オランダがトマホーク巡航ミサイルの購入方針を決定
4月3日、オランダ国防省はトマホーク巡航ミサイルを含む3種類の兵器の購入方針を決定、議会にこの提案を送りました。
Defensie versterkt vuurkracht met raketartillerie en langeafstandswapens | Defensie.nl
- 陸軍:多連装ロケット「PULS」 ※イスラエルElbit社製
- 海軍:巡航ミサイル「トマホーク」 ※フリゲートおよび潜水艦に搭載
- 空軍:巡航ミサイル「JASSM-ER」 ※F-35戦闘機に搭載
イスラエル製の多連装ロケット「PULS」を採用する理由
オランダ陸軍向け多連装ロケットはアメリカ製のHIMARSとイスラエル製のPULSが競合し、PULSが勝利しました。PULSは装填システムがHIMARSと比べて簡素な構造なので自力で再装填はできませんが、代わりに搭載能力はほぼ2倍で発射ポッドを2個搭載可能です(HIMARSは1個)。PULSは4種類のロケット弾を運用できます。
- Accular(122mm)
- Accular(160mm)
- EXTRA(306mm)
- プレデターホーク(370mm)
これに加えて将来的には欧州軍需企業が開発した誘導ロケット弾を使用可能であり、欧州としての自立性(アメリカに頼り過ぎない)を保つ上で、ある程度はアメリカに頼りつつも調達兵器を全てアメリカ製にはしないという動機での選択が行われています。ドイツも同じ理由でPULSを採用する方向と伝えられています。
一方でポーランドが新しい多連装ロケットをアメリカ製のHIMARSと韓国製のK239チョンムを同時並行で大量採用したのと比べると、同じ欧州内でも方針の違いが興味深いことになっています。ポーランドはドイツよりもアメリカを頼ろうとしており、またポーランドと韓国はクラスター弾規制のオスロ条約に参加していないので、多連装ロケットの弾薬で韓国製クラスター弾頭ロケットを採用できる優位点があります。
関連:ポーランドがHIMARSを486基もの大量購入、アメリカと約1兆3千億円の巨額取引を計画(2023年2月8日)
トマホーク巡航ミサイルを採用する理由
オランダ海軍向け巡航ミサイルはアメリカ製のトマホークが採用されました。他に競合する他国の巡航ミサイルは候補に上がらず、ほぼトマホーク一択の状況で決まっています。トマホーク以外で他に買えそうな巡航ミサイルはフランス製のMdCN巡航ミサイルくらいしかありませんでしたが、話にすら上がって来ませんでした。
これはオランダとフランスの関係性や、オランダ海軍のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲートにはアメリカ製Mk41VLS(垂直発射機)が搭載されておりトマホークの実装が簡単であったこと(MdCNを撃つにはフランス製シルヴァーA70VLSが必要になる)、そもそもトマホークとMdCNでは性能に大きな差があったことなどが関係しています。オランダが長距離巡航ミサイルを欲しがっている以上、トマホークになることはほぼ必然でした。
※オランダ海軍のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲートにはMk41VLSが40セル搭載されているが、追加で8セル増やせるスペースが確保されている。トマホーク採用で追加される可能性。
空中発射巡航ミサイル「JASSM-ER」を採用する理由
オランダ空軍の主力戦闘機がF-35Aである以上、搭載可能で候補となる長距離巡航ミサイルはアメリカ製「JASSM-ER」とノルウェー製「JSM」の2種類でした。ただしJSMは対地攻撃も可能ですが対艦ミサイルとしての性格が強いので、空対艦攻撃を重視しておらず対地攻撃を目的としていたオランダ空軍にとってはJASSM-ERを採用するのは自然な流れでした。ミサイルそのものの大きさが違うので射程も大きく違います。
JSMはコンパクトな小型の巡航ミサイルでF-35戦闘機の爆弾倉内に入ります(ステルス性を維持)。JASSM-ERは大きいので爆弾倉内に入らず主翼下に吊り下げます(ステルス性の放棄)。つまりJSMは接近して攻撃を行う使い方も考慮されていますが、JASSM-ERはその逆で長射程を生かして発射母機が安全圏に居る距離を保った上で発射する使い方のみになります。