ノート(196) 大阪地裁で犯人隠避事件の証人尋問が始まる
~尋問編(2)
受刑174/384日目
割り当てられた刑務作業は?
拘置所は土日が休みなので、週明けの月曜であるこの日から刑務作業が始まった。大阪に移送されたのは大阪地裁で行われる元上司の裁判に出廷するとともに、検察側と詰めの打合せを行うためだった。それでも「受刑者」であることには変わりがないので、何らかの刑務作業に従事しなければならない。
静岡と同じく「図書工」として慣れた差し入れ本の整理などを担当するのかと思っていたが、自殺防止房の中で1人で簡単な軽作業を行うことになった。大阪での滞在期間は約1ヶ月だったし、最高検による複数回の取調べが予定されており、臨機応変に中断や中止できるのは居室で行う軽作業しかなかったからだ。
以前、大阪では「ワッシャー貼り」を行っていた。木工用ボンドをハケでとり、真ん中に穴があいた500円硬貨大の丸いボール紙に塗り、2枚貼り合わせ、乾燥させて完成させる作業だ。東日本大震災の被災地で仮設住宅の建設などに使われるパーツだったので、モチベーションが上がるものだった。
しかし、今回はそれよりもはるかに単純な「シール貼り」という作業を割り当てられた。縦80センチ、横8センチの袋状になっている透明のビニール袋に、縦10センチ、横6センチの長方形のシールを1枚ずつ貼り付けるというものだ。
紙製のシールには有名メーカーの会社名や「ラッピングペーパー」という商品名のほか、「日本製」という文字などがカラー印刷されていた。タータンチェック柄の包装紙を筒状に丸め、シールが貼り付けられたビニール袋に2本ずつ差し込み、上部を糊付けすれば、「商品」として完成する。
100円ショップに行けば、ごく当たり前のように目にし、販売されているものだ。同じラッピングペーパーで値段が変わらなければ、中国や韓国、ベトナムといった外国製のものよりも、日本製のものを購入し、使用したいと思うことだろう。
低価格ながら「日本製」を売り文句にするのは、そうした消費者心理を踏まえたものにほかならない。「日本製」をうたった100円ショップの商品の中には、受刑者が刑務作業で作成したり、袋詰めしたものがあるというわけだ。それでも立派な「日本製」だ。人件費がタダ同然でなければ、100円で販売することなどできない。
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