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【獣医師の告白】野良猫は「ほとんど生き残れない」...東京・小岩で猫8匹が連続不審死

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

かつて、人と猫が共存していた地域で、猫はネズミをとって人に喜ばれていたといいます。こういう地域の野良猫は、人間との関係性もよく、自由でいいな、と思っていませんか? ところが、共存がうまくいっている地域ばかりではありません。ある地域の猫に悲劇が起こりました。

東京都葛飾区鎌倉と江戸川区北小岩の地域で、2020年の暮れあたりに、野良猫が8匹、体調が急変して死亡しました。この記事を読むとなんとも痛ましいですね。これがもし事件で、故意にやった何者かがいるとしたら、動物愛護法に違反します。それは警察にお任せするとして、今日は、亡くなった猫の状態と地域猫について考えます。

東京・小岩で猫8匹が連続不審死の様子

それでは、どんな事件だったのか、見ていくことにしましょう。

 寅次郎(別名グリ)、シマちゃん、ミーちゃん、クロちゃん、げん、ちび、くろ、とら。  命を落とした8匹にはみんな名前があった。人によって別の呼び方をするケースもあった。東京都葛飾区鎌倉と江戸川区北小岩にまたがって昨年11~12月にかけ、突如、体調が急変して死亡した「地域猫」たちだ。

(略)

「測定機械が想定する数値を超えていましたからね。猫は腎臓の弱い動物で、機能悪化は死に直結しうる。また徐々に悪くなってゆくケースは見たり触診してわかりますが、そうでもなかった。いわゆる急性腎不全です」(同医師)

 複数の住民が別々の病院で診察を受けている。いずれも腎臓の状態を示す尿素窒素の値が基準値を大きく上回り、基準上限の4倍以上にあたる計測不能値が出たケースもある。どうすれば、これほど悪化することが考えられるのか。

「《東京・小岩》猫8匹が連続不審死!苦しみ悶える姿に涙、看取った住民の悲痛」より

要約すると、東京・小岩の辺りで、野良猫8匹が、立て続けに腎臓不全で急に亡くなりました。その他にも行方不明の猫がいるといいます。原因は、はっきりしていませんが、何か毒物を食べた疑いがあるということです。

猫は、犬に比べて腎不全になる子は、多いですが、それはほとんどが加齢のためです。若い猫は、一般的には普通に飼っていれば、あまり腎不全にはなりません。

寅次郎(別名グリ)ちゃん、シマちゃん、ミーちゃん、クロちゃん、げんちゃん、ちびちゃん、くろちゃん、とらちゃんのご冥福をお祈り申し上げます。

腎不全とは、どんな病気か?

写真:アフロ

それでは、腎不全とはどんな病気が見ていきましょう。

腎臓は、尿の生成、老廃物や毒素を尿の中に排出します。それに加えて、ホルモンの分泌などを行っている臓器です。そこが、ちゃんと働かなくなるのです。

腎不全の原因

・加齢

・薬物などによる中毒

・外傷

・ショック

・細菌や猫伝染性腹膜炎(FIP)のウイルスの感染

・心筋症

などです。

腎不全の症状

腎不全に至る時間経過により「急性腎障害」と「慢性腎臓病」に分けられます。

進行すると腎不全となり、老廃物を十分に排泄できなくなるため尿毒症の症状が現れます。

「急性腎障害」

数時間から数日という短期間で腎臓の働きが低下します。

・数日などのうちに、オシッコが少ない

・数日などのうちに、オシッコが出ない

・食欲不振

・嘔吐

・末期になると、尿毒症になり痙攣

今回の事件のように重篤なケースは、死に至ることもあります。

「慢性腎臓病」

長い経過をたどり腎臓の働きが徐々に低下して腎不全に至ります。猫のシニアの子に多い病気です。

・初期は無症状

・飲水量が増え、尿量が増えます(多飲多尿)

・体重減少

・嘔吐

・貧血

末期になると、命にかかわります。

腎不全の治療

原因がわかっている場合は、早期にその治療をします。

一般的な腎不全の治療法

・点滴(静脈点滴や皮下点滴など)

体液を増加させることで尿量を増やすことで老廃物の排泄をさせます。

・腸内でタンパク質を吸着させ、便として体外に排泄させるような薬

・腎高血圧をふせぐために降圧剤

慢性腎不全は、猫に多い病気で、このために亡くなる子は、多くいます。

一方、急性腎不全は、慢性腎不全に比べて、それほど多くありません。原因を突き止めて、対処すれば、回復することもあります。

ただ、急死した猫たちは、尿素窒素が、140mg/dl以上あったようなので、尿毒症を起こしている可能性が高いですね。尿毒症の症状は、痙攣、知覚障害などがあり、猫が苦しまないように、点滴を多くして痛みなどを取ることも大切ですね。

地域猫とは?

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

この事件があった小岩の猫たちは、「地域猫」とあります。この「地域猫」とは、どんな猫かを見ていきましょう。

地域猫とは、飼い主のいない猫で、猫好きの人が、外や庭先で、餌をやったりして面倒を見ています。場合によっては、動物病院に治療に連れて行く、不妊去勢手術をするなどしています。その地域猫がなぜ、問題になるのかを見ていきましょう。

地域猫の問題点

地域には、猫が好きな人ばかり住んでいるわけではありません。猫が嫌いな人、猫アレルギー体質の人などが混在して生活しています。その上、猫が、ウンチやオシッコを庭や玄関などでするので、その処理がたいへんです。

たとえば、猫嫌いな人の庭に毎日、猫がトイレをしに行き、そして大切にしていた草花が枯れてしまうと、近所間でトラブルです。さらに、猫アレルギーの人は、猫の毛がベランダなどにあると、アレルギー症状で呼吸困難になる人もいます。

地域猫活動

飼い主のいない猫、いわゆる野良猫を勝手気ままに放置するのではなく、猫の嫌いな人にも、ある程度許容してもらえる「地域猫」として一定の管理をして見守っていき、不妊去勢手術をしながら、将来的には野良猫を減らして、飼い猫だけにいこう、という考えです。

まだ、地域猫活動がうまくなっていないところも多く、今回の事件のことも考えて野良猫について、関心を持っていただければ、と思っています。

まとめ

野良猫は、勝手気ままに生きているわけではないです。飼い猫の平均寿命は10年以上ありますが、野良猫は、厳しい環境下で、ほとんど生き残れないです。餓死、交通事故などもありますが、今回のように、不審な病状によって野良猫が苦しみ悶えて亡くなることがない世の中になることを望んでいます。

野良猫を作ったのは、人なのです。野良猫を見たら、このような問題を孕んでいることを多くの人にもっと知っていただくことで、少しずつ野良猫に理解のある世の中になると信じています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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