「ボロボロです」孫正義氏の攻撃意欲削ぐ周到な会見、唯一残念だったのは
決算はよい時もあれば悪い時もあるでしょう。悪い時こそ表現を工夫し、信頼失墜を防ぐ、信頼を維持する表現が欠かせません。ソフトバンクグループ孫正義氏が11月6日、2020年3月期第二四半期の決算説明会を行いました。7001億円の最終赤字でした。どのように説明するかでその後の報道、評判、株価を変える要になる場面であったと思います。孫氏は反省の言葉を繰り返しつつ「株主価値増大」と切り返しの表現を使ったうまさがあった一方、見せ方には課題もありました。
イメージしやすい言葉を選択
私が驚いたのは「ボロボロです」から始まった最初の言葉です。自分達の決算状態について史上最大の赤字を出したことを物事の状態を音で表す擬態語を使うことで何とも言えない親近感を出してしまいました。自分を徹底的にこき下ろす、相手の思っていることを先に言ってしまうことで先に攻撃意欲を削ぐコミュニケーション戦略に舌を巻きました。最初にボロボロ状態であることを認めれば、後は上がっていくだけのことです。「株主価値は1.4兆円増加」を強調。わざわざ2019年3月の決算説明会でのビデオを見せて以前から株主価値を重視すると説明していたことを示しました。また、「孫がいいとこどりをしている、という批判する人もいると思うがこれは事実」と述べ、自分に向けられるであろう批判の言葉を先に自ら使ってしまうことで批判しにくい状態を作り出しています。
質問時間になると「厳しい質問をしてくれ」と記者が質問しやすい雰囲気を作りました。大抵は「お手柔らかにお願いします」と言いますが真逆です。司会が質問を切り上げようとすると、「いやいや今回はもう少し時間を取りますよ」とガス抜きの必要性を感じて時間を延長するという機転を利かせました。最も質問が集中したのはWeWorkの投資判断。「惚れこみすぎた」「市場を欺いていない。信じてしまったのだ」。言葉の選択がうまい、と感じました。「惚れる」「信じる」といった言葉は批判がしにくい。「市場を欺く」という言葉は自分では決して使いたくないが、あえてこのネガティブな言葉を使いこなして思い切り否定する。「市場を欺いている」という批判を滅多切りにして抑え込む戦略です。そして、大きな視点でみれば「さざ波だ」と表現。局部的な質問を大局視点に切り替えています。
着こなしには課題
では、弱点は何もなかったのかというと私の出番がなくなりますので、演出的観点から抜けていた部分をここで指摘します。今回、大画面の前を歩きながら説明する、ウォーキングプレゼンテーションでした。このような形式は増えてきましたが、全身が見えてしまうので全体の見え方に配慮する必要があります。歩きながら説明するのは慣れないと見ているほど簡単ではなく大変難しい。ウォーキングプレゼンテーションのトレーニング現場では体の動きをコントロールする力を養うのですが、全く初めてですと、歩きながら話せず棒立ちになってしまう、目線が1点に集中して全体を見渡せなかったりします。その点、孫氏は、ゆとりを感じさせる笑顔を軸に、ゆっくりと歩く、立ち止まる、見渡す、適度なゼスチャー等体の動き等が盛り込まれており、ボディランゲージを効果的に使っていました。
ただ、1点残念だったのは着こなし。立っている時には、上着のボタンを締めましょう。ビジネスマナーとして必須です。きちんと感が出せるでしょう。また、全体的にスーツのサイズが合っていないため、パンツのすそにたるみが目立ちました。ハーフクッション程度にしておけばよりスマートに見えます。また、襟先が見えるシャツもレギュラーではなく、襟先の見えないワイドにして、ネクタイには窪みをつけることでVゾーンが立派に見えます。信頼感演出には服装の着こなしも重要です。内容が完璧であればあるほど目がいってしまうともいえるでしょう。特に全身は自分でのチェックが難しい。広報担当者が着こなしの知識も身につけてトップをサポートする体制は必要です。私も努力しています。ウォーキングプレゼンテーションに関しては、その分野の課題発見力と改善提案力を維持するため、スタイリスト、ボイストレーナー、ウォーキングインストラクター、スピーチライターの力を借りて全力でサポートしています。全て自分でやろうとするとメッセージ発信、危機管理の観点からも判断を誤ることがあると思うからです。各分野の専門家とネットワークを構築しておくことがリスクマネジメントになります。
【参考サイト」
ソフトバンクグループ 11月6日決算説明会
https://www.youtube.com/watch?v=TIUiorMnRrI&t=1097s
外見リスクをマネジメントする(男性服装篇)
https://ishikawakeiko.net/2014/12/25/164/