新人離れした新人王争い。特別賞も歴代最多か
最後の最後までもつれたペナントレースと同様、今季のセリーグ新人王争いも歴史的な争いが繰り広げられている。複数の候補がいる中で有力視されているのが広島の守護神として抜群の安定感を誇った栗林良吏とDeNAの主軸として活躍した牧秀悟だ。
ルーキーイヤーに球史に残る守護神と同格の成績を残す
栗林の成績は0勝1敗37セーブ、防御率0.86。近年では山崎康晃(DeNA)が2015年に2勝4敗37セーブ7ホールド、防御率1.92の活躍で新人王に輝いたが、そもそもルーキーで守護神を任されることがほとんどない。栗林は開幕から大役に抜擢されると22試合連続無失点を記録し、シーズン通して27試合に登板したホームのマツダスタジアムでは1度もホームベースを踏ませなかった。先発と比べてイニング数の少ないリリーフ投手は1度炎上すると一気に防御率が悪化する。事実、2005年以降の歴代のセーブ王の中で防御率0点台は1人もいない。栗林が失点したのは53試合中4試合だけという驚異的な安定感に加え奪三振率も13.93と非常に高い。これはセーブ王・スアレス(阪神)の防御率1.16、奪三振率8.37を大きく上回りJFK全盛期の藤川球児(元阪神、2006年に17セーブ30ホールド、防御率0.68、奪三振率13.84)やハマの大魔神として君臨した佐々木主浩(元横浜、1998年に45セーブ、防御率0.64、奪三振率12.54)のキャリアハイと同格だ。ルーキーという枠組みを大きく超える活躍を見せた。
神奈川の帝王はサイクル安打に2塁打量産など記録ラッシュ
牧の成績は打率.314、22本塁打、71打点。打率.314とOPS.890はどちらもリーグ3位だった。セイバーメトリクスには盗塁によるプラスや併殺打によるマイナスまで全ての打撃成績を得点換算したRCという指標がある。年度による試合数の差をなくすためこのRCを基に、その選手1人で打線を組んだら何点取れるかを示したRC27でも牧は6.51と非常に高い数値を示した。新人王受賞選手の歴代最高RC27は1986年の清原和博(元西武)が記録した8.07。8点台は清原と長嶋茂雄(元巨人)だけしかおらず、記憶に新しいところでは2019年にヤクルトの大砲としてブレイクした村上宗隆でも5.53。セリーグで牧以上は1998年に特別賞が送られた高橋由伸(元巨人)が6.54を記録しているが、新人王獲得選手では1968年の高田繁(元巨人)の7.06まで遡る。サイクル安打達成に5打席連続2塁打の日本記録を樹立するなど、数十年に1人クラスのパフォーマンスを発揮した。
歴代の守護神の中でも屈指の安定感を誇った投手か、新人野手としてとんでもない成績を残した打者か。どちらか1人を選ぶとなると本命は栗林だろうか。1人しか選ばれないのが実に惜しく、選出されなかったとしても特別賞が送られることはほぼ間違いない。そしてここに関しても新たな金字塔が打ち立てられそうだ。
特別賞受賞者数更新なるか
栗林と牧の陰に隠れる形となってしまったが規格外の飛距離を武器に前半だけで20発を放った大砲・佐藤輝明、年間通してローテーションを守り2桁勝利を挙げた伊藤将司、盗塁王のタイトルを獲得した中野拓夢の阪神勢の3人も例年なら新人王に選ばれてもおかしくない。中野の攻撃力もRC27で見れば新人王を受賞した二遊間の選手である金子誠(元日本ハム)や小坂誠(元ロッテ)、源田壮亮(西武)を超えている。奥川恭伸(ヤクルト)も54回1/3連続無四球という驚異の制球力で9勝を挙げ、優勝争いの中ではカード初戦を任されるなどエース級の働きを見せた。これまで特別賞の最多受賞は3人。成績からすれば5人が受賞してもおかしくはない。史上稀に見るルーキー当たり年だった。