「環境後進国」化で没落の日本、「グレタ世代」の若者達と農業に逆転のチャンス
日本には優れた環境技術がある――かつてはそう言われてきた。ただ、少なくとも地球温暖化防止のための脱炭素の分野においては、もはや日本は「後進国」へと落ちぶれていることを、そろそろ直視すべきだろう。EV(電気自動車)の開発・普及、世界的な大企業がサプライチェーンを含め脱炭素化を推進する国際的な流れの中で、日本の脱炭素化の遅れは、環境技術だけでなく経済全体の没落も招くことになる。だからこそ、これまでの失敗を認め、新たな対応策を取るべきだ。幸い、日本には大きな可能性がある。
〇日本製品が「ダーティーな製品」と敬遠される?
脱炭素の分野において、日本もかつては優れた技術を持つ国だとされていた。だが、お家芸だった太陽光発電は中国やカナダ、米国などの企業にシェアを奪われ、風力発電は、デンマークや米国、中国の企業が強い。そうした中、日本の大手電力は、よりにもよって数多の発電方式の中でも、最もCO2排出係数の高い、石炭火力発電に固執している。昨年、COP26(国連気候変動枠組条約締約国第26回会議)で、2030年代に主要経済国が石炭火力発電を廃止することが、40カ国以上の賛成で合意されたにもかかわらずだ。石炭火力発電への依存は、世界市場における日本製品のハンデとなる。既に、サプライチェーンを含め脱炭素をアップルやグーグルなどのグローバル企業が目指す流れがある中、石炭火力発電による電力で作られた日本製品は、脱炭素的に「ダーティーな製品」と敬遠されることも、今後、十分に起きうることなのだ。
〇「グレタ世代」が叫ぶ脱石炭
大手電力や政府与党が「脱石炭」に後ろ向きな中、日本で声をあげているのが、「グレタ世代」とも言える若者達だ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの「気候ストライキ」(=温暖化対策を求めるデモに参加するため、学校や仕事を休んで行う抗議活動)に影響を受けた若者達は、日本にもいる。彼らが、今取り組んでいる重要課題の一つが、GENESIS松島計画の見直しを求める活動だ。
GENESIS松島計画は、電源開発株式会社(以下、J パワー)が、老朽化した松島火力発電所(長崎県西海市)に、ガス化設備を追加することにより、運転を継続するというもの。Jパワー側の説明によれば「CO2をはじめとする環境負荷を速やかに低減しつつ電力の安定供給を実現する」「バイオマス、アンモニア等カーボンフリー燃料の導入により、更なる CO2 削減の実現を目指す」という。だが、気候ネットワークなどの環境NGOが指摘するように、ガス化設備を追加したところで、石炭火力発電が膨大なCO2を排出することには変わらない。また、バイオマス燃料も、FoE Japanなどの環境NGOが指摘するように、生産するために森林が伐採された場合に、樹木や土壌などに蓄えてきた炭素が放出されるため、CO2を出さないカーボンフリー燃料とは言い難く、生産地での自然破壊につながる恐れもある。また、アンモニア燃料も、化石燃料からつくる際にCO2が発生するので、これまたカーボンフリー燃料とは言い難い。J パワー側は「CCUS(二酸化炭素回収・貯留・活用) を組み合わせる」ことで、脱炭素化を目指すとしているが、同社に筆者が確認したところ、CCUSの活用は「検討している」ものの、「現時点でいつ行えるかは決まっていない」とのことで、バイオマス・アンモニア燃料も同様とのことだ。温暖化防止は時間とのたたかいでもあり、早急な脱炭素化が求められる中、やはり、石炭火力発電を「改良」して今後も活用していこうという方針は得策だとは言い難い。
このGENESIS松島計画の見直しのパブリックコメントを送るキャンペーンを行っている のが、「350NewENEration」だ。国際環境NGO 350japanから派生した、10代、20代の若者達が参加するアクションチームで、「石炭ゾンビ」というサイトを立ち上げ、上述のパブコメの募集や、識者メッセージの紹介、勉強会の開催を行っている。
〇農業+再エネで地方活性化を目指せ
そもそも、日本は太陽光、風力、小中水力、地熱など、いずれもポテンシャルが高く、その気になれば、再生可能エネルギー大国になれる。国策として、再エネを導入し、中国や欧米に遅れを取っている関連の技術やシェアで巻き返しを図るべきなのだ。筆者が注目しているのは、農地や休耕地と共存する太陽光発電、ソーラーシェアリングである。これについては、以前、記事を書いたので、そちらも参照していただきたいが、ソーラーシェアリングだけでも、日本の総電力需要をまかなうポテンシャルがあること、農業や地方の活性化にもつながることから、非常に有望だと言える。これに加え、EVの普及推進と、EVのバッテリーを「仮想発電所」として活用することで、夜間発電できない太陽光発電の弱点をカバーしていけばよいだろう。
政府与党は、安倍政権以降、「クリーンな石炭火力発電」を国策として推進してきたが、上述したように、その様なものは現状では存在せず、技術の確立を待つ時間もない。政府も企業も、若者達の声に耳を傾け、脱石炭・再エネ普及に速やかに取り組むべきなのだ。
(了)