北朝鮮「千里馬-1型」ロケットの残骸を韓国軍が回収
6月16日朝、韓国軍は発射失敗した北朝鮮「千里馬-1型」衛星打ち上げロケットの残骸を回収しました。これは韓国軍が5月31日の発射当日に洋上に浮かんでいた残骸を発見していましたが引き揚げる前に海底に沈んでしまい、今日になって回収に成功したものです。韓国軍合同参謀本部は「回収された残骸は直径2.3~2.8m、長さ12mの3段式ロケットの2段目であると推定」と説明しています。
回収場所は韓国の全羅北道の群山市の於青島(어청도)の西200kmの水深75mの海底からとなっています。この海域は北朝鮮が事前予告していた3カ所の危険海域のうち最もロケットの発射地点から近いものと一致しており、第1段ロケットの落下警告海域と推定されていました。
5月31日に発射された北朝鮮「千里馬-1型」ロケットは、第1段ロケットは正常飛行したものの第2段ロケットの始動不正で打ち上げ失敗したと北朝鮮が自ら発表しているので、つまりロケットの全てがこの周辺に着水したことになりますが、第2段ロケットが発見されたのみで他の部品はまだ発見されていません。
※Eocheongdo-ri(於青島里、어청도리)のri(里、리)は韓国の行政区画の単位。日本で言えば町や村に相当。
千里馬(천리마)と天馬(천마)
回収されたロケットの残骸には朝鮮語で「천마」と書かれています。漢字で書くと「天馬」となるのですが、実は「천」という文字は漢字では「千」でもあり「天」でもあります(朝鮮語での発音が同音)。朝鮮語では「千里馬」を短縮したような単語のように見えますが、漢字で書くと別の文字で、それでいて意味は同じものを指しています。
- 천리마 千里馬(チョンリマ)
- 천 마 天 馬(チョン マ)
「千里馬」は一日に千里を駆けるという翼を持つ伝説の馬のこと。「天馬」は天の馬であり翼を持つので、意味が被っている。北朝鮮では「千里馬運動」という経済発展のスローガンに使用されていたので、どちらもよく見かける言葉。
なお5月31日の打ち上げに関して北朝鮮の正式発表では万里鏡-1偵察衛星は「号」、千里馬-1ロケットは「型」で呼んでいますが、過去の打ち上げでは銀河ロケットの場合は「号」だったので、呼称のルールに変化が見られます。
- 군사정찰위성 《만리경-1》호 軍事偵察衛星《万里鏡-1》号
- 신형위성운반로케트 《천리마-1》형 新型衛星運搬ロケット「千里馬-1」型
第1段ロケットが異様に短い謎
韓国軍の説明通り6月16日に回収された残骸が第2段ロケットだとすると、千里馬-1の構造として「第1段ロケットが異様に短い」という謎が指摘されています。宇宙ロケットの一般的な構造からすると、あまり見たことがない設計です。
千里馬-1は第1段ロケットのみが正常飛行したとされています。この短い長さの第1段ロケットで、北朝鮮の西海衛星発射センターから於青島(어청도)の西200kmまで飛べるのでしょうか? 着水までの推定距離は約420kmはあります。
もし韓国軍が回収した残骸が第2段ロケットであるなら、ロケットエンジンが装着されている筈ですから、公開されていれば確定するのですが、初報ではロケットエンジンが見える角度からの撮影写真は未公表であり、現在までの追加発表写真では両端が黒い布で覆われた状態で公開されており、詳細を見せてくれていません。
なお回収された第2段ロケットとされる残骸は直径2.3~2.8m、長さ12mと発表されています。すると千里馬-1は推定で直径2.8m、全長40~45mとなり、過去の衛星打ち上げ銀河ロケット(推定直径2.5m、全長30m)よりもかなり大型になっています。ICBMの火星17(推定直径2.5m、推定26m)と比べても大きく、もしも従来のロケットエンジンをそのまま千里馬-1に流用するとしたら第2段以降であり、第1段ロケットは新規設計の非常に大型の液体燃料式ロケットエンジンだと考えられます。噴射炎の数から、従来型ロケットエンジンのクラスター化(沢山束ねる)のようには見えません。