『BLEACH』の山本元柳斎は、1500万度の高熱を発する! そんなコトして大丈夫?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
『BLEACH』のアニメは、2004年から12年まで7年半も放送されたけど、途中で原作マンガに追いついてしまい、「死神代行消失篇」で終了していた。
一方、マンガはその後16年まで描かれて、見事に完結した。
以来、終章のアニメ化を求める声は強かったが、ついにこの秋からスタートしたのが『BLEACH 千年血戦篇』である。
死神と滅却師(クインシー)が激戦を繰り広げる物語だが、どちらも人間ではないだけに、常識を超えた攻防が目白押し。
筆者にとって興味深い科学の要素も、ヒジョ~にいい感じに盛り込まれている。
たとえば、滅却師のキャンディス・キャットニップが、黒崎一護に向けて矢を放ったときのこと。
なんとキャンディスは「5ギガジュールで灰になってろ!」と叫ぶのだ!
ジュールはエネルギーの単位。
戦いのさなかに、そんなモノを持ち出してくれるとは、嬉しいではないですか。
しかも、5ギガジュールとは50億ジュールで、落雷3回分、あるいは爆薬1.2t分という、とんでもないエネルギー。
矢が、それほどのエネルギーを持っている!?
しかも、これをまともに食らった一護は、平然と空中に浮かんでいる!
いったいどうなってんの、2人とも!?
こうした恐るべき戦いのなかでも、ひときわココロ惹かれるのが、護廷十三隊一番隊隊長・山本元柳斎重國(やまもとげんりゅうさいしげくに)だ。
このヒトは、体からなんと1500万度の高熱を放つ!
にわかに信じがたい話だが、そんなことをしたらどうなるのだろうか?
◆その熱、実に1500度!
死神と滅却師は、どちらも虚(ホロウ/人間に危害を加える霊)を処分するのが任務だが、方法の違いから両者は対立、千年前に全面戦争が勃発した。
戦いは死神が勝利したが、死神を率いた山本元柳斎重國は、滅却師の王・ユーハバッハを殺さなかった。
そのことが千年後の現在、災いの元凶となってしまう。
千年の眠りから目覚めたユーハバッハは「星十字騎士団(シュテルンリッター)」を組織して、尸魂界に侵攻。
これにより護廷十三隊の隊士6千人のうち、確認できただけで2245人が戦死した。消耗率は37.4%……!
この危機に立ち上がった山本は、滅却師の王に言う。
「千年ぶりじゃな ユーハバッハ お主の息の根を止めに来た」。
そして炎の力を秘めた斬魄刀「流刃若火(りゅうじんじゃっか)」を卍解(ばんかい/斬魄刀の力を最大限に引き出すこと)する。
その卍解「残火(ざんか)の太刀“東”旭日刃(きょくじつじん)」は、炎の熱をすべて刃先に集中させ、触れるものを跡形もなく消し飛ばす。これでユーハバッハの剣を切断した!
続いて放ったのが「残火の太刀“西”残日獄衣(ざんじつごくい)」だ。
全身を炎に包まれながら山じい、いや山本元柳斎は言う。
「その熱 実に一千五百万度」。
なぜ敵にわざわざ温度を教えてあげるのかまことに不思議だが、筆者としてはここがワクワクするところである。
さらに、山じいは「“南”火火十万億死大葬陣(かかじゅうまんおくしだいそうじん)」で、過去に斬った亡者たちにユーハバッハを襲わせ、とどめに「“北”天地灰尽(てんちかいじん)」を見舞った……のだが。
これからマンガやアニメを楽しもうという方もいるだろうから、ストーリーには触れず、話を科学に絞るなら、筆者が興味深いのは、やはり「西”残日獄衣」である。
1500万度の熱攻撃とはいかなるか、空想科学で考えてみよう。
◆アメリカの鉄まで蒸発する!
山じいが斬魄刀を卍解して戦い始めると、尸魂界では異変が起こり始めた。
喉が渇き、唇が切れ、肌がかさつく。
花瓶のなかの水が消えている。
尸魂界全体が、極度の乾燥状態になっていたのだ。
乾くのも当然であろう。科学的に考えると、1500万度とはモーレツすぎる高温だ。
太陽の表面ですら6千度であり、1500万度とは太陽の中心部の温度なのだ。
おまけに、高温の物体から放たれる熱エネルギーは「表面積×温度の4乗」に比例する。
つまり温度が10倍になると、熱エネルギーは10×10×10×10=1万倍になってしまう。
ユーハバッハは20mほど離れたところで「灼けるようだ 眼も 髪も 喉も」「静血装(ブルート・ヴェーネ/滅却師の防御技)が無ければこの距離でも灰となっただろう」と言ってたけど、うーん、そんなレベルで済むかなあ。
山じいが「卍解した儂は その身と刃に太陽を纏(まと)っているものと思え」と言っていることから、彼自身の温度が1500万度になったと考えると、周囲の熱さは次のようになる。
出てくる距離は、地球の直径=1万2800kmを参考にイメージしてください。
・山じいから24万km離れた場所でさえ、空気があれば、火の気がなくても紙や木材が発火する!
・山じいから2万4千km離れたところでは、鉄がドロドロに溶ける!
・山じいから8200km離れた地点では、鉄がシュワシュワ蒸発する!
えー、8200kmというのは、東京からアメリカのサンフランシスコまでの距離くらいです。
では、それより近いところは、どうなるのか。
火事とかそういうレベルでは済まなくて、もう爆発するやら蒸発するやらで、跡形もなくなるだろう。誰かこのじいさんを止めてくれ~。
ユーハバッハは、こんな山じいから20mしか離れていなかったのに、静血装のおかげで無事だったというのだ。
モノスゴイ防御力である。
これ、普通だったら体の表面が424万度に加熱され、どんな物質であっても、蒸発したうえに原子がバラバラになった「プラズマ」という状態になってしまったはずなのだ。
さすが山じい、護廷十三隊の総隊長である。
しかし、体から炎を発しながら「さっさと終わらせんと お主といっしょに 儂も尸魂界も燃え尽きる」と言っていた。
尸魂界まで燃え尽きてしまったら元も子もない。いくらなんでも、山じい熱すぎ!