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東日本大震災以降メディア露出件数は6倍に!食品ロスを活かし食料を必要な人に届けるフードドライブの魅力

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:Splash/アフロ)

全国にじわじわと広がり始めているのが「フードドライブ」。「ドライブ」という文字を見ると、反射的に自動車や車の運転を思い浮かべるが、英語では、"organized effort or campaign to achieve"、すなわち、「募集のための宣伝」や「運動」という意味もある。

米国では、余った食品を集めて活用する「Food Drive(フードドライブ)」の他に、Paper Drive(古新聞を集める運動)やBook Drive(本の寄付)、Toy Drive(おもちゃの寄付活動)、Clothing Drive(衣類の寄付)、Uniform Drive(不要な制服の寄付)、Blood Drive(献血運動)など、さまざまな「ドライブ」がある。

日本では東日本大震災以降、メディア露出件数が6倍に増加

もともと米国で始まったもので、海外では日常的に見かける活動だが、日本では、ほとんど知られていなかった。「フードドライブ」と聞いても「何それ、車?」という感じだった。

それが、東日本大震災の発生した2011年以降、じわじわと実施が増えてきている。日本最大級のビジネスデータサービスG-Search(ジーサーチ)で、主要メディア150紙誌に登場した「フードドライブ」という語句の回数を調べてみた。

2011年には一年間に49件だったのが、2012年には60件台、2015年には121件になり、2017年には294件、2018年は10月16日時点で312件と増えている。

主要メディア150紙誌に登場した「フードドライブ」の回数(2011年1月1日〜2018年10月16日まで)(データを元に筆者作成)
主要メディア150紙誌に登場した「フードドライブ」の回数(2011年1月1日〜2018年10月16日まで)(データを元に筆者作成)

「フードドライブ」がじわじわ広がってきた背景とは

なぜ日本になじみのない「フードドライブ」が、じわじわと広がってきたのだろうか。

一つのきっかけは、2015年4月に制定された、生活困窮者自立支援法ではないだろうか。生活困窮者の全てが生活保護を受けられる訳ではない。条件に合わずに申請しても許可されない場合もあるし、疾病などの理由で申請できないこともある。そのような、生活保護を受けられない生活困窮者を支援するために、この法律が制定された。

この後から、全国のフードバンクには、食料支援の数が急増した。多いところでは10倍以上に増えたところもある。とはいえ、2018年10月時点で全国のフードバンクの団体数は80程度。急増する需要に対し、十分に食料を供給できるとは限らない。

そこで、地域で消費者に呼びかけて、家庭で余っている食料を持ってきてもらい、集まった食料を必要とする人に届ける「フードドライブ」の必要性が高まってきたのではないか、と推察している。

(1)フードバンク団体が実施する場合

それでは、どのような組織がフードドライブを実施しているのだろうか。

一つは全国のフードバンク団体だ。

たとえば、筆者は2018年10月16日に岩手県盛岡市主催のシンポジウムで、約500名に食品ロスに関する基調講演を行ったが、その会場ではフードバンク岩手がフードドライブを実施していた。

2018年10月16日、岩手県盛岡市主催のシンポジウム会場で行われたフードバンク岩手のフードドライブ(筆者撮影)
2018年10月16日、岩手県盛岡市主催のシンポジウム会場で行われたフードバンク岩手のフードドライブ(筆者撮影)

(2)フードバンク団体と行政が連携する場合

二つ目には、フードバンク団体と行政とが連携する場合が挙げられる。

2015年4月の生活困窮者自立支援法以降、要請が急増した、愛知県名古屋市のフードバンク、セカンドハーベスト名古屋は、岐阜県や三重県などの社会福祉協議会と連携し、食料を箱詰めし、一箱あたり決まった金額を社会福祉協議会(略称:社協)から受け取り、社協が生活困窮者に届けるという流れで食料支援を行なっている。

その元となる食料は、食品企業からケース単位で送られるものも多いが、名古屋市が主催して毎月、フードドライブを実施しており、これらも活用される。

(3)行政が行う場合

行政自身が行うケースも増えている。

たとえば前述の岩手県盛岡市はフードバンクポストを設置した。

東京都世田谷区は、以前から、区の環境イベントなどの際にフードドライブを実施していたが、2017年からフードドライブの常設化が始まった。

東京都杉並区や、東京都文京区東京都荒川区など、東京都23区の自治体でも常設化が増えている。

(4)大学が行う場合

四つめとして、大学(大学生)が文化祭やゼミなどで実施する場合がある。東洋大学では2018年7月、フードドライブを実施した。

フードドライブって何?家庭の食品ロスを減らして必要な人へ繋ぐ、低コストで出来る「地産地消」の社会貢献

東洋大学が2018年7月に実施したフードドライブ(東洋大学提供)
東洋大学が2018年7月に実施したフードドライブ(東洋大学提供)

(5)市民団体が行う場合

五つ目として、市民団体や有志で行う場合がある。

筆者は主宰している「食品ロス削減検討チーム川口」で毎年数回のフードドライブを実施している。2018年10月14日には、川口市主催のイベント、第17回ボランティア見本市で、フードドライブを実施した。

2018年10月14日、キュポラ広場(埼玉県川口市)で食品ロス削減検討チームが実施したフードドライブ(筆者撮影)
2018年10月14日、キュポラ広場(埼玉県川口市)で食品ロス削減検討チームが実施したフードドライブ(筆者撮影)

(6)その他

他にもいろいろなパターンがある。イギリスのフードバンクを取り上げた映画「わたしは、ダニエルブレイク」を上映した際には、映画館で、缶詰に特化したフードドライブが実施された。

映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(第69回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作)とフードバンク

2017年3月、映画館で実施された、缶詰に特化したフードドライブ。集まった缶詰はフードバンク団体へ提供された(筆者撮影)
2017年3月、映画館で実施された、缶詰に特化したフードドライブ。集まった缶詰はフードバンク団体へ提供された(筆者撮影)

フードドライブを実施する際の留意点

では、実際にフードドライブを実施する場合、何に気をつけたらよいだろう。

基本的に個人の方から食品を持ってきてもらうので、安全性を担保するのが第一だ。欧米では、賞味期限が長い食品(たとえばシリアルやパスタなど)は、たとえ賞味期限が過ぎてもフードドライブやフードバンクで活用できるルールを決めている場合が多い。日本もそうありたいが、フードドライブすら浸透していない現在、時期尚早かもしれない。多くの団体は、「賞味期限が残り1ヶ月以上残っている、未開封の物を」と呼びかけて集めている。

倉庫も人もお金もない どうしたらフードドライブができる?

いざ、やろうと思っても、倉庫もないし、人もいない、お金もない。どうしたらフードドライブができるだろう?

筆者の主宰の「食品ロス削減検討チーム川口」の事例を参考に挙げてみたい。

2018年10月14日に実施したフードドライブ。右は川口市のゆるキャラ、きゅぽらん(筆者撮影)
2018年10月14日に実施したフードドライブ。右は川口市のゆるキャラ、きゅぽらん(筆者撮影)

集客

集客するには、人が集まるイベントの機会をとらえるのが一番だ。食品ロス削減検討チーム川口では、毎年、川口市が主催するイベントに連動して、その会場でフードドライブを行っている。そうすれば、人は自然に集まる。チラシは手作りで、市の掲示板や町内会の掲示板、マンションの掲示板に貼り出したり、投函したり、馴染みの店にお願いして配布してもらったりする。

川口市が毎年主催している「ボランティア見本市」。フードドライブはこの会場で実施した(筆者撮影)
川口市が毎年主催している「ボランティア見本市」。フードドライブはこの会場で実施した(筆者撮影)

倉庫

倉庫は要らない。あらかじめ、寄付先を決めておいて、フードドライブを実施するその日時に、来てもらう。

2018年10月14日のフードドライブでは、会場にこども食堂がいらっしゃったので、その場で寄贈した。保管場所は要らないし、保管している間に賞味期限が切れる心配もない。

フードドライブの会場で、集まった食品をこども食堂に寄贈。左が筆者、真ん中が「食品ロス削減検討チーム川口」副会長で市会議員の石橋俊伸氏(山中和政氏撮影)
フードドライブの会場で、集まった食品をこども食堂に寄贈。左が筆者、真ん中が「食品ロス削減検討チーム川口」副会長で市会議員の石橋俊伸氏(山中和政氏撮影)

人員

2018年10月14日の日曜日のフードドライブでは、市会議員2名、商店街1名、主婦の方2名、女子大生2名、食品企業社員1名、自営業2名の合計10名が集まった。本業のかたわら、休日に行った。毎月やるわけではないので、特に負担はない。できる範囲で行う。

フードドライブを実施した会場、川口市主催のボランティア見本市で挨拶する川口市長の奥ノ木氏(筆者撮影)
フードドライブを実施した会場、川口市主催のボランティア見本市で挨拶する川口市長の奥ノ木氏(筆者撮影)

資金

毎回、ほとんどお金をかけずにフードドライブを実施している。今回は、会場での集客のため、コーヒー(100円)や、おからケーキ(200円)、パン(300円)などを販売した。パンとおからケーキはメンバーのパン屋さんの収入とした。コーヒーの原材料費を差し引いて、「食品ロス削減検討チーム」としても、プラスの収入となった。

2018年10月14日のフードドライブで集まった食品の一部(筆者撮影)
2018年10月14日のフードドライブで集まった食品の一部(筆者撮影)

以上、東日本大震災以降、じわじわと全国で広がっているフードドライブについて説明してみた。食品管理や安全面に留意すれば、フードドライブは身近で実施しやすい取り組みだ。食品ロスを捨てずに活かすことができ、食料を必要とする方の助けにもなる。地域で実施し、地域の人に活かすことができるのが特長だ。

まだ実施したことがなく、フードドライブに興味を持っている方の参考になれば幸いである。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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