ミシュランガイド・フードフェスティバルに賛同できない理由
ミシュランガイド・フードフェスティバル
2017年8月17日から8月20日にかけて、横浜赤レンガ倉庫のイベント広場Bで「ミシュランガイド・フードフェスティバル」が行われています。
ミシュランガイド掲載店が出店する日本で初めての食のフェスティバルで、1枚1000円で購入したチケット1~3枚を店の料理と引き換え、味わって楽しむというイベントです。
概要
「ミシュランガイド・フードフェスティバル」の概要は以下の通り。
日本は、世界の中でもミシュランガイドで最も星を獲得している国であり、その日本の食の素晴らしさを広く伝えるために企画したということです。
魅力
「ミシュランガイド・フードフェスティバル」の魅力は次のように述べられています。
ミシュランガイド掲載店が「ミシュランガイド・フードフェスティバル」のためだけにオリジナルメニューを考案しており、様々なおいしい料理を楽しめることが売りであると述べています。
<ミシュラン掲載店が集う「食フェス」の実力>という記事で「初日には、主催者予想の倍以上となる1万5000人が押し寄せた」と紹介されているように、多くの人が訪れているようです。
賛成できない理由
来場者数をみる限り、好評を博しているようですが、私は「ミシュランガイド・フードフェスティバル」を開催することにあまり賛同できません。
理由は以下の通りです。
- 星付きの店が少ない
- 素晴らしさを伝えられない
星付きの店が少ない
ミシュランガイド掲載店が出店しているとありますが、店舗の内訳はこちら。
- 3つ星 0店
- 2つ星 1店
- 1つ星 1店
- ビブグルマン 13店
- それ以外 1店
ミシュランガイド・ フードフェスティバル実行委員会が出店するスイーツショップ
星を獲得しているのは、15店舗中(スイーツショップは実行委員主催なので除外)わずか2店舗だけです。ミシュランガイドと言えば、多くの人は、値段が手頃でコストパフォーマンスが高いビブグルマンではなく、1つ星、2つ星、3つ星といった星付きの店を連想するのではないでしょうか。星付きの店と言えば通じても、ビブグルマンの店と言っても通じないことはよくあります。
Yahoo!検索で比べてみると、ミシュラン1つ星の検索結果数20,800,000に対して、ビブグルマンの検索結果数28,500となっており、ビブグルマンの登場頻度はずっと少ないです。
※どちらとも、記事執筆時の検索結果数
勘違いしないでいただきたいのは、ビブグルマンがよくないということではありません。ビブグルマンの店はどれも素晴らしく、私も色々な店に何度も訪れたことがあり、紹介する記事も書いています。
ここで述べたいのは、次のような懸念があるということです。それは、食にあまり詳しくない人からすれば、ミシュランガイド掲載店と大きく謳われていれば、星付きの店であると誤認するのではないか、ということです。
星付きの店がほとんど出店しなかった理由
では、どうして、星付きの店がほとんど出店しなかったのでしょうか。
意義やメリットを感じなかったり、屋台で料理を提供することができなかったり、店を閉めたくなかったり、夏の暑い時期に野外で実施することを危惧したり、準備が間に合いそうもなかったりなど、いくつか理由を挙げられます。
しかし、そもそも出店することが難しい状況であったのではないかと考えています。
「ミシュランガイド・フードフェスティバル」を開催するというプレスリリースは6月22日に発信されましたが、このプレスリリースを読んだ時に、開催まで2ヶ月を切っているのにこれから募集をかけるのは少し遅いのではないかと思いました。
2ヶ月先まで予約できる店では、「ミシュランガイド・フードフェスティバル」開催時期に既に予約が入っている可能性があるでしょう。星付きの店であれば、2、3ヶ月先までのほとんどの日に予約が入っていることも珍しくありません。そして、1件でも予約が入っていると、店を閉めることができないので、出店したかったとしても叶わないでしょう。
出店がほとんどビブグルマンであるのならば、いっそのこと「ミシュランガイド ビブグルマン・フードフェスティバル」と謳い、コストパフォーマンスに焦点を当てた食のフェスティバルを開催した方がよかったと思います。
素晴らしさを伝えられない
では、もしも星付きの店がたくさん参加していたら、どうだったでしょうか。それでも私はあまり賛同できません。
企画意図に、日本の食、それも、ミシュランガイドに掲載されるような店の素晴らしさを伝えたいと記載されていますが、これに疑問を抱いているからです。
いくら滋味が感じられるからといって、1000円の精進カレーによって、平均単価が優に1万5千円を超える立派な日本庭園を誇る精進料理店の奥深さを伝えられるでしょうか。高級食材が使われた2000円のおいしいクラブサンドで、夜の平均単価が1万円以上のモダンフレンチが紡ぎ出す洗練された料理を伝えられるでしょうか。
「ミシュランガイド・フードフェスティバル」の屋台で、店の素晴らしさを伝えるのは難しいと思います。
本来の料理と異なる
「ミシュランガイド・フードフェスティバル」の屋台で販売されている料理は、その店で提供される料理とは全く異なります。それに、店を構成しているのは料理だけではありません。内装やデザイン、テーブルウェア、サービススタッフなど、様々な要素があるだけに、ファインダイニングであればあるほど、食のフェスティバルの屋台では、本来の素晴らしさは伝わらないのではないでしょうか。
本格的なフランス料理を格安で楽しむには?でも紹介した「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク 2017」のように、実際に店へ訪れるイベントであれば、値段の上限があったとしても、ある程度は店の素晴らしさは伝わります。
また、お祭り騒ぎに似た食のフェスティバルへ訪れる人と、しっとりとした時間を過ごせるミシュランガイド掲載店へ訪れる人とでは、客層が重なっているようには思えません。ミシュランガイド掲載店では大型店舗は少なく、席数の少ない店がほとんどであるだけに、出店のために4日も店を閉めて、その店が持つ本来の素晴らしさを伝える機会が失われてしまうのはもったいないです。
これまでの延長線上
ミシュランガイドは、「ミシュランガイド東京・横浜・湘南2014」からビグルマンを加え、「ミシュランガイド東京2015」からビブグルマンにラーメンなど日本独自のジャンルを取り込み、2015年4月16日にはミシュランガイドのWeb版となるクラブミシュランを開始し、より多くの人々に関心を持ってもらおうとしています。
この延長線上として、今回の「ミシュランガイド・フードフェスティバル」も立ち上がり、「今後は様々な地域、場所での開催も予定」と述べられていることから、「ミシュランガイド・フードフェスティバル」はますますその役割を広げていくことでしょう。
わざわざ食べに行く価値
屋台でテイクアウトする食のフェスティバルは、パンのような物販やラーメンのような一品であれば向いていると思いますが、コース料理で勝負しているようなミシュランガイド掲載店は向いていないと私は考えています。
ミシュランガイドは「わざわざ食べに行く価値がある」店であることを星の数によって示していますが、この「わざわざ食べに行く価値がある」店であるにも関わらず、あえてひとつの場所に集めた「ミシュランガイド・フードフェスティバル」によって、多くの星の輝きが色褪せてしまうような気がして仕方がありません。