トルコ軍の爆撃でシリア軍兵士26人が新たに死亡する中、エルドアン大統領は北東部での安全地帯増設を主唱
イランのロウハーニー大統領が仲介を試みる
イランのIRNA通信は、ハサン・ロウハーニー大統領が2月29日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、ロシアのヴラジミール・プーチン大統領と個別に電話会談を行い、イドリブ県情勢への対応を協議したと伝えた。
エルドアン大統領との会談で、ロウハーニー大統領は、イドリブ県で「テロとの戦い」を行うことが重要だとしたうえで、「イドリブ県情勢の悪化は、どの国のためにもならない…。イドリブ県の危機は、政治的な対話で解決すべきで、アスタナ会議のプロセスを衰退させるべきではない」と伝えた。
また、「イラン政府は、シリアでの問題解決に向けたアスタナ会議のプロセスの一環として、イラン、ロシア、トルコの三カ国首脳会談を開催する用意がある」と付言した。
一方、プーチン大統領との会談では、アスタナ会議での合意の包括的な即時実施の重要性を確認するとともに、イドリブ県情勢を口実とした米国のシリア情勢への介入を許さないことが必要だと強調した。
トルコ軍ドローンの爆撃でシリア軍兵士26人、ヒズブッラー民兵10人が新たに死亡
イドリブ県では、英国に拠点を置く反体制系NGOのシリア人権監視団、アラビー21などによると、トルコ軍無人航空機(ドローン)が2月29日、M5高速道路沿線のマアッラト・ヌウマーン市、サラーキブ市、マアッルシューリーン村、ハーッス村、タッル・マルディーフ村一帯のシリア軍拠点、ナイラブ航空基地を爆撃した。
シリア人権監視団によると、この爆撃で、シリア軍兵士26人と、レバノンのヒズブッラーの民兵10人が新たに死亡したという。
トルコ軍はまた、地上部隊がサラーキブ市近郊、ザーウィヤ山にあるシリア軍の拠点を砲撃し、「決戦」作戦司令室を支援するとともに、ヒルバト・ジャウズ村に違法に設置されている国境通行所から戦車や装甲車など約120輌をシリア領内に進入させた。
「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構、トルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などならなる武装連合体。
シリア・ロシア軍も攻撃を継続
これに対して、ロシア軍戦闘機は、イドリブ県のサルミーン市、サラーキブ市、アーフィス村、アレッポ県のカフル・ヌーラーン村一帯、アターリブ市一帯を爆撃、シリア軍戦闘機もサラーキブ市およびその一帯を爆撃した。
シリア軍はまた、地上部隊がサラーキブ市、サルミーン市、ビンニシュ市、マストゥーマ村、クマイナース村、ダーディーフ村、ザカール村、マアッラト・ウルヤー村、カフルバッティーフ村、マアーッラト・ナアサーン村、ジャーヌーディーヤ町などを砲撃し、ビンニシュ市では子ども1人が死亡した。
シリア軍と「決戦」作戦司令室の一進一退の攻防続く
一方、イドリブ県ザーウィヤ山地方のスフーフン村、カフル・ウワイド村、ハマー県のクライディーン村、ザクーム村では、「決戦」作戦司令室がシリア軍に対して反転攻勢を加え、これら4カ村を制圧した。
これに対して、シリア軍が再び反撃し、スフーフン村とクライディーン村を奪還した。
シリア人権監視団によると、一連の戦闘で、シリア軍兵士23人、「決戦」作戦司令室戦闘員31人が死亡した。
トルコのエルドアン大統領はイドリブ県情勢をめぐってシリア北東部に「安全地帯」増設を要求
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、与党公正発展党(AKP)の党員を前に演説を行い、イドリブ県情勢をめぐって、同地ではなくシリア北東部国境地帯で「安全地帯」を設置し続ける意向を表明した。
北東部国境地帯は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の主導のもとに自治が行われている地域。トルコは昨年10月に国境地帯の一部を占領したが、ロシアが介入、漁夫の利を得るかたちでシリア軍が国境地帯に展開していた。
エルドアン大統領は「トルコはアサドではなく、シリア国民の要請を受けて、シリアに向かう」と述べてイドリブ県への侵攻を正当化する一方、「トルコはシリア領内に幅30キロの「安全地帯」を設置しようとし続けている」と強調、「しかし、ロシアと米国はテロ組織をシリア北部から排除するという約束を守っていない」と批判した。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)