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日銀審議委員は、財政政策について物申せず

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
日本銀行は、2009年下半期の政策決定会合議事録を公表。そこに記されていたことは(写真:つのだよしお/アフロ)

1月29日、日本銀行は、2009年7~12月に開催された金融政策決定会合の議事録を公表した。

日本銀行は、金融政策決定会合の議事内容について、議事要旨を、次回の決定会合で承認のうえ、その3営業日後に公表するとともに、議事録を、各決定会合から10年を経過した後に、半年分ごとにとりまとめて公表している。

今回公表されたのは、2009年7~12月に開催された金融政策決定会合の議事録である。その内容について、記事が早速出ている。

日銀が民主党政権に懸念、議事録 政策転換で「不透明感」(共同通信)

議事録の該当箇所は、次のように記されている。

我が国の政権交代による財政政策の変更については、現時点では景気への影響は計りかねるが、少なくとも現状では先行き不透明感を高める材料の一つといえる。

出典:日本銀行「政策委員会・金融政策決定会合議事録 2009年9月16日・17日」

2009年9月17日に開催された金融政策決定会合で、2009年9月16日に発足した民主党政権の財政政策に対する懸念が示されていたのだ。

しかし、この9月17日の金融政策決定会合の議事要旨(2009年10月19日公表)には、該当箇所に「政権交代」という言葉はおろか、「財政政策の変更」も「不透明感」も一切記されていない。

議事要旨には書いていないが議事録本文には書いてあることは、金融政策決定会合でなくともままあることだ。ただ、その差異は意味深長である。

日銀の金融政策決定会合で、審議委員が財政政策についての懸念を発言していたが、直後に公表された議事要旨には一切触れられず、10年後になってから公表された。

その背景には、日銀に与えられている中央銀行の独立性がある。日銀は、往々にして、中央銀行の独立性を維持するために、政府が決める財政政策についての評価を公式には述べない。日銀が政府の財政政策に注文をつければ、政府も日銀の金融政策に注文をつけてくるかもしれない。リアルタイムで、審議委員が財政政策に懸念を示したことが明らかになると、日銀があたかも政府の財政政策に注文をつけたかのようになりかねない。

この件は、そうした配慮によるものだろう。審議委員が財政政策に懸念を示しても、それがリアルタイムで公にされることはない。

日銀審議委員は、消費税を含む財政政策についての個人的見解を、委員就任前まで大々的に述べていても、委員になったとたん表向きにものが言えない「籠の鳥」になってしまうものだ。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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