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仙台育英が開けた、もうひとつの「100年の扉」とは? 甲子園・過去10大会のランキング

楊順行スポーツライター
2015年の夏は決勝であと一歩及ばなかった仙台育英(写真:アフロ)

 高校野球はこれから、各都道府県の秋季大会が本番を迎える。夏の甲子園では仙台育英(宮城)が東北勢として初優勝。優勝旗が初めて白河の関を越えたが、過去10大会の甲子園戦績を見ると、その予兆があった……? 

 春夏ともに中止になった2020年を除き、直近5回ずつの選抜高校野球大会、全国高校野球選手権大会の都道府県別戦績を調べてみた。

 勝利数ランキングでは……そう、圧倒的にあそこが強い。大阪、である。大阪桐蔭がセンバツ3回、夏1回の優勝で、履正社も夏の優勝とセンバツ準優勝が1回ずつ。大阪府全体では、計10大会で39勝8敗である。以下、勝利数の都道府県別ベストテンはこうなる。

近江の活躍で滋賀が大躍進

1 大 阪 39勝8敗(春21勝4敗 夏18勝4敗)

      春優勝/大阪桐蔭3 夏優勝/大阪桐蔭、履正社 春準優勝/履正社

2 東 京 22勝10敗(春7勝7敗 夏15勝10敗)

3 和歌山 20勝10敗(春12勝6敗 夏8勝4敗)

      夏優勝/智弁和歌山 春準優勝/智弁和歌山

4 滋 賀 19勝10敗1分(春7勝5敗1分 夏12勝5敗)

      夏準優勝/近江

5 兵 庫 17勝11敗(春7勝5敗 夏10勝6敗)

6 奈 良 16勝11敗(春6勝6敗 夏10勝5敗)

      夏準優勝/智弁学園

7 宮 城 15勝7敗(春3勝3敗 夏12勝4敗)

      夏優勝/仙台育英

8 埼 玉 14勝7敗(春3勝2敗 夏11勝5敗)

      夏優勝/花咲徳栄

  石 川 14勝9敗(春7勝4敗 夏7勝5敗)

      夏準優勝/星稜

 神奈川 14勝10敗(春8勝4敗 夏6勝6敗)

     春優勝/東海大相模

東京は毎夏2代表が出場するから勝ち星を稼ぐのはわかるとして、近畿の強さがきわだつ。特筆は滋賀だろう。19勝のうち、近江が16勝。そのうち21年夏からはベスト4、準優勝、ベスト4と3季連続上位に進出し、ここ2年だけで12勝している。これは同期間の大阪桐蔭をもしのぐ数字。1979年までは夏未勝利で、近畿のお荷物といわれていた県が、よくぞここまで……。また奈良は、智弁学園、天理の2強がコンスタントに勝ち星を重ねている。

 そして、宮城。15勝のうち14勝は仙台育英で、東北勢念願の初優勝を果たしたこの夏、須江航監督の「100年、開かなかった扉が開いた」という優勝インタビューが印象的だった。第1回大会(1915年)の秋田中が決勝で敗れてから100年超で、東北勢が優勝にたどり着いたことをさしたものだ。

100年ごし、で気がついたことがもうひとつ。宮城県勢はこの優勝で、甲子園通算105勝100敗。大会前までの100勝100敗から、勝ち星が上回ったのである。1923年夏、仙台一中が初めて夏の大会に出場して以来、宮城県勢はずっと黒星先行だった。

宮城が「貯金クラブ」の仲間入り

 2019年、須江監督率いる仙台育英がベスト8に進んだとき、大会中に一時白星と黒星が並んだが、準々決勝で敗れて101勝102敗。21年の春夏には大会途中、白星が上回ることもあったが、どちらも終わってみれば"貯金"まではできていなかった。

 つまり宮城県勢にとって、大会が終わっても白星が上回るのは、初出場から100年目で初めてのことなのだ。47都道府県中、勝ち越しているのは19都府県だけ。初優勝は、「貯金クラブ」の扉をも開いたわけだ。

 昨年までの過去8大会で、東北6県からは金足農(秋田)が準優勝を果たし、育英にはベスト4が1回、ベスト8が2回あり、ほかにも8強は盛岡大付(岩手)が2回、八戸学院光星(青森)、花巻東(岩手)、聖光学院(福島)が各1回。これ、近畿はともかく関東や四国にも劣らない実績で、近年の東北は高いレベルにあったといっていい。そこで切磋琢磨してきた仙台育英の初優勝はだから、むしろ必然といえるのかもしれない。

 そしてちなみに……過去10大会、甲子園で1勝もしていない県がひとつある。佐賀だ。その白星は15年までさかのぼり、春夏通算44勝(77敗)は47都道府県中44位。それでいて佐賀商と佐賀北、2回の全国制覇があるというのがおもしろい。

 またこれも、過去5回で唯一センバツの出場がないのが新潟で、14年の日本文理が最後だ。新潟は通算31勝(73敗)と、通算白星でも最下位。過去10大会の大阪の勝ち星にも及ばない。私事ながら、筆者は新潟出身である。なんとか、滋賀にあやかれないものか。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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