仙台育英が開けた、もうひとつの「100年の扉」とは? 甲子園・過去10大会のランキング
高校野球はこれから、各都道府県の秋季大会が本番を迎える。夏の甲子園では仙台育英(宮城)が東北勢として初優勝。優勝旗が初めて白河の関を越えたが、過去10大会の甲子園戦績を見ると、その予兆があった……?
春夏ともに中止になった2020年を除き、直近5回ずつの選抜高校野球大会、全国高校野球選手権大会の都道府県別戦績を調べてみた。
勝利数ランキングでは……そう、圧倒的にあそこが強い。大阪、である。大阪桐蔭がセンバツ3回、夏1回の優勝で、履正社も夏の優勝とセンバツ準優勝が1回ずつ。大阪府全体では、計10大会で39勝8敗である。以下、勝利数の都道府県別ベストテンはこうなる。
近江の活躍で滋賀が大躍進
1 大 阪 39勝8敗(春21勝4敗 夏18勝4敗)
春優勝/大阪桐蔭3 夏優勝/大阪桐蔭、履正社 春準優勝/履正社
2 東 京 22勝10敗(春7勝7敗 夏15勝10敗)
3 和歌山 20勝10敗(春12勝6敗 夏8勝4敗)
夏優勝/智弁和歌山 春準優勝/智弁和歌山
4 滋 賀 19勝10敗1分(春7勝5敗1分 夏12勝5敗)
夏準優勝/近江
5 兵 庫 17勝11敗(春7勝5敗 夏10勝6敗)
6 奈 良 16勝11敗(春6勝6敗 夏10勝5敗)
夏準優勝/智弁学園
7 宮 城 15勝7敗(春3勝3敗 夏12勝4敗)
夏優勝/仙台育英
8 埼 玉 14勝7敗(春3勝2敗 夏11勝5敗)
夏優勝/花咲徳栄
石 川 14勝9敗(春7勝4敗 夏7勝5敗)
夏準優勝/星稜
神奈川 14勝10敗(春8勝4敗 夏6勝6敗)
春優勝/東海大相模
東京は毎夏2代表が出場するから勝ち星を稼ぐのはわかるとして、近畿の強さがきわだつ。特筆は滋賀だろう。19勝のうち、近江が16勝。そのうち21年夏からはベスト4、準優勝、ベスト4と3季連続上位に進出し、ここ2年だけで12勝している。これは同期間の大阪桐蔭をもしのぐ数字。1979年までは夏未勝利で、近畿のお荷物といわれていた県が、よくぞここまで……。また奈良は、智弁学園、天理の2強がコンスタントに勝ち星を重ねている。
そして、宮城。15勝のうち14勝は仙台育英で、東北勢念願の初優勝を果たしたこの夏、須江航監督の「100年、開かなかった扉が開いた」という優勝インタビューが印象的だった。第1回大会(1915年)の秋田中が決勝で敗れてから100年超で、東北勢が優勝にたどり着いたことをさしたものだ。
100年ごし、で気がついたことがもうひとつ。宮城県勢はこの優勝で、甲子園通算105勝100敗。大会前までの100勝100敗から、勝ち星が上回ったのである。1923年夏、仙台一中が初めて夏の大会に出場して以来、宮城県勢はずっと黒星先行だった。
宮城が「貯金クラブ」の仲間入り
2019年、須江監督率いる仙台育英がベスト8に進んだとき、大会中に一時白星と黒星が並んだが、準々決勝で敗れて101勝102敗。21年の春夏には大会途中、白星が上回ることもあったが、どちらも終わってみれば"貯金"まではできていなかった。
つまり宮城県勢にとって、大会が終わっても白星が上回るのは、初出場から100年目で初めてのことなのだ。47都道府県中、勝ち越しているのは19都府県だけ。初優勝は、「貯金クラブ」の扉をも開いたわけだ。
昨年までの過去8大会で、東北6県からは金足農(秋田)が準優勝を果たし、育英にはベスト4が1回、ベスト8が2回あり、ほかにも8強は盛岡大付(岩手)が2回、八戸学院光星(青森)、花巻東(岩手)、聖光学院(福島)が各1回。これ、近畿はともかく関東や四国にも劣らない実績で、近年の東北は高いレベルにあったといっていい。そこで切磋琢磨してきた仙台育英の初優勝はだから、むしろ必然といえるのかもしれない。
そしてちなみに……過去10大会、甲子園で1勝もしていない県がひとつある。佐賀だ。その白星は15年までさかのぼり、春夏通算44勝(77敗)は47都道府県中44位。それでいて佐賀商と佐賀北、2回の全国制覇があるというのがおもしろい。
またこれも、過去5回で唯一センバツの出場がないのが新潟で、14年の日本文理が最後だ。新潟は通算31勝(73敗)と、通算白星でも最下位。過去10大会の大阪の勝ち星にも及ばない。私事ながら、筆者は新潟出身である。なんとか、滋賀にあやかれないものか。