名古屋でポジティブな新型コロナ対策。コーヒーチケットで喫茶店を応援!
喫茶店ビジネスの黎明期から根づく名古屋のコーヒーチケット文化
名古屋は喫茶店文化が根づいた街。常連客がよりおトクさを感じられるコーヒーチケットも広く浸透しています。コーヒーチケットはいわゆるプリペイドカードの一種で、コーヒー10枚分の値段で11枚つづりなど、コーヒー代をまとめて前払いすることで割引サービスを得られるというものです。名古屋の喫茶店ではこれを店が預かるのが当たり前。名前を書いたチケットをレジの横に貼り付けておき、常連客の会計の際にマスターが無言で1枚千切る“あうんの呼吸”が、特に老舗の喫茶店ではしばしば見られます。
1962年創業の「珈琲じゅん」(名古屋市昭和区)のマスター、下山純さんによると「店を始めた昭和30年代当時から、名古屋では一般的だった。チケットのセールをする店だと、常連さんが10冊ほどまとめて買って取引先や友人に配るんだな。もらった人は使い切らないことも多いから、それで割引分も相殺されて、店としてはありがたいんですよ(笑)」といいます。コーヒーチケットがコミュニケーションの場として浸透している名古屋ならではの活用法であり、店にとっても単に割引するだけではないうまみのあるシステムであることがうかがえます。ちなみに同店では、お客のおよそ半数がチケットを利用するといいます。
クラウドファンディング支援者への特典は“店員さんからのお礼のことば”
このコーヒーチケットの文化を活かして、名古屋の喫茶店を応援しようというプロジェクトがスタートしました。「ウィルスで気持ちも沈みがち。喫茶店の珈琲チケットを買ってナゴヤを盛り上げよう!」と題したクラウドファンディングです。
発起人はR-pro代表・岡本ナオトさん。街づくりや企業ブランディングなどを手がける岡本さんの新型コロナウイルス禍への危機感が、プロジェクト発足のきっかけでした。
「コロナ騒動が拡大するさなか、ある飲食店へ入ったら閉店までお客が僕1人だけだったんです。周りから“厳しい”という声は聞いていましたが、これは本当にマズいと思い知らされ、“何かやらなければ・・・!”と思ったんです」(岡本さん)
R-proはクラウドファンディング「CAMPFIRE」(キャンプファイヤー)のエリアパートナーで、これまでにいくつものクラウドファンディングを手がけてきたことから、今回もこの仕組みを活用することに。参加する店舗にも負担がない方法を、と考えた結果、喫茶店のコーヒーチケットを購入してもらうプランを思いつきました。
「外出の自粛が叫ばれているご時世にあって、お店から“来てください”とは言いにくい雰囲気がある。そこで来店型ではない売上確保の仕組みを考えた結果、喫茶店のコーヒーチケットを買うことでお店に貢献できるのでは、と考えました」(岡本さん)
コーヒーチケットを取り扱っている名古屋市内の喫茶店に声をかけ、3月5日に7店舗でスタート。支援者は自分が気に入った喫茶店のコーヒーチケットの代金(2000~6500円 ※店舗により異なる)を振り込み、プロジェクト終了後に店へ出向いてチケットを受け取ります。チケットの金額は通常の販売価格と同じですが、特典として「チケット受け渡しの際、店員さんよりこころからのお礼のことば」が贈られるというのも気が利いています。スタートから一週間あまりで支援者は60人を超えて順調に伸びています。
コーヒーチケットでお客は未来の楽しみを、喫茶店は今日の売上を得る
プロジェクトの期間は4月25日まで。各店舗のチケット販売枚数は100枚。参加店の募集も引き続き行っていて、20店舗まで受け付ける予定だと言います。クラウドファンディングは目標金額を設定して支援を集めるものが一般的ですが、今回は目標金額に満たない場合も計画を実行するオールイン方式を採用しています。
「今は外食に出かけるのも躊躇せざるを得ない空気になってしまっていますが、今行けなくても自分が好きなお店を応援することはできないか、とみんなが考えるきっかけになれば、と思うんです。自分の近所にプロジェクトの参加店がないのであれば、普段から利用している喫茶店のコーヒーチケットを買おう、と思ってもらえればいいんです」(岡本さん)
お出かけできずにストレスがたまりそう、という消費者。売り上げが落ちて経営が苦しい、という飲食店。前者にとっては少しだけ未来の喫茶店に足を運ぶ楽しみができ、後者にとっては売上の補てんができるコーヒーチケットのクラウドファンディング。喫茶店文化が根づいた名古屋ならではの取り組みは、1人1人、そして一軒一軒が今できるささやかだけどポジティブなコロナウイルス対策といえるのではないでしょうか。筆者もまずは近所のなじみの喫茶店のコーヒーチケットを買いに行くことにします。
◆クラウドファンディング参加店の情報などはこちらを
(写真撮影/すべて筆者)