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「インスタント記事」が終了、Facebookが加速する「メディア離れ」とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
メタバースを推進するメタCEOのマーク・ザッカーバーグ氏(写真:ロイター/アフロ)

フェイスブックの「インスタント記事」が終了し、「メディア離れ」が加速する――。

ニュースサイト「アクシオス」は10月14日、スクープ記事として、フェイスブック(メタ)が7年前にスタートさせたモバイル用のコンテンツ規格「インスタント記事」を来春に終了する、と報じた。

フェイスブックはこのほかにも、ニュース専用タブ「フェイスブックニュース」やニュースレターサービス「ブレティン」など、メディア関連施策の相次ぐ終了が明らかにされている。

かつてはグーグルと並んで「世界最大のジャーナリズムの資金提供者」とされたフェイスブックは、今や「メディア離れ」の路線をまい進する。

フェイスブックの「メディア離れ」が示すものとは?

●「ニュースは3%未満」

フェイスブックのフィードで世界の人々が目にするもののうち、ニュース記事へのリンクを含む投稿は、今や3%未満です。すでに説明しているように、ユーザーの嗜好に合わない分野に過剰に投資することはビジネスとして意味がありません。

「アクシオス」の10月14日付の記事の中で、メタの広報担当者は、そう述べている。

メタの広報担当者は、同社が2015年に始めたモバイル用のコンテンツ規格「インスタント記事」が「十分に使われていない」としており、2023年4月中旬にサポートが終了する予定だという。

フェイスブックではすでに今年に入って、3年間で10億ドルのメディアへの支払いを掲げたニュース専用コーナー「フェイスブックニュース」(2019年10月開始)、人気作家、マルコム・グラッドウェル氏らを起用したニュースレターサービス「ブレッティン」(2021年6月開始)の終了が明らかになっている。

「ユーザーの嗜好に合わない分野に過剰に投資することはビジネスとして意味がありません」というメタの広報担当者のコメントは、「フェイスブックニュース終了」を報じられた時と全く同じものだ。

※参照:Facebookがついにニュースを見限った、その3つの理由とは?(08/01/2022 新聞紙学的

この「メディア離れ」のリストに、開始から7年となるメディアサービスの「インスタント記事」も加わった、ということだ。

全体の「3%未満」のニュース記事は、フェイスブックにとって「ユーザーの嗜好に合わない分野」なのだ。

●フェイスブックとニュース

フェイスブックのニュースへの取り組みは、10年以上前にさかのぼる。

2011年9月にワシントンポストガーディアンが参加して登場したフェイスブック上のニュースアプリ「ソーシャルリーダー」は、当初こそ注目を集めたものの、使い勝手などの問題からユーザーは急落し、わずか1年後に終了した。

その後、2014年1月にもiOS用の単独のニュースアプリ「ペーパー」をリリースするが、一部の機能を「インスタント記事」に引き継いで、2016年7月末に終了している。

「インスタント記事」は2015年5月、iOSでのサービスとして、ニューヨーク・タイムズ、ナショナルジオグラフィック、バズフィード、NBC、アトランティック、ガーディアン、BBCニュース、シュピーゲル、ビルトの9社をメディアパートナーとして開始。同年12月にはアンドロイドにも対応した。

「インスタント記事」は2016年には、日本でも展開され、当初は朝日新聞、産経デジタル、東洋経済新報、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞が参加している。

アプリではなくコンテンツのフォーマットで、平均8秒かかるニュースメディアのコンテンツ表示を「10倍」の高速にして、多彩な表現が可能になる、といううたい文句のサービスだった。「インスタント記事」は、フィード上のサムネイルに表示される「イナズマのマーク」で見分けることができた。

注目されたのは、メディアのコンテンツへのリンクを投稿するのではなく、コンテンツそのものをフェイスブックのサーバーに置くことで、表示高速化を実現する、という点だった。

※参照:フェイスブックとメディアのコンテンツ提携は、モバイルジャーナリズムの実験場になるか(05/16/2015 新聞紙学的

2015年は、ネットの舞台がすでにパソコンからモバイルに移っていた一方、3G(第3世代移動体通信)から4Gへの過渡期で、世界的にはなお2Gも残るというタイミング。コンテンツの表示高速化は共通の課題でもあった。

このため、同年6月にはアップルもiOSの新アプリ「ニュース」用のフォーマット「アップルニュースフォーマット」、10月にはグーグルが同様のアンドロイド対応(2016年にはiOSにも対応)のフォーマット「AMP(アンプ)」も相次いで公表されている。

※参照:アップルはニュースの〝音楽配信〟を目指すのか?(07/18/2015 新聞紙学的

※参照:「グーグルHTML」ニュースのルールを決めるのは誰か?(10/10/2015 新聞紙学的

この時期はまた、バズフィードのようなデジタルネイティブなメディアが、コンテンツを自社サイトではなくプラットフォームに直接配信する「分散型コンテンツ」の動きが注目を集めてもいた

ただ多くのメディアには、「インスタント記事」のような取り組みは、プラットフォームによる「コンテンツ抱え込み」と映り、広告収入とユーザーデータの「抱え込み」への懸念につながった。

※参照:フェイスブックの「コンテンツ抱え込み」はメディアにとって悪魔の誘いか(03/29/2015 新聞紙学的

※参照:「分散型メディア」本格化の年か? 2016年、ジャーナリズムの行方(12/26/2015 新聞紙学的

●相次ぐ離脱と「フェイクの巣」

「インスタント記事」は開始からしばらくすると、メディアの相次ぐ離脱がニュースとなる。

コロンビア大学トウ・デジタル・ジャーナリズム・センターの2018年の調査では、ニューヨーク・タイムズは2017年2月、ワシントン・ポストは同年8月に、「インスタント記事」への配信を停止していた。

ガーディアンも2017年4月に離脱している。

※参照:メディアの危機とフェイクニュースの氾濫を、シリコンバレーがつなぐ(08/27/2017 新聞紙学的

参加メディアは、広告収入とユーザーデータ提供、いずれの面でも自社サイトでの掲載を下回る結果に不満を募らせていたという。

バズフィードの2018年2月の報道によると、大手メディアは「インスタント記事」から相次いで離脱。その後には、フェイクニュースサイトが巣食うようになっていた、という。

デジデイは2020年12月、「インスタント記事」に復調の兆しがある、とも報じている。だが、そのような見方は広がりを持たなかったようだ。

●残滓の整理

3Gから4Gへの過渡期に始まった「インスタント記事」の終了は、4Gから5Gへの過渡期の現在、フェイスブックにとっては残滓の整理のような意味合いもありそうだ。

グーグルの「AMP」も、2020年5月、事実上の終了が表明されている。

フェイスブックは2017年に「フェイスブック・ジャーナリズム・プロジェクト」、グーグルは2018年に「グーグル・ニュース・イニシアティブ(GNI)」を立ち上げるなど、ニュースメディア支援施策を掲げ、ジャーナリストのマシュー・イングラム氏は「世界最大のジャーナリズムへの資金提供者」と呼んだ。

一方で、EU、オーストラリアでは、この両社を標的としてニュース使用料支払いをめぐる法整備が行われ、同様の動きは各国に飛び火している。

※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的

「フェイスブックニュース」終了を伝えるウォールストリート・ジャーナルの今年6月9日付の記事によれば、それに加えてフェイスブックの場合は、ザッカーバーグ氏が「フェイスブックやアルファベット傘下のグーグルなどのプラットフォーム上に表示されるあらゆるニュースコンテンツについて、メディアへの支払いを強制しようとする世界的な法規制の動きに失望した」ことが、同社の「メディア離れ」を後押ししているという。

さらに同紙の7月19日付の記事によれば、メタは「ブレティン」「フェイスブックニュース」のリソースを、メタバースやティックトックに対抗するショート動画のクリエーターに投入していく方針だという。

局面は、ニュースコンテンツから、クリエーターコンテンツへ転換した。この転換に、ニュースメディアはどう対応するだろうか。

(※2022年10月17日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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