにアメリカ)といったスーパーライト級の強豪たちを下してきたテイラーが文句なしの実力者であることに疑問の余地はない。昨年2月の前戦ではジャック・カテラル(英国)に苦戦し、WBA、WBC、IBFの王座も返上(&剥奪)したが、強敵を迎え撃つ今回のWBO防衛戦でも予想オッズはやはりテイラーに優位と出ている。

 一方、ロペスは2020年10月、当時全階級最強候補と見られていたワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に判定勝ちする金星を挙げ、ライト級の4冠(WBCはフランチャイズ王座)を制して一挙に知名度を上げた。ただ、翌年の初防衛戦ではジョージ・カンボソス Jr.(豪州)にまさかの判定負けで王座陥落。スーパーライト級に上げて迎えた昨年12月の前戦でもサンドール・マーティン(スペイン)のアウトボクシングに苦しみ、判定勝ちは飾ったものの評価を下げている。

 このように確かな才能を備えながら、近況は少々微妙な2人の激突。楽しみなタイトル戦を前に、現在はESPN系列の解説者として活動する元WBO世界スーパーフェザー級王者ジャメル・ヘリングに予想、分析をしてもらった。かつて伊藤雅雪(現プロモーター)を下して世界王者になった聡明な37歳の目に、注目の一戦はどう映っているのか。

現役時代から聡明さに定評があったヘリング。解説者としても好評だ 撮影・杉浦大介
現役時代から聡明さに定評があったヘリング。解説者としても好評だ 撮影・杉浦大介

 テオフィモの心身のコンディションは良好なのか

 (以下、ヘリングの1人語り)

 今戦に際し、私はまずテオフィモがメンタル面でどんな状態かに注目しています。彼は最高級のツール、スキルを持っていますが、過去2年間、精神的に安定していないと指摘されてきました。まだハングリー精神、モチベーションは残っているのか、偉大なボクサーであり続けるための規律を持っているのか、証明されなければいけません。

 この試合はスーパーライト級での戦いであり、この階級でのテオフィモはまだ力を誇示してきたとは言えません。長くスーパーライト級で戦ってきたテイラー相手にその力が通用するのかどうか。昨年2月以来、久々のリング登場となるテイラーにも不確定要素は少なからずありますが、テオフィモの方が未知数の部分はより多く、彼のコンディションが最大の注目ポイントでしょう。

 試合展開を考えていくと、そろそろスーパーライト級では体重調整が厳しいことが予想されるテイラーに対し、テオフィモはロマチェンコ戦でやったように序盤から仕掛けていく必要があると思います。一方、テイラーはカンボソスが成功したように、テオフィモに対してアウトボクシングを試みるのが得策なのではないかと考えています。

 テイラー優位も、ロペスの潜在能力は侮れず

 テイラーに関して印象的なのは、距離の取り方のうまさとパンチのタイミングの良さ。自身のパンチを効果的に当てる狡猾さがある選手です。ラミレス戦を振り返っても、インサイドで巧みなアッパーを打ち込んでダウンを奪っていました。パワーは過小評価されていると思いますし、プログレス戦で打たれ強さを証明したと言えるでしょう。

Mikey Williams/Top Rank via Getty Images
Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

 ただ、現時点でフィジカル面でどちらがフレッシュな状態かと言えば、やはりより若いテオフィモの方だと思います。テイラーも多くのバトルを経験し、消耗は少なからずあるはず。プログレイス戦は勝利を収めましたが、テイラーもかなり被弾した上での激闘でした。前戦のカテラル戦でも敗北寸前の苦戦を経験したのはご存知の通り。ここ2年は試合間隔が空きがちだけに、力を出せる状態なのか、はっきりわからない部分はあります。

 ここで勝敗予想をするなら、やはり王者のテイラーに分があるとは思います。接戦の末、テイラーの判定勝ちと見ています。ただ、一方的な展開になるとは思えず、テオフィモとカンボソス戦がそうであったように、激しい攻防を続けた上、接戦のまま終盤を迎えると私は考えています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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