子どもの解熱薬、市販薬でも良いですか?
現在、小児科の外来では、新型コロナだけでなく、さまざまな感染症の方があふれるような状況になっています。そして、発熱したときの解熱薬の使用に関して尋ねられることも増えています。
そこで、子どもの発熱に対する解熱薬の使用方法に関して、簡単に解説してみたいと思います。
発熱と高体温の違いとは?
人間は、『恒温動物』ですので体温を一定に保つ、すなわち平熱があります。
平熱とは、たとえるならば、エアコンの設定温度のようなもので、"そのひとの体温の設定温度はこれくらいですよ"とされていると考えればわかりやすいでしょう。
この平熱の設定のことを「セットポイント」といいます。
発熱は、このセットポイント、すなわちエアコンの設定温度を上げるイメージの体に備わっている機能といえます。
私は、発熱に関して患者さんへ説明するとき、『人間に感染するようなウイルスや細菌は、人間の体の中が一番心地よい環境だから入ってこようとします。発熱は体の設定温度を上げて外に追い出そうとする、人間の防御反応なのです』とお話ししています。
そして解熱薬は、一時的に上がったセットポイントを下げる薬です。
あくまで一時的な対応であり、病気そのものに効果があるわけではありませんが、重要な薬です。
なお、熱中症における体温の上昇は、『高体温』として区別されます。
エアコンのイメージで考えるならば、気温がすごく高くなっているためにエアコンの設定温度を下げても室内の温度がどんどん上がってしまうような状態です。
このような場合は、解熱薬の効果はありません。外部から物理的にしっかり冷やしていくことが重要になるのです。
解熱薬を使用して、病気が長引いたりしませんか?
一般に小児科医は、感染症に伴う発熱を、毎日解熱薬を内服して積極的に熱を下げることをすすめません。なぜなら『解熱鎮痛薬を使い続けるとウイルスを排出する期間が長くなるかもしれない』という研究結果があるからです[1]。
しかし、発熱のある生後6ヶ月から6歳の子どもに対し、子どもにもっともよく使用される解熱薬『アセトアミノフェン』を定期的に使用しても発熱期間も、その他の風邪症状も長引かせなかったという研究結果もあります[2]。
すなわち、理論的には解熱薬が発熱や症状を長引かせる可能性がありますが、その心配は大きくはなく、『必要なときは使えば良い』と言えるでしょう。
熱のために水分を飲みづらい、睡眠を取りにくいなどの状況があれば解熱薬は積極的に使用すれば良いのです。個人的には『どちらか迷ったら使用してください』とお話ししています。
解熱薬はどれを使えば良いですか?
大人であれば、妊婦さんを除き、アセトアミノフェン以外の非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやロキソプロフェン)などを使用することができます。
しかし、子どもでは使用できる薬剤に制限があり、『アセトアミノフェン』を使用することが一般的です。最近は、市販薬でも1歳から使用できる製剤もあります。
しかし、市販薬には、さまざまな商品名の製品があり、わかりにくくなっています。そして、アセトアミノフェン以外の薬効成分が配合されている場合もあり、それらに配慮する必要性もあります。
迷ったら、ぜひ薬局で薬剤師に尋ねてみるとよいでしょう。
薬剤師は薬のプロなのです。
坐薬が良い?それとも内服薬?
坐薬は肛門からいれる薬、そして内服薬にも錠剤、シロップや粉状の薬までさまざまなものがあります。
坐薬がもっとも効くのではと思っておられる方もいらっしゃいますが、アセトアミノフェンの坐薬と内服薬の熱を下げる効果を比較した研究からは、解熱薬を使用して1時間後の熱の下がり方には差がないという結果になっています[3]。
すなわち、『使いやすい製剤』を使えば良いのです。
ただ、ちょっとだけ、選択するための注意点を付け加えておきしょう。
アセトアミノフェン自体は、苦味があって飲みにくいので、はじめて使うのであれば坐薬の方が確実かもしれません。
粉薬の飲み合わせは、アイスクリームやヨーグルトが良く、オレンジジュースは悪いです[4]。
そして、シロップ剤は飲みやすいですが保存しづらいので、一旦改善したら破棄するほうが無難です。
坐薬は高温で溶けてしまうと再度かたまったとしても薬剤としての質が下がる可能性があるので、冷蔵庫などで保管しておいたほうが良いでしょう[5]。
なお、冷却ジェルシートは、頭に付けていたと思っていたシートがずれ、鼻と口を塞いでしまい窒息するという事故が散見されます。冷却ジェルシートそのものの解熱効果はあまり期待できませんので、特に小さなお子さんに対して使用する場合は注意が必要です。
さて、今回は、解熱薬に関して簡単にお話ししました。
現在、小児科も混雑して受診しにくい状況ですが、市販薬を活用できる場面も多いかと思います。なにかの参考になれば幸いです。
【参考文献】
[1]Jama 1975; 231:1248-51.
[2]Lancet 1991; 337:591-4.
[3]Arch Pediatr Adolesc Med 2008; 162:1042-6.
[4]散剤と飲食物の飲み合わせ(味) 一覧(2022年7月25日アクセス)
[5]Chem Pharm Bull (Tokyo) 2015; 63:263-72.