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レストランのサービススタッフだけではなく、あなたにも知ってもらいたい、新たな4つの事実

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

レストランのウェイトスタッフが知ってもらいたいこと

<レストランのウェイトスタッフがあなたに知ってもらいたい8つのこと>という興味深い記事が配信されていました。

元の記事は10日前に配信されており、既に拝読していましたが、改めて読んでみると、やはりいくつか思うところがあります。

知ってもらいたい8つのこと

「レストランのウェイトスタッフがあなたに知ってもらいたい8つのこと」とは次の通りです。

  • ウェイトスタッフは召使いではない
  • 料理が遅れているのはウェイトスタッフのせいではない
  • 何が欲しいか、何が必要かを明確にする
  • 嫌いな食べ物をアレルギーだと主張しない
  • 「閉店時間」はラストオーダーの時間ではない
  • その席に案内されたのには理由がある
  • キッチンスタッフが料理にツバを吐きかけることはありえないが、ほかの方法で復讐することはある
  • 会計を別にするように頼むのはOK。ただし早めに言うこと

出典:lifehacker

レストランのサービススタッフに「客に知ってもらいたいことを教えてください」と質問し、集まった回答からこの8つが選出されたということです。

新たに知ってもらいたいこと

レストランのサービススタッフからの生の声であるだけに全体的に頷ける内容ですが、次のことだけは述べておきたいです。

  • 客とスタッフは対等
  • 料理が遅れるのは全体の問題
  • 双方のコミュニケーションが必要
  • 閉店時間とラストオーダーの間

客とスタッフは対等

サービススタッフは決して召使いではなく、客は神様などではありませんが、だからと言って、レストランが最初から最後まで主導権を握っているような、客が緊張せざるをえないような状況がよいと、私は考えていません。

<飲食店ITの賢人たちが語る「ノーショーやドタキャンはなくせるのか?」>で開催した座談会でも発言があったように、客とレストランはあくまでも対等の関係であるべきです。

レストランのスタッフは客に存分に楽しんでもらおうと務め、客はレストランのスタッフに対して感謝することが大切であると感じます。お互いに尊敬の念を抱かなければ、関係性は破綻してしまうのではないでしょうか。

客がサービススタッフを召使いのように思うことは問題ですが、サービススタッフが「私は召使ではない」と気負い過ぎてもよいサービスは生まれません。

料理が遅れるのは全体の問題

料理が遅れるのは確かに、キッチンの問題であることが大半でしょう。シェフ(料理長)が替わって全体のオペレーションが変わったり、メニューが大幅に新しくなったり、要となるシェフ ド パルティエ(部門シェフ)や複数の料理人が同時に辞めたりするなど、調理のオペレーションが滞る理由はいくつかあります。

しかし、料理が遅れる理由の全てがサービススタッフにないのと同じように、料理が遅れる理由の全てが料理人にもありません。料理が届くまでのオペレーションを考えると、事前に予約してコースが決まっている場合も含め、サービススタッフがキッチンに伝えることで調理が始まります。コースであれば、客の進み具合をキッチンに伝えるのはサービススタッフの重要な役目なのです。

混雑している場合でも、調理の手間がかからないものから客に勧めたり、場をつないだり、客が怒る前に何かをサービスしたりするなど、サービススタッフにできることはあります。

チームとして料理を提供しており、料理を作る側でなくとも、料理にも責任を持つ気でいなければ、ますます客は遅い料理に怒りを高めてしまうのではないでしょうか。

双方のコミュニケーションが必要

客から明確な要望もなく、サービススタッフが邪険にされるのは残念なことです。サービススタッフも人間なので気分が滅入りますし、そもそもサービススタッフのリソースの無駄遣いとなります。

しかし、サービススタッフも、ただ受け身で待っているだけではいけません。客に質問したり、提案したりするなど、何かしらのアプローチは可能です。

客も様々なシチュエーションで訪れており、接待相手を連れている場合には連れてきた方への配慮で一杯ですし、ここぞのデートで訪れた時には相手がどう感じているのかばかり気になっており、サービススタッフに気が回りません。

サービススタッフは、自身のレストランのことを客よりも知っているはずなので、テーブルの様子と合わせて鑑み、先回りして何が必要か、何が必要ではないのかと、配慮することも高度なサービスのうちの一つです。

閉店時間とラストオーダーの間

閉店時間間の10分前に入店すると記事にありますが、これは本当のことでしょうか。

カフェであれば閉店時間の10分前がラストオーダーということもありえます。

しかし、レストランであれば、まずどんなに最低でも、料理のラストオーダーは閉店時間の30分前でしょう。そうしなければ、作れない料理がたくさんあるからです。

レストラン、それもファインダイニングであれば、21時にはラストオーダーとなり、23時に閉店というところが少なくありません。

そもそも、遅い時間の入店時には、ラストオーダーの時間と閉店時間を伝えて、客にしっかりと承諾をとるのがサービススタッフの務めのうちの一つです。閉店時間を伝えて承諾してもらっていれば、一声掛けた後でにテーブルを片付け始めるなどして気付いてもらうことは問題ありません。

何も言わないでレストランのオペレーションを理解してもらおうとするのは難しいのではないでしょうか。

客と料理人とサービススタッフが紡ぎ出す体験

以上のように述べてきましたが、どの項目でも共通するところは、外食では客とレストラン、もう少し細かく言えば、客と料理人とサービススタッフが紡ぎ出す一つの体験であるということです。今回はサービススタッフからの意見であり、当然のことながらサービススタッフ寄りの主張となっていたので、もう少しニュートラルな観点が必要であると感じました。

サービススタッフが知ってもらいことがあれば、料理人が知ってもらいたいこともあり、客にだって知ってもらいたいこともあります。それぞれが互いのことをよく知ることによって、その時その場所でしか体験できないハコモノであるレストランの体験はより高まっていくと考えています。

そして、その体験とは、客だけのものでも料理人だけのものでもありません。サービススタッフの体験でもあるのです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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