Yahoo!ニュース

新型iPhone 今年も「USB-Cなし」 いつまでLightningなのか

山口健太ITジャーナリスト
LightningとUSB-C(アップルのWebサイトより)

アップルが発表したiPhone 14シリーズは今年もLightning(ライトニング)を採用。「USB-C」ではないことがTwitterでトレンド入りするなど、話題になっています。あらためて状況を整理してみます。

iPhoneにUSB-Cは必要ない?

新しいiPhone 14は、上位シリーズのiPhone 14 Proを含め、端子はLightningのまま。Androidスマホなどに採用が広がるUSB Type-C(USB-C)の採用は今年も見送られています。

iPhone 14/iPhone 14 Proの端子はLightningのまま(アップルのWebサイトより)
iPhone 14/iPhone 14 Proの端子はLightningのまま(アップルのWebサイトより)

発表の翌朝、9月8日にサムスン電子ジャパンが開いたGalaxyの発表会では、「なぜかUSB-Cケーブルがささらない端末」が登場し、アップルを揶揄する場面がありました。

これに対して、「アップルはLightningで儲けているから、USB-Cには消極的なのだ」といった批判が増えています。

たしかにアクセサリー製品の利益率が高いという面はありそうですが、一方でアップルはUSB-Cを積極的に採用してきた面もあります。

2015年には発表した12インチのMacBookでは、充電とデータの端子をUSB-Cに一本化したことで物議を醸しました。最近は充電端子としてMagSafeが復活しましたが、これまで通りUSB-Cだけでも充電できます。

アップルは、その気になれば独自規格の端子を作って収益を増やすこともできたはずですが、そうはなっていません。iPadでも多くのモデルがUSB-Cに移行しています。

そもそも、なぜ機種によって端子が異なるのでしょうか。iPad ProのUSB-C端子は、最大40Gbpsと高速なThunderbolt 3やUSB4に対応しています。

これはiPad Proの性能が向上し、用途が広がったことでこうしたスピードが求められる場面が出てきたからと考えられます。また、次のiPadOSではUSB-Cから外部ディスプレイへの出力も大きく進化します。

最近はiPhoneにも高速データ転送を求める声はある(内部的な規格はUSB2.0相当のまま)ものの、アップルはデバイスの性能向上にあわせて段階的にUSB-Cに移行している印象です。

なお、一部のiPadのLightning端子はUSB 3.0の転送速度に対応しています。これはiPhoneには採用されてきませんでしたが、電力消費や発熱、ノイズなど何らかの問題があったのではないかと筆者は考えています。

意外と板挟みのアップル

この状況を大きく変えようとしているのが欧州です。2024年秋以降、携帯電話などの電子機器の充電ポートとしてUSB-Cの採用を義務づける方針です。

欧州はアップルの売上高の2割強を占める大きな市場の1つであることから、2023年または2024年に発売するiPhoneから、このルールに対応せざるを得ないとみられています。

こうした端子の統一は利便性の向上など消費者にとってメリットがあり、廃棄物が減ることで地球にもやさしいと思われるものの、アップルは「イノベーションを阻害する」と反発しています。

というのも、特定の端子の採用を義務化した場合、より優れた端子を作ろうとするメーカーの開発意欲が削がれ、技術革新が停滞する恐れがあるからです。長期的には消費者にとってもデメリットになります。

アップルも複雑な立場に置かれています。アップルが重視する指標として「AndroidからiPhoneに乗り換えた人の数」がありますが、Lightningの採用はこうした乗り換えを阻害する要因になります。

一方、Lightningは2012年のiPhone 5から10年の歴史があります。エコシステムは世界中に広がっており、すでにユーザーは多数のアクセサリーを持っています。

これらを無駄にしないためにも、必要がない限り端子を変えないというのは、ある意味では正しい方向性です。これは社会からの要求に応えた結果ともいえます。

欧州での議論を含め、「Lightningを捨ててUSB-Cにしてほしい」という声が世界的に高まるかどうか、アップルは板挟みになりながらタイミングを計っているといえそうです。

Lightning「MFi認証」はどうなる?

USB-Cの採用ではなく、完全にワイヤレスになるとの予想もあります。ただ外出先での充電環境や、画面出力をしながらの動画配信といった使い方を考えると、まだ完全ワイヤレスは難しいでしょう。

USB-Cになれば充電用のケーブルだけでなく、画面出力やデータ転送用の変換アダプタやハブについても、MacやiPad Pro用のアクセサリーを流用できる可能性があります。これはiPhoneの運用コストを下げることにつながります。

Lightning用のHDMIアダプタは7980円、USB3カメラアダプタは6180円と地味に高い(筆者撮影)
Lightning用のHDMIアダプタは7980円、USB3カメラアダプタは6180円と地味に高い(筆者撮影)

ただ、USB-Cになればすべて解決かといえばそうでもなく、市場には機能や品質の異なるケーブルが混在しています。「USB-IF認証」は目安になるものの、どういうケーブルを選ぶかはユーザーの判断に委ねている部分が大きい印象です。

Lightningの場合、アップル製品との互換性を保証する「MFi認証」があります。このロゴが付いていれば、よく知らないメーカーの製品でも比較的安心して使えるというわけです。

AnkerによるMFi認証済みケーブルの例(AnkerのWebサイトより)
AnkerによるMFi認証済みケーブルの例(AnkerのWebサイトより)

もしUSB-Cにも同様の仕組みがあれば、LightningのエコシステムをUSB-Cに移行させることで、社会的な要求とビジネス的な要求を両方満たせる可能性があります。

iPhoneへのUSB-C採用に向けてこうした動きが始まるか、注目しています。

追記

2023年9月13日、iPhone 15がLightningを廃止し、USB-Cを採用することが正式に発表されました。

【iPhone15】USB-Cで何ができる? 移行期には混乱も

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

山口健太の最近の記事