音楽祭のテントのゴミ山を服に変える ファッション界の活動家ブランド
コペンハーゲン・ファッションウィークを取材中、「アクティビスト・ファッションブランドがあるけれど、興味あるのでは?」と友人が教えてくれた。
「なにそれ、かっこいい」。ファッションショーの中継を見ると、「ゴミを捨てるな、サンキュー」というメッセージ付きのテントをかぶった人もランウェイを歩いているではないか。「これは気になる」と筆者は飛びついてインタビュー依頼をした。
コペンハーゲンにあるデザイン美術館の隣の建物内で、「アウア・シフト」(OUR SHIFT)は展覧会を開催中だった。
創業者は若い2人、バルボラ・スラ―さんは会社のビジネス開発、戦略、マーケティングなどビジネス面をデザインするビジネスデザイナー。ミラン・フリーチェックさんはファッションデザイナーだ。
共にデンマーク王立アカデミーで修士課程を2年前に終えて卒業し、同じオフィスで働いている。
コレクションの約90%はアップサイクル、残りはデッドストック(売れ残りや、長期間放置されていた在庫品)の生地を使っているため、商品ひとつひとつに小さな違いがでる。
「すべてのピースがユニークです。同じズボンを買ったとしても、同じ形でも微妙に違って見えますよ」と話すミランさん。
公式HPには力強いメッセージが書かれていた。
ミランさん「私たちが発信しているのはアクティビスト・メッセージだ。私たち自身も活動家である」
ミランさんは学生時代のリサーチで、理由もなく燃やされてしまう服がたくさんあることを知った。どうすれば持続可能なファッション・ブランドを作ることができるのか。
卒業後はミランさんの修士課程コレクションをフォローアップする形で、洋服のアップライクル(廃棄予定だったものに新たな価値を与えて再生する)をするスタートアップ「OUR SHIFT」を2022年に立ち上げた。
デンマークのロスキレ音楽祭では、フェス後に観客がテントを放置する「テントのゴミの山」問題がある。この音楽祭では観客がテントで宿泊して、連日音楽を楽しむのが醍醐味だ。
音楽祭でテントのゴミの山ができるとは、どういうこと?
実は筆者は直前にロスキレ音楽祭の持続可能な取り組みを取材しており、そこでは「観客はゴミ拾いなどをしなければ、来年は参加できない」と聞かされていた。実情は、そのルールが設けられているのは一部のエリアだけで、多くの観客は雨風や泥で濡れた重いテントを放置していくそうだ。
「テントは高い買い物では?なぜ捨てる?」とも思ったが、フェス用で期間限定の使用を念頭に販売されるテントは、アウトドアキャンプ用のテントよりも質も価格も落ちるそうだ。高価・高品質のテントもあるが、それさえも捨てていく人は多いと二人は話す。
これはロスキレ音楽祭だけではなく、欧州の音楽フェス共通の問題で、「ロスキレ音楽祭はこの問題を抱えていることを認め、『よし、変えよう』と動いている」ほうだとミランさんは話す。
フェス後は300ほどのテントを回収したが、実際に回収できたのは全体の最大5%というのが二人の感覚だ。イギリスでもドイツでも多くのフェスティバルが同じ問題を抱えているという。
印象に残るストーリーテリングと活動家メッセージ
SNSインスタグラムのアカウントでは、「テントを捨てるんじゃねえ」というメッセージの音楽祭現場からの動画なども投稿している。
そもそも、「MAKE LESS, THANKS Collection」(つくる量を減らそう、サンキュー・コレクション」など、コレクション名が「つくる量を減らそう」としてるだけでも、画期的だと筆者は思う。
ファッション業界が抱える大量生産大量消費、廃棄問題に真正面から挑み、業界や消費者が気にしていることを全面的に押し出してくる。
英語のメッセージが多いので、フェスのゴミ問題を観客に広める事例としても参考になるのではないだろうか。
廃棄予定や売れ残りのものをファッションに変える
完璧にサステナブルなことができているブランドや企業はない。それでも問題もまだ抱えながらも、変わろうと行動する動きは、確かに北欧全体で良いと筆者は感じる。
そこでOUR SHIFTはテントに新たな役割を与えて、ファッション業界に持続可能なビジネスモデルを提案している。
ミランさん「経済的にも十分な利益を上げれそうな方向に向かっていて、財団などからの支援もあります。最近は新しいお客さんも増えてており、もっといろいろな店に出店して、もっと利益を上げるために、小売業に進出することにもしました」
変化を起こすなら現場のテーブルに座らなければいけない
ミランさん「私たちはコミュニティを作り、一人ひとりがシフトをもたらし、古い業界をより責任ある新しい業界へと変えていかなければならないと信じています」
コペンハーゲン・ファッションウィークに参加している理由を聞くと、「業界の人たちの背景や、業界を変えるには自分もその一員にならなければません。テーブルの席に座ることで、やっとテーブルを囲む人々の問題意識や考え方を変えることができます」
OUR SHIFTの顧客層は、サステイナビリティや気候変動に対して情熱的で、大きな問題だと認識している20代前半から、服の仕立ての良さを高く評価する50歳から70歳の女性もいるという。
デンマーク市民にはまだ行動していない人もいる
バルボラさん「デンマークの人は問題意識を持っていて、たくさんの取り組みや政府や寄金からの支援があります。でも同時に、国民はまだそれを行動に移していない側面もあります」
ミランさん「北欧諸国では、政府がそうすると決定すれば、そうすることができます。しかし、すべての人がそれに従うわけではありません。ロスキレ音楽祭の例を見てもわかるように、フェス文化に関しては、イギリスとデンマークの間に違いはない」
バルボラさん「これはファッション業界をより責任あるものへと改善し、シフトさせるための私たちなりの方法でもあります」
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このブランドの強みはファッション業界の問題を全面的に打ち出した、まっすぐなメッセージだ。コペンハーゲン・ファッションウィークはサステナブル対策を書くブランドに求めているし、ブランドもリサイクル素材を使用するなど動いていはいる。
だが、OUR SHIFTのように、コレクション名・商品デザイン・ランウェイなど、至る所で「作るのを減らそう」「燃やすの止めよう」「テントを捨てるな」とメッセージを発信してくるブランドは多くはない。
しかも音楽祭の現場などでも、観客にゴミ問題を問いかける行動をするなど、まさに気候アクティビストがファッションブランドになったかのような印象を受ける。
そしてこのような新規のスタートアップを招待するコペンハーゲン・ファッションウィークや共に問題解決を図ろうとする音楽祭の姿勢も評価したい。
今後のファッションショーでも、OUR SHIFTが廃棄物や在庫品でどのような作品とメッセージを創り出し、活動していくのか目を離したくない気分だ。
Photo&Text: Asaki Abumi