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「コロナ後」を見すえて「禁煙」にすれば客足が戻る理由

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 2020年4月1日から受動喫煙防止を目的にした改正健康増進法が全面施行となる。新型コロナ感染症の自粛で大変な飲食店も屋内禁煙の対象だが、収束後を見すえれば、むしろ禁煙にしたほうが客足が戻るかもしれない。

喫煙可には様々な義務が

 まず最初に述べておきたいのは、新型コロナ感染症に限らず、喫煙も受動喫煙も感染症の罹患と重篤化のリスクを上げるということだ。このことを押さえておいて、受動喫煙を防ぐために4月1日から全面施行となる改正健康増進法について書く。

 4月1日以降、多数の者が集まる施設の屋内が原則として全て禁煙になる。飲食店、事業所、パチンコ店などでは、喫煙室を設置し、喫煙者はその中で吸わなければならない。

 だが、小規模な飲食店の場合は、例外措置が講じられる。小規模飲食店とは、4月1日の時点で営業していて客席面積が100平方メートル以下、かつ資本金5000万円以下のケース。店内での喫煙は、当面の間、可能となるが、20歳未満の客の入店はできないし、20歳未満の従業員を雇うこともできない。

 注意しなければならないのは、各自治体で改正健康増進法より規制を強化した条例を独自に策定している場合だ。

 例えば、東京都や千葉市は、改正健康増進法の適用外の小規模店でも「従業員を雇用している」場合、喫煙室などを設置しなければ店内は禁煙となる。この場合の従業員は、同居の親族などを除くアルバイトを含めた労働者のことだが、20歳未満の家族が働くことはできない。

入り口の見えやすい場所に掲示義務

 これらの小規模店が喫煙可能とした場合、入り口などの見えやすい場所に「喫煙可能店、20歳未満は立ち入り禁止」の表示を掲示する義務がある。また、こうした喫煙可能店は、自治体の健康推進課や地域の保健所へ届出書を提出しなければならない。

 東京都内の飲食店の場合、国、都、チェックリストの3つの書類が必要になる。さらに、喫煙可能店から禁煙店に変更する場合も変更や喫煙室廃止の届出書を提出しなければならない。

 こうした届出書とともに、店舗の図面、資本金や出資金の内訳などが記された登記簿や決算書などを保管する義務がある。保健所などの立ち入り検査が行われた場合、すみやかに見せるようにしておく必要がある。

 また、店内に喫煙室を設けた場合も、店の入り口の見えやすい場所に「喫煙可能室(加熱式たばこ専用喫煙室)がある」という表示を掲示しなければならない。もちろん、この喫煙室や喫煙可能室に20歳未満の客や従業員が立ち入ることはできない。

禁煙店は何もしなくていい

 店内で喫煙可能にしたり喫煙室を設置した場合、こうした面倒な作業が必要となるが、店を禁煙のすれば何も掲示する必要はないし、届け出も必要ない(※1)。

 なぜなら、今回の改正健康増進法の全面施行で飲食店は原則全て禁煙となるからだ。さらに、4月1日以降、新規に開店する飲食店は、規模や従業員の有無に関係なく全て禁煙となる。おそらく時間が経つにつれて次第に禁煙店が増えていくだろう。

 改正健康増進法は飲食店など施設管理者により厳しい罰則が規定されている。喫煙者が喫煙禁止場所にで喫煙した場合の過料は30万円以下、施設管理者が紛らわしい標識の掲示や喫煙室の設置基準違反などをした場合の過料は50万円以下となる。

 喫煙者や喫煙室の設置へは指導・助言、勧告、命令、公表と多段階の措置が講じられ、それでも改善がみられない場合に初めて罰則が適用される。

 だが、店頭の見えやすい場所に標識を掲示しなかったり、紛らわしい標識の掲示、汚損などは指導の後にすぐ罰則の適用となる。

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改正健康増進法の義務違反者、違反した施設管理者への対応。厚生労働省の資料より

この際、禁煙にしたら

 このように、4月1日から飲食店の喫煙・禁煙の環境が大きく変わる。

 新型コロナ感染症でただでさえ経営が苦しい小規模店だが、喫煙可のままだったり喫煙室を設置した場合、掲示の義務や届出書の提出など煩雑なことも多くなる。違反した施設管理者には、最高で50万円の過料となるかもしれない。

 新型コロナ感染症は、喫煙者はもちろん受動喫煙の害でも感染や重篤化のリスクが上がると言われている。感染が蔓延している間だけでもタバコをやめようと考えている喫煙者も多い。

 今回の新型コロナ感染症の蔓延を境に、健康に対する人々の考え方は大きく変わる。おそらく、コロナ後には世界中で喫煙率が大きく下がるだろう。それは日本も例外ではない。

 喫煙可能な店は、客や従業員の健康を守る意識が低いととらえられる危険性がある。こうした環境で喫煙可のままだと、タバコを吸わない客はもちろん、喫煙者の客足さえ遠のくはずだ。

 コロナ後に喫煙者が来店してくれるか、不安に感じる小規模店の経営者も多いだろう。

 だが、禁煙は仕方ないとあきらめている喫煙者も多い。新型コロナ感染症に限らず、様々な病気のリスクが上がるので、他人のタバコの煙は浴びたくないと考える喫煙者も少なくない。

 横並びで禁煙にすれば、他店との違いを気にすることもなくなる。店主や従業員、客を受動喫煙から守ることができる。防疫のためにも禁煙が望ましい。

 コロナ禍で状況は厳しいが、小規模店も今のうちに全面禁煙にしてしまうのが、最もシンプルで費用も手間もかからず、効果的なのではないだろうか。

※1:東京都や神奈川県では禁煙店でも「禁煙表示」の掲示義務あり

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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