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私立学校の教員の残業代未払いは労働基準法違反!

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 学校教員の長時間労働に注目が集まっている。特に、公立教員を残業代の支払いの対象外とする「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)が長時間労働を助長しているとして、制度そのものの見直しが議論されるようになっている。詳しくは、名古屋大学大学院准教授の内田良氏の記事がわかりやすい。

残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度

 一方、給特法とは関係ないはずの私立学校の教員も、その多くで残業代が払われていない。給特法は「公立」の教員のみを対象としている。私立学校の教員には、一般的な労働者と同様に、労働時間や残業代について、労働基準法が適用されるはずなのだ。

 今年1月に発表された、私立校の労務管理の実態に関する調査報告書によれば、労働基準監督署から行政指導を受けた私立高校は全国で約2割に上るという。こちらも、内田良氏の記事が詳しい。

私立高校2割に労基署の指導・勧告 最新調査から私立高教員の働き方に迫る」

 公立教員に隠れて、なかなかその実態や対策が報じられづらい私立教員。本記事では、私立教員の労働問題の典型例と、具体的な相談事例を紹介したい。

私立教員が見落としがちな労働基準法違反

 まず最初に、基本的な法律の解説をしておこう。

 給特法により、公立教員は給料月額の4%分を「教職調整額」として支給される代わりに、「時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」と規定している。このため、公立教員は何時間残業しても、休日出勤しても、残業代が合法的に支払われないことになっている。

 しかし、私立教員であれば話は別だ。残業代が払われなければ、労働基準法37条違反である。学校の就業規則で「公立校に準ずる」などと書いてあったとしても、労働基準法が優先されることになるので無意味だ。

 典型的な労働相談を紹介しよう。

 ある私立高校で、1年の有期雇用契約で2年間務めていた教員の事例だ。募集要項には「残業なし」と書いてあったが、実際には月約30時間の残業があった。しかし、残業代は支払われず、給料は定額であった。2年で雇い止め(解雇)に遭ったので、残業代を請求しようとして管理職に問い合わせると、みなし残業代を支払っているので、支払えないと言われた。

 みなし残業代というのは、いわゆる「固定残業代」のことだ。月給の中にあらかじめ、数十時間分ほどの残業代を含ませることで、月給を高く見せかける手法である。公務員の「給特法」もこれと類似しているため、このような言い方をしているのだろう。

 しかし、この教員は面接や契約の際にもこの固定残業代について説明を受けておらず、就業規則を見せてもらおうとしても、「どこにあるかわからない」と拒否されていたという。

 固定残業代については、そこに含まれる残業時間を超えた分の残業代は、追加で払わなければならない。また、この事例のように、固定残業代が何時間の残業を含んでいるのかをあらかじめ説明していない場合は、固定残業代は無効であり、残業代が一切払われていないという扱いになるので、かなりの額の賃金未払いとなる。

 上記の内田氏の二つ目の記事でも紹介されているように、公立学校にならって一定額の手当を支払って残業代の代わりとしている私立学校は非常に多い。しかし、私立学校の場合には、その額が実際の残業時間と照らすと少なかったり、そもそも手当の内容を説明していなければ、残業代を支払わないと労働基準法違反となり、残業代の請求をすることができるのだ。

36協定のない残業も労働基準法違反

 さらに忘れられがちなのが、36協定(時間外労働・休日労働に関する労使協定)の締結である。労働基準法では、1日8時間、週40時間を超える労働は、労使で36協定を締結しない限り禁止されており、違法な残業となる。36協定で残業時間の上限を定めていた場合は例外となり、協定で定めた上限時間までの残業は合法となる。

 ただし、労基法では「公務のために臨時に必要がある場合」についても、上記の残業時間規制の特例としている。給特法では、まさにこの特例に公立教員も当てはまると定めており、公立教員は残業を何時間しても、労働基準法に違反しないのである。

 一方、私立教員はこの例外とも関係がない。もし1日8時間・週40時間を超える労働をしているにもかかわらず、36協定を締結していないのであれば、直ちに労基法違反となる。

 36協定があったとしても、実際の残業時間がそこに定めた上限を超えていれば、やはり違法な残業として労基署の取り締まりの対象となる。

 また、36協定を締結するには、労働者の過半数の代表を選挙などで選出しなければならない。代表が適切に選ばれていなければ、36協定は無効となり、1日8時間・週40時間を超える労働は違法となる。

 このように私立学校は、一般の労働者同様に、教員に残業代を払わなければならないし、36協定も締結して残業時間の上限を守らなければならない。しかし、「教員」であることを理由として、労働基準法を軽視している学校や教員は少なくない。給特法の見直しによる公立教員の労働条件改善が喫緊の課題である一方で、すでに労働基準法が適用されているはずの私立教員の労働条件を改善することも急務だろう。

 NPO法人POSSEでは、私立教員を対象としてホットラインを実施する。ぜひ相談してみてほしい。

私立教員 労働相談ホットライン

日時

2018年3月24日(土)10:00~13:00 3/25(日)13:00~17:00

電話番号 0120-987-215(通話無料)

※相談無料・電話無料・秘密厳守

常時の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

総合サポートユニオン

03-6804-7650

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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