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カテゴリーを超えた真剣勝負ゆえのリスペクト(天皇杯2回戦:セレッソ大阪3-1ジェイリースFC)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
J1のセレッソ大阪に2失点後、前半のうちに1点を返した大分のジェイリースFC。

 プロ・アマ問わず、日本サッカー界のナンバーワンを決めるトーナメント大会、天皇杯 JFA 第104回全国日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)。ミッドウィークの6月12日、2回戦32試合が各地で行われた。

 ちょうど前日に日本代表の取材で広島にいたので、今回は新幹線で大阪まで移動。ヨドコウ桜スタジアムで開催される、セレッソ大阪(J1)vsジェイリースFC(大分県)を取材した。さっそく写真と共に試合を振り返ることにしよう。

この日の入場者数は2901人。アウェイのジェイリースも多くのファン・サポーターが応援に駆けつけていた。
この日の入場者数は2901人。アウェイのジェイリースも多くのファン・サポーターが応援に駆けつけていた。

この日のC大阪のスタメン。3日前のルヴァンカップから、舩木翔と奥田勇斗を除く9人を入れ替えて臨む。
この日のC大阪のスタメン。3日前のルヴァンカップから、舩木翔と奥田勇斗を除く9人を入れ替えて臨む。

ジェイリースは5部相当の九州リーグ所属で現在2位。元Jリーガーを補強して、将来のJFL入りを目指す。
ジェイリースは5部相当の九州リーグ所属で現在2位。元Jリーガーを補強して、将来のJFL入りを目指す。

 C大阪が先制したのは7分。清武弘嗣のロングフィードに、渡邉りょうがスライディング気味に押し込む。
C大阪が先制したのは7分。清武弘嗣のロングフィードに、渡邉りょうがスライディング気味に押し込む。

14分には追加点。ジョルディ・クルークスのパスを受けた阪田澪哉が、反転しなら左足でネットを揺らす。
14分には追加点。ジョルディ・クルークスのパスを受けた阪田澪哉が、反転しなら左足でネットを揺らす。

ジェイリースも反撃。本多琢人が後方から山なりのボールを入れ、福元考佑が頭で決めて27分に1点差。
ジェイリースも反撃。本多琢人が後方から山なりのボールを入れ、福元考佑が頭で決めて27分に1点差。

C大阪の小菊昭雄監督(右)とジェイリースの柳川雅樹監督。カテゴリーの差を感じさせない展開が続く。
C大阪の小菊昭雄監督(右)とジェイリースの柳川雅樹監督。カテゴリーの差を感じさせない展開が続く。

エンドが変った64分、C大阪はFKのチャンスから、最後は為田大貴が叩きつけるようなヘディングで3点目。
エンドが変った64分、C大阪はFKのチャンスから、最後は為田大貴が叩きつけるようなヘディングで3点目。

81分にPKのチャンスを得るジェイリース。薗田卓馬のキックは枠外となってしまい、追い上げムードは消沈。
81分にPKのチャンスを得るジェイリース。薗田卓馬のキックは枠外となってしまい、追い上げムードは消沈。

結局、C大阪が3-1で勝利。ジェイリースも最後まで食い下がったものの、プレーの精度の差が明暗を分けた。
結局、C大阪が3-1で勝利。ジェイリースも最後まで食い下がったものの、プレーの精度の差が明暗を分けた。

C大阪のゴール裏にも挨拶するジェイリース。対戦相手から温かい拍手を送られる、天皇杯らしい光景だ。
C大阪のゴール裏にも挨拶するジェイリース。対戦相手から温かい拍手を送られる、天皇杯らしい光景だ。

 私は毎年、天皇杯の2回戦を楽しみにしている。J1とJ2クラブが登場し、J3クラブを含む都道府県代表とのカテゴリーを超えた戦いが見られるからだ。運が良ければジャイキリ(ジャイアント・キリング)にも遭遇できる。

 実際、この2回戦ではJAPANサッカーカレッジ(新潟県)が名古屋グランパス(J1)に1-0で、テゲバジャーロ宮崎(宮崎県)がジュビロ磐田(J1)に2-1で、そして筑波大学(茨城県)がFC町田ゼルビア(J1)に1-1からPK戦で競り勝り、それぞれジャイキリを達成している。

 このうち町田と筑波大の試合は、町田の4選手が負傷(うち2選手が骨折)。さらに黒田剛監督が、試合後の会見で「マナーが悪い」「指導教育ができていない」と対戦相手を批判したことから、サッカー界全体を巻き込んでの炎上案件となってしまった。

 怪我をした選手には同情するしかないが、それ以上に残念なのはJFAが推奨している「リスペクト(宣言)」が置き去りにされてしまったことだ。

 私が取材したヨドコウでの試合後、ジェイリースの永芳卓磨GMは、このようなポストを残している。

 1986年生まれの永芳GMは、名古屋ユース、筑波大を経て、FC岐阜や大分トリニータなど4つのJクラブでプレー。2018年から6シーズン、選手兼監督としてジェイリースに迎えられ、3つのカテゴリーを駆け上がる原動力となった。そして昨年、現役引退と監督退任を発表。今季からGMを務めている。

 Jユースと大学、そしてJ1から大分県3部まで、さまざまな現場を経験した永芳GM。そんな彼だからこそ、カテゴリーを超えた真剣勝負の大切さを熟知している。そして、そこにはリスペクトが不可欠であることも。

 天皇杯の選手入場の際、なぜリスペクトフラッグが先導するのか。その意味をあらためて考える必要がある。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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