バレンタイン売上日本一! 名古屋で開催の世界屈指のチョコの祭典
世界一チョコを売る名古屋・タカシマヤのバレンタイン催事
バレンタイン商戦真っただ中。中でも熱いのがジェイアール名古屋タカシマヤです。現在開催中の「アムール・デュ・ショコラ」(1月18日~2月14日)は百貨店のバレンタイン催事としては昨年まで9年連続売上日本一。昨年は約4週間で85万人以上が来場し、過去最高の24億円を売り上げました。この金額は、ひとつのチョコイベントとしては世界一といっても過言ではない超ド級の記録です。
単に売上や来場者が多いだけではありません。世界の名だたるトップブランドがランキング1位を目指してしのぎをけずり、このイベントのためだけに開発された限定商品も少なくありません。有名シェフたちも連日店頭に立ってサインをしたり記念撮影に応じたりと会場を盛り上げます。世界最高峰の美味を求めて東京や大阪など遠方からわざわざ足を運ぶファンも珍しくないほど。“名古屋でやたらと人気のチョコ催事”というレベルではもはやなく、質量ともに世界屈指のチョコの祭典となっているのです。
百貨店の常識を打ち破った若手社員のチャレンジ精神
連日オープン前から行列ができ、朝から晩までごった返す会場の熱気を、主催者は「花火大会のよう」と表現します。「誰が行っても楽しめ、混雑してもそれもまた思い出になり、何度でも行きたくなる。そして何より現地に行かなければ味わえない熱気や楽しさがある。そんな花火大会にも通じる盛り上がりを関係者全員でつくり上げています」とジェイアール名古屋タカシマヤの広報・犬飼奈津子さん。
同店がバレンタイン催事を始めたのは2001年。オープンは前年の3月だったため、初めて迎えるバレンタインでした。この時の、当時の百貨店業界の常識を打ち破るチャレンジ精神が、現在の巨大イベントへとつながる足がかりとなりました。
「それまでの百貨店の催事は洋服のバーゲンか物産展がほとんどで、バレンタインは地下の食料品売り場で販売スペースを拡大したり、婦人服売り場の一角に販売スペースを設置する程度が一般的でした。何かこれまでの百貨店にはない企画をできないかという思いから、催事会場を大々的に使ったバレンタインイベントを行うことになったのです」(犬飼さん)
開店2年目だったため若手社員が多く、彼女たちの意見をダイレクトに活かせたこともチャレンジできた大きな要因だったといいます。
「1回目のバレンタイン催事を任されたのは25歳の女性社員。高島屋のような老舗の百貨店では通常はあり得ない抜擢です。売上は5000万円未満でしたが、当初目標を上回る大成功でした。若さゆえのチャレンジ精神はその後も発揮され、2年目には人気絶頂だったモデルのはなさんに女性社員30人がラブレターを書いて商品のプロデュースを依頼。その熱意が通じ、オリジナルチョコを商品化して、店頭にも立っていただけました」(犬飼さん)。
世界的なブランド、シェフが本気になる仕組みづくり
手ごたえを確かにした同店は、その後も積極的に“次の一手”を打っていきます。第2回の開催に先駆けて着目したのは冷蔵ケース。ブランドに出店交渉する際には冷蔵ケースを用意できることが条件となり、バレンタインの時期には全国の百貨店同士で争奪戦となります。そこで同店は2002年にリース会社といち早く独自に契約を結び、ケースを大量確保することに成功しました。
2012年に導入したのが「売上ランキングボード」です。会場の一画に、前日の売上ランキングを紹介するボードを設置。そもそもは来場者向けの案内が目的でしたが、これがブランド間の競争意識に火をつけることに。売上アップのために連日シェフが来場したり、商品開発にもいっそう力が注がれるようになりました。
売上が伸びるにしたがい、ブランドにとってもジェイアール名古屋タカシマヤのバレンタインは特別なものになっていきます。世界のトップシェフがこのイベントのためだけの限定品を競い合うように開発するようになり、昨年は高級チョコレートブランド「ゴディバ」が世界初となる限定品を販売。今回は約80種類の同イベントだけの限定品が登場し、ファンの購買意欲を高めています。
現在もイベントの中心的役割を担っているのは30代前半の若手社員です。バイヤーの牧村舞さんはアムール・デュ・ショコラを担当して3年目の33歳。「毎年、約30のブランドを入れ替え、5月には100以上の出店者が決まります。そこから各社と協議を重ねて、会場にふさわしい商品、全体のバランスの取れたラインナップを各ブランドと一緒に考えていきます」と、思い入れたっぷりに魅力的な売り場づくりに取り組んでいます。
名古屋のイベントだからこそのご当地色も商品に反映されています。
「料理やお菓子の世界でも、近年は和の素材に対する注目度が高まっています。名古屋を中心とした東海地方は食材の宝庫ですから、この地方の素材を積極的に取り入れるブランドも多い。八丁味噌、西尾の抹茶、飛騨の山椒、蒲郡のみかんなど、特に限定品はご当地食材を活かした商品が多く、これらもイベントの独自性につながっています」(犬飼さん)
堅実だけどミーハーな名古屋人気質が人気をさらに加速化
世界から注目され、全国からファンが足を運ぶアムール・デュ・ショコラですが、もちろんお客の中心は名古屋の女性たちです。イベントがここまで大きくなった背景には、名古屋ならではの消費動向や気質があったのでしょうか?
「結婚式が派手と昔からいわれるように、イベントにお金をかけるという土地柄はあると感じます。アンケート調査からも“せっかくだからいいものを買いたい”という意識が強いことは確か。今年行った最新の意識調査では、予算総額1万円以上という方が約55%もいらっしゃいます。また、おすそわけの文化や親子の同居率の高さも、1組のお客様の購入額の高さにつながっているのでは」と広報・犬飼さん。
さらに名古屋女性がターゲットの情報誌『ケリー』の堀井好美編集長は、次のように分析します。
「名古屋人は堅実だけどミーハー。はやっているもの、他人がいいといっているものには安心して飛びつく傾向にあります。アムール・デュ・ショコラは今や名古屋で流行に関心のある女性なら誰もが足を運ぶイベントになっていて、“みんなが行くから私も行く”という意識が働き、年々人気が加速している。また、限定好き・ブランド好き・行列好きでもあるので、チョコが特別好きな人でなくともお祭りとして楽しめるのではないでしょうか」
名古屋人はチョコ好き? それとも・・・?
では、日ごろのチョコ需要はどうでしょう? 名古屋人(愛知県民)のチョコレート消費量は全国11位。板チョコ換算で全国平均22・7枚よりやや多い年間約26枚と、とりたててチョコ好きといえるほどではないようです(トップは山口県で約37枚、最下位は熊本県で約15枚。2017年、総務省統計局調べ)。
国内のチョコのトップメーカー、ロッテも「名古屋に特化した消費傾向は見られず、バレンタイン商戦に関しても特筆できるような傾向は見られません」といいます。さらにはチョコ市場全体および同社の2月の売上は年間の約11%。ロッテ調べではバレンタインデーにチョコを贈る人はおよそ7割と国民的行事になっているといえますが、年間を通してチョコを好んで食べている人が多く、バレンタインだけ突出してチョコの消費が伸びるというわけではないようです。
このような事情からも、ジェイアール名古屋タカシマヤのアムール・デュ・ショコラは、企画力や運営力で特需を生み出している特別なイベントといえるでしょう。
日本流バレンタイン文化の広がりを象徴するイベント
かつての日本のバレンタインデーは、女性が男性にチョコを贈る日であり、さらには会社内で義理チョコが大量に配られるという習慣も一般化していました。しかし、近年は純粋においしいチョコレートを選んで食べたいというグルメ志向や、世界的なチョコのブランドやショコラティエのトレンドに着目する、テーマパーク的にイベントを楽しむなど、楽しみ方は多様化し、同時に男性でもそこに加わる人は珍しくなくなっています。取材時の会場でも「年に一度のお祭りとして毎回楽しみにしています。自分用、家族用とで予算は1万5000円ほど」と行列に並びながら充実した表情で話してくれた30代男性の声もありました。参考までに、国内のチョコの消費量は1987→2017年の30年間で約65%も増えています(全日本菓子協会の推定数字による)。
アムール・デュ・ショコラは、そんなバレンタインデーやチョコレート文化のすそ野の広がりを体感できる国内最大規模のイベントとなっています。“堅実だけどミーハー”といういってみれば典型的な日本人気質が根強い名古屋の土地柄も背景にあり、すなわち多くの日本人が楽しめる催しといえるでしょう。取材時は会場の熱気に圧倒されて写真を撮るのが精いっぱいだった筆者も、期間中にあらためて足を運んでみたいと思います。
(写真撮影/オープニングセレモニーの写真のみジェイアール名古屋タカシマヤ提供、他はすべて筆者)