〝高齢〟歌手の増加が、視聴率低下を招く?──可視化された2024年の〝迷える『紅白歌合戦』〟
大晦日を迎え、今年も75回目の『NHK 紅白歌合戦』が放送される。
日本でもっとも注目されるこの音楽番組は、年々その顔ぶれが変わる。とくにジャニーズタレントがいきなりゼロとなった昨年の変化は大きかった。そして今年も旧ジャニーズ勢(STARTO勢)の出演はない。その一方でK-POPの存在感が増しているように、出演者の構成は大きく変化した。
このように、芸能界と音楽業界の変化を『紅白』は大なり小なり反映し続けてきた。では、今年の『紅白』は客観的にどう捉えられるのか?
さまざまデータを用いて『紅白』の実態を可視化した。
初出演は7%減少の12組
まず、今年の出演者をおさらいしよう。特別出演も含め今年は47組となろ、昨年から5組減った。ただし、これは2部制となった1989年以降50組前後で推移してきた傾向からすれば、大きな変化とは言えない。
出演回数の傾向を見ると、初出演は12組で昨年より5組・7%も減少している。これは昨年の旧ジャニーズ勢の不在によって初出演枠が増えた反動だ。5回以下の割合では全体の60%を占め、過去10年の平均58%とほぼ変わらない水準を維持している。つまり、若手アーティストの起用を弱めたとは言えない。
その構成からは音楽シーンの安定化も感じられる。5回以下の出演者には、Mrs. GREEN APPLE、Creepy Nuts、Vaundy、緑黄色社会といったアーティストが含まれる。これは、ストリーミング時代に楽曲の力で復権していったJ-POPが、『紅白』にも定着してきた証かもしれない。
異例の「能登半島」を歌う石川さゆり
最多出演者は、今年も47回の石川さゆりだ。これは歴代4位の記録だが、51回の北島三郎に年々近づいており、現在66歳という年齢を考えれば、追い抜く可能性は十分にある。
そんな石川には『紅白』における〝法則〟があった。2007年以降、奇数年に「津軽海峡・冬景色」、偶数年に「天城越え」と交互に歌い続けてきたことだ。だが今年の歌唱曲は「能登半島」となり、その法則はついに破られた。当然これは、2024年元旦に発生した能登半島地震からの復興への願いを込めた選曲と見られる。この曲を石川が『紅白』で歌うのは2003年以来となる。
世代交代の安定点
出演回数の推移を見れば、2010年代中期から生じた新陳代謝が順調に進みつつあることがわかる。ベテラン勢の退場は一段落し、5回以下の新人・若手を6割程度を維持する傾向は続いているからだ。
とくに注目すべきは21回以上のベテラン枠が13%(+1%)と低く抑えられている点だ。1990年代中期から2010年代中期まではいまよりもベテラン勢が多かったが、『紅白』はそこから意図的に世代交代を進め、ここにきて一定の安定点を見出したようにも見える。
新曲割合は相変わらず半分程度
パフォーマンスされる曲目についても特徴的な傾向が見られる。
『紅白』の選考基準のひとつには「今年の活躍」があり、CD売上やストリーミング再生数、カラオケ、ライブなどのデータを参考にするとされている(NHK「選考について」)。たとえば、YOASOBIが出演しないのも、今年の発表曲が大ヒットに結びついていないためだと考えられる(「『タトゥー問題』説も囁かれたが…『アイドル』で沸かせたYOASOBIが、今年の紅白に出ない“納得の理由”」2024年12月30日/『文春オンライン』)。
以上を踏まえれば、当然のことながら新曲が披露されることが考えられるが、近年の『紅白』は必ずしもそうではない。メドレーは増え、演歌勢のように過去曲を何度も歌う歌手も存在する。今年の新曲(過去2年以内にCD・レコード・配信等で発表された曲)の割合は、企画枠も含めて昨年とほぼ同じ49%に過ぎない。
ただし、60年代から90年代まではそうではなかった。披露されるのは新曲ばかりで、その年のヒットが集まる場が『紅白』だった。しかし、今年は往年のヒット曲である髙橋真梨子の「for you…」や南こうせつの「神田川」、イルカの「なごり雪」などがラインナップに入っている。これは、現在の音楽に親しみのない中高年層向けに「懐メロ」を配置しようとする意図だと考えられる。
25-34歳に配信時代のアーティストが定着
一方、出演者の世代構成はどうだろうか。
今回の最年長は75歳の南こうせつと髙橋真梨子、最年少は16歳のtuki.だ。また、65歳以上では、イルカやTHE ALFEEなどのベテランが久しぶりの出演を果たしているのが目立つ。郷ひろみや玉置浩二などかつてのアイドルやロックバンドの歌手たちも、いまや大御所として『紅白』を支える立場だ。
演歌勢の年齢層は意外な結果を示している。55歳以上は石川さゆりと天童よしみ、坂本冬美の3人に限られ、その他は35~54歳の中年層に水森かおり、氷川きよしなどが位置する。かつての「高齢者向けにベテランの演歌歌手」という構図は、北島三郎も五木ひろしも森進一も出演しない現在では、単なる「演歌枠」として残存しているにすぎない。
また今年は25-34歳の層が厚く、Creepy Nuts、米津玄師、Omoinotake、あいみょん、緑黄色社会、Mrs. GREEN APPLE、こっちのけんとといった、配信時代を代表するアーティストたちがこの世代に集中している。
65歳以上は過去最多の9組
経年的に見ると、高年層の出演者が年々増える傾向が続いており、65歳以上に限れば今年は9組(19%)と過去最多を記録した。この傾向は2019年から強まっており、高齢層の視聴者を獲得しようとする意図がうかがえる。
しかし、高年層の出演者を増やすことで果たして視聴者は増えるのだろうか。
34歳以下を「若年層」、35~54歳までを「中年層」、そして55歳以上を「高年層」として、その割合と『紅白歌合戦』の視聴率の推移を重ねると以下のようになる。そこでは驚くような関係が確認された。
一目瞭然なように、若年層が減って高年層が増えるほど、視聴率は落ちる傾向が確認できる。相関係数を出すと、視聴率と出演者の若年層割合は非常に強い正の相関(r=0.92)となり、その逆に、視聴率と出演者の高年層割合は非常に強い負の相関(r=-0.82)を見せる。
もちろん、相関関係はあくまでも関連の強さを示すだけで、因果関係を意味するものではない。よって、ここでは「視聴率の低下と出演者の若年層の減少は、関連がある」、または「視聴率の低下と出演者の高年層の増加は、関連がある」としか言えない。
ただ、2000年代以降の24年間に限れば、その関係が少し異なることも見えてくる。視聴率と出演者の若年層割合は非常に弱い正の相関(r=0.19)しか見せなくなる。出演者の高年層割合とも中程度の負の相関(-0.53)となり、昭和期とは異なることがうかがえる。
また、いま出演者の若年層割合を高めて高年層割合を減らしたところで、視聴率が劇的に改善するとも限らない。若者のテレビ離れが著しいからだ。他にも日本社会の高齢化など変数もあり、このデータだけではっきりしたことは言えない。
ただし、それにしてもこれほど強い相関が出ることは注目に値する。高齢者が、かならずしも同世代の高年アーティストを見たいと思っていない可能性は強く想定されるべきだろう。
『Nスペ』が突撃したNHK元理事
そして今年も触れておかなければならないのは、旧ジャニーズ勢の不選出だろう。一昨年は6組が出場していたが、2年連続でそれがゼロになった。
2011年まで、旧ジャニーズの出演者は2~4組で推移してきたが、2012年以降は5~7枠にまで増えた。もっとも多かったのは、SMAPと嵐が最後に同時出演した2015年の7組。近年は、KinKi KidsやKAT-TUNがヒットと関係なく功労的に出演することもあったほどだ。
対して、K-POP勢を含めた男性グループが増える傾向を見せている。今年は、BE:FIRST、JO1、Da-iCE、TOMORROW X TOGETHER、Number_iと5組の被ジャニーズのグループが出演する。テレビ朝日の『ミュージックステーション』とは異なり、もともと『紅白歌合戦』はジャニーズの競合グループも出演させてきた。DA PUMPやw-inds.も何度も出演している。
しかし2010年代にジャニーズのグループが増えた理由は、いまもはっきりしない。今年10月20日には『NHKスペシャル』でジャニーズ問題を扱った「ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像」と題された番組が放送された。そのなかで2010年代に『紅白』をはじめとする娯楽系番組を手掛け、退職後にジャニーズ事務所の顧問に就任した元NHK理事に対する直撃取材がなされたが、ジャニーズとの強い癒着を否定した。
今回のSTARTO勢のゼロにどれほど『NHKスペシャル』の影響があったかはわからない。タレント側の意思の尊重した結果だとも考えられる。
■変わりゆく『紅白』の姿
最後に、年間を通じた音楽シーンの動向を示すBillboard Artist 100と比べてみよう。すると、今年の出演者のうち半分以上が年間100位圏内であることがわかる。そして、Creepy NutsやNumber_i、tuki.の人気は十分に妥当なことも確認される。
一方で、ベテランや演歌歌手たちの多くは100位圏外となる。そこには業界政治の匂いも感じられる。しかも先に指摘したように、高齢の出演者の増加は視聴率にとっては逆効果の可能性もある。
すでに指摘したように、トリもMISIAと福山雅治の組み合わせが5年続いている(「『紅白』のトリ、固定化への違和感──MISIAと福山雅治の5年連続起用が示す硬直化」2024年12月30日)。過去最長の記録が今年も更新されている。おそらくそれは「ちょうどいい」人選のためだと考えられるが、ここまで見てきた他の状況も踏まえれば、現在の『紅白』は消極的な姿勢を強める傾向として感じられる。
このまま大胆な刷新がなければ、『紅白』は地上波テレビとともに撤退戦となる。はたして、老いる日本社会とともに衰亡していく運命にあるのだろうか──。
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