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阪神ドラ1の伊原陵人、社会人野球からの卒業式・日本選手権でホロ苦い「答辞」

楊順行スポーツライター
(提供:イメージマート)

「調子は悪くなかったのに打たれてしまうのは、なにか足りないということ。まだまだ実力不足かな」

 阪神のドラフト1位指名・伊原陵人(NTT西日本)は、そう悔しがった。開催中の社会人野球日本選手権。Hondaとの1回戦に先発し、初回に自己最速タイの149キロを計測するなど無難に立ち上がったが、3回に2点を先制され、4回には長短打と死球で満塁とされて降板。持ち前のコントロールが定まらず、3回3分の1を5安打4四死球2失点で社会人野球を終えた。

 なにかが足りない、というのは2月のキャンプ取材でも耳にした言葉だ。

 智弁学園高から進んだ大阪商大では、1年春から救援で活躍。2年秋に先発の一角に食い込んで通算15勝、通算防御率0.91で、最優秀投手をはじめ多くの賞に輝いた。特筆は黒星の少なさで、2年秋に1敗を記録したのみと、まさに勝ちを計算できる左腕。カットボールやスライダーなど変化球が多彩で、「技術は高いものを持っていて、とりわけ各コーナーに投げ分けるコントロールが抜群。左右どちらの打者にもきっちり内角をつける」とは、小原孝元コーチの評だ。今年の都市対抗では、三菱自動車岡崎との初戦に先発して5回1失点に抑え、河本泰浩監督に東京ドーム初白星をもたらしている。

なんでオマエが1位やねん……とLINEが

 NTT西では、1年目からチーム最多の公式戦6試合に先発して防御率0.94と、エース格だった。だが本人は、数字はともかく課題を感じたという。「もうひとつ、なにかがないといけない。まっすぐのスピードであったり、三振を奪える変化球であったりを突き詰めたい」。それがたとえば、1年目に「常時140キロ前後」(小原コーチ)だった球速のアップで、ウエイトトレーニングに取り組んで力強さとキレが増したストレートは、2年目に149キロまで伸びた。本人も「まっすぐでファウルが取れるようになった」と、手応えを感じていたものだ。

 高校では村上頌樹(現阪神)の2学年下で、ドラフト後は「なんでオマエが1位やねん」とLINEが届いたとか。社会人野球最後の試合はやや不本意に終わったが、再度同じチームとなったあこがれの先輩に、少しでも近づきたい。

 10月24日のプロ野球ドラフト会議では、社会人野球に在籍する選手13人が指名を受けた。その5日後、29日に開幕した第49回日本選手権にも、そのうち数名が出場。社会人野球シーズンを締めくくるこの大会は、プロ入りする選手にとって、いわば卒業式にあたる。

 29日の開幕試合に登場したのは、NTT東日本・片山楽生投手(オリックス6位)だ。9月のクラブ選手権で優勝したマツゲン箕島硬式野球部に6点をリードした9回の守り、3番手として登板。打者4人を1安打無失点にまとめている。この日の最速は148キロ。プロでも本拠地となる京セラドーム大阪での登板には、

「社会人1、2年目でも登板して、投げやすい球場。楽しみに(マウンドに)上がりました」

 思い出すのは、入社1年目の2021年だ。都市対抗、TDKとの2回戦。飯塚智広監督(当時)が「NTT史上初の、高校ルーキーの先発」に抜擢した片山は、6回1死に同点弾を浴びるまで、1安打無失点という力投を見せたのだ。入社当時「レベルが違いすぎ、土俵の上にいる先輩たちを仰ぎ見ていた」片山にとって、「まさかの東京ドーム」で見せた鮮烈なデビューだった。

 白樺学園高(北海道)時代は、出場が決まっていた20年のセンバツが中止になるなど、目立った成績はない。だが社会人入りすると、「持って生まれた球質のよさ」を見て取った安田武一コーチと二人三脚でフォームを改造。その夏に行われた日本選手権では球速が151キロに達し、準決勝の1回を零封する。

 その後も場数を踏み、東京ドームでは「こっちは高卒1年目、相手はエリート。打たれて当然と気が楽になり、自分のピッチングができた」という。2年目には侍ジャパン入りし、10月のU-23ワールドカップでは4試合、10回をわずか1安打に抑え、優勝に貢献。先発したメキシコとの準決勝では、5回を6三振無安打と完璧だった。

 球質のよさを本人は、「ホップ成分が大きいのが持ち味」と表現する。プロ解禁の昨年、指名はなかったが、今季が大学4年にあたる年齢だからまだまだ若い。

 31日の第3試合では、同じくオリックス5位指名のENEOS・東山玲士がミキハウス戦に先発。巨人のスカウトから転身した桜井俊貴との投げ合いになったが、4回1失点で降板。チームも敗れ、試合後は「大事な場面で信頼される投手になりたい」と、退任が決まっていた大久保秀昭監督への感謝を語りながら、プロでの飛躍を誓った。

 日本選手権ではここからも、三菱重工Westの竹田祐(DeNA1位)らの勇姿が見られそうだ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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