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EURO2024はベスト8が出揃う。スペイン×ドイツが事実上の決勝戦か?現時点の大会ベストイレブン

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 EURO2024、ベスト8が出揃った。ドイツ×スペイン、ポルトガル×フランス、イングランド×スイス、オランダ×トルコ。8か国で雌雄を決する。

 開催国ドイツと破竹の進撃を続けるスペインの準々決勝が、「事実上の決勝戦」とも言われる。両チームは実力者も多く擁し、中盤のトニ・クロースとロドリの対決だけで、”欧州決戦”の縮図と言えるか。サッカースタイルもそれぞれ能動的なだけに、注目の一戦になるだろう。

 もっとも、ベスト8まで勝ち進んできたチームは、いずれも手練れである。ベスト16との間には大きな溝があるだろう(これは大会こそ違うが、日本がW杯で阻まれている壁とも似ている)。8強は、やはり実力だけではない強さの気配を持っているのだ。

 では、し烈な戦いを制し、大会覇者となるのは?

本命はスペイン?

本命 スペイン

対抗 ドイツ

穴  フランス

大穴 ポルトガル

 あえて予想を付ければ、こうなるだろうか。

 やはり、スペインが戦力的には抜けている。クロアチア、イタリアを立て続けに下し、サブメンバーでアルバニアを退け、先制されたジョージア戦を逆転で勝利した戦いは伊達ではない。

 中盤でロドリがタクトを振って、ファビアン・ルイス、ペドリがスペース・時間を支配。サイドバックのダニエル・カルバハル、マルク・ククレジャが攻撃に厚みを加える。伝統的にボールを持てるチームだが、ベンチメンバーを含めて、そのスタイルが極まっている。

 そこに、ラミン・ヤマル、ニコ・ウィリアムスという敵守備陣をハンマーで砕くサイドアタッカーを擁しているのは大きい。彼らは遊軍の騎兵のように神出鬼没で襲い掛かる。速く、うまく、力強く、そしてアイデアに溢れているだけに、相手が立て籠もっても打開できるのだ。

 一方でドイツは開催国特有の勢いを感じさせる。各選手の質も高い。ゼロトップのカイ・ハバーツ、切り札ストライカーのニクラス・フュルクルクが有力なカードと化し、ジャマル・ムシアラも頼もしくなってきた。

 ただ今のところ、組み合わせに恵まれて勝ち上がってきた印象も否めない。得点力に優れるスペインを相手に、やや不安視されるセンターバックが破綻せずに戦えるか。逆に言えば、難敵スペインを下せると、彼らの勢いは止まらない。

フランスの復活とポルトガルのエモーション

 そして対抗に近い穴に名前を挙げたフランスは、グループリーグは不振に近かった。特にキリアン・エムバペが鼻骨骨折後はトーンダウン。細かいミスも目立つ。

 しかし、ディディエ・デシャン監督率いるフランスは常勝軍団である。2回連続、ワールドカップで決勝に進出。トーナメント戦をどう勝ちぬくか、を知り尽くし、巻き返しが予想される。そもそもパワー、スピードに優れた選手が多く、彼らがフィットすると、効率性の高い戦い方にエンジンがかかる。エムバペも、アントワーヌ・グリーズマンも、こんなものではない。

 個人的には、ポルトガルの躍進に期待だ。

 とにかくエモーショナルなチームで、クリスティアーノ・ロナウドは筆頭だろう。ラウンド16、スロベニア戦でPK失敗後に号泣していた。こんなストレートに感情を出せるスター選手は他にいるか。たしかに全盛期の面影はないが、危険な場所やタイミングに現れる能力は健在で、「何かをやってくれる」という予感が漂う。

 41歳のセンターバック、ペペも「フットボールとは?」を問いかけるようなポジショニングやアプローチを見せる。それは年月の中で積み重ねてきたもので、そのプレーはどこか詩的に映る。また、MFヴィチーニャはフットボールを作り出せる。ボールを動かし、自らも動き、今大会ではロドリ、グラニト・ジャカと並んで、最もインテリジェンスを感じさせる俊英だ。

天才ギュレルとスイスの論理的美しさ

 他にも、トルコは天才アルダ・ギュレルを擁し、伝統の戦闘力の高さを誇る。ロナルド・クーマン監督が率いるオランダを撃破する可能性は十分。ギュレルはプレースキッカーとしてだけでも、ドイツのクロースと並び、大会屈指だろう。0トップでのプレーは、ドイツのハバーツ、オランダのメンフィス・デバイもそうだが、今大会の特徴と言える。

 今大会、チームとして一番組織の美しさがあるのはスイスだろう。ラウンド16、リッカルド・カラフィオーリが不在で、ジャンルイジ・ドンナルンマを強襲した攻撃は見事だった。イングランドとの準々決勝は分は悪いが、パワー不足の前線が奮起すれば…。

 ジャカのプレーメイクは垂涎。細かくポジションを変えながら、味方のボールの出所となり、敵の侵入路を防ぐ壁にもなる。ロドリもそうだが、必然でボールがこぼれてくるし、それを迅速に攻撃につなげる簡潔なプレーにインテリジェンスが横溢している。スイスのロジカルな美しさを担っていると言えるだろう。

 最後にベスト8までの大会ベストイレブンを独断と偏見で選んだが、スペイン勢が主要ポジションを占めている。

GKドンナルンマ(イタリア)

DFカルバハル、ククレジャ(スペイン)、カラフィオーリ(イタリア)、ペペ(ポルトガル)

MFロドリ(スペイン)、ジャカ(スイス)、ヴィチーニャ(ポルトガル)

FWヤマル、ニコ(スペイン)、ギュレル(トルコ)

 勝ち上がり次第で、イタリア勢が消え、新たにふさわしい選手が入るか。スペインがドイツに負けたら、クロース、ムシアラ、フロリアン・ヴィルツなどそっくりドイツの選手に入れ替わるかもしれない。事実上の決勝戦では、スペインがホセル、ダニ・オルモなどサブメンバーの選手層で制する気がするが…。

 戦いはここからが佳境だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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