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ツイッターが生み出した部活動改革 「ひたすらツイート、リツイート」

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

■部活動改革の震源地 ツイッター

 部活動改革が、日に日に勢いを増している。

 私がマスコミ関係者から聞くところでは、ブラック部活動の問題を扱うと、普段とは比にならないほどに多くのコメントが視聴者から寄せられるという。ブラック部活動はもはや、国民的関心事になりつつある。

 今日の部活動改革の震源地は、まちがいなくツイッターである。この記事では、部活動改革においてツイッターが果たしてきた役割を考えてみたい。

■7月~8月の驚異的なリツイート数

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 昨日、高校教諭であるTNT氏(@TNTO8698)が「(略) 部活で笑って、家で妻と泣いていた。新婚の6年間部活部活で徹夜して仕事するしかなくて辛かった」とツイートしたところ一気に拡散して、リツイート数は7,000件(8月6日午前6時時点)に達している。

 また、教師を目指すソラ氏(@SoraEduJapanese)が、友人の教員採用試験の面接練習に言及したツイート(7月28日付)は、37,000件のリツイートを得ている。面接官役であった元校長からその友人が受けた言葉は強烈だ――「自分自身も若い頃はそんなこと(=勤務時間外の部活動指導など)当たり前のようにやってきたんだ。悪いけど、君が変えようと思ったところで、世の中は変わらないよ」。

 さらに現職の教員で構成される「部活改革ネットワーク」(詳細は拙稿「部活問題 教員の全国ネット始動」)に所属する斉藤ひでみ氏(@kimamanigo0815)が、「教員の『夏の陣』!」と声をかけたツイート(7月9日付)は、驚異の53,000件リツイートに達している。

■「ひたすらツイート、リツイート」

 部活動改革を牽引してきた「部活問題対策プロジェクト」(2015年12月設立)のメンバーであり中学校教諭のゆうけん氏(@yutakenta64ブログはこちら)は、ツイッターの影響力をこのように振り返る。

 簡単には学校は変えられない。学校の中はすごく保守的だからだ。だが、一度クレームがあれば変わらざるを得ないのも学校である。ならば、外から圧力をかけて変えてやればいい。そこで私は「部活にまつわる世論から変えていこう」と考えた。

 まずは部活の問題を訴えるブログを始めた。しかしアクセスは思うように伸びない。これでは世論を変えるどころではない。ならばと、ブログの宣伝目的でTwitterを始めた。学校や教育に関連するアカウントをフォローしまくり、部活の問題に関してひたすらツイート、リツイートしまくった。当時は部活問題に関するアカウントはほとんどなかったが、徐々にフォロワーは増え、ブログのアクセスも伸びていった。同時に部活問題に注目するアカウントも徐々に増え、ブログの宣伝目的で始めたTwitterも、徐々にそちらの活動がメインになっていった。

 (略) もっともっと多くの人に声が届けば、もっともっと多くの理解者が増えるはずである。そして、いつか世論さえも動かせるはずだと信じるようになった。そう信じて部活問題の拡散活動を続けていった結果、現在の通りである。

出典:内田良『ブラック部活動:子どもと先生の苦しみに向き合う』(東洋館出版社、2017年7月刊)、p. 71より引用

 ゆうけん氏がいう「ひたすらツイート、リツイート」という表現は、印象深い。日々におけるほんの小さな「つぶやき」の積み重ねが、今日の世論形成につながっているというのだ。

■なぜツイッターなのか?

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 部活動改革がツイッターを舞台にして拡大してきた背景には、次の3つが考えられる。

 第一が、ツイッター(を含むSNS)利用の拡大である。第二が、部活動の指導に苦しむのは若手・中堅世代であり、その世代とツイッター(を含むSNS)利用との親和性である。

 そして第三に、私が何よりも強調したいのは、リアル職員室では、部活動指導への不満はタブーだからである。学校には、部活動指導に時間を費やしてこそ「熱心な教員」「一人前の教員」という文化がある。つまり職員室では、「部活動がつらい」などと愚痴をこぼすことができないのだ。

 生徒に対しても同様である。生徒が頑張っているとき、教員はなかなか弱音を吐くこともできず、部活動から逃れられなくなってしまう。こうして、先生たちの苦悩は見えないままとなる。

 だから、先生たちは匿名性の高いツイッター上で苦しみの声をあげ、そこで思いを共有し、改革の方途を探っている。

■ツイッターを基盤にしたネットワーク形成

 先述の「部活改革ネットワーク」のメンバーである世良蘭丸氏は、自身のブログで「時間外の部活動に苦しんでいる教員はいないのか? ツイッターをのぞいてみれば、その存在の多さに驚くはずだ。それも氷山の一角にすぎない」と訴える。

 今年4月に結成された「部活改革ネットワーク」は、いまや約70名にまでメンバーが増え、ツイッターのグループDMの機能を用いて、地域別のかたちで日々活発に議論を重ねているという(8月に入って公開された活動情報は「教働コラムズ」に掲載されている)。

 「教師の立場にある者が、匿名のツイッター上とはいえ学校の不満ばかりを口に出すべきではない」という意見もある。だが、なぜツイッター上なのかということをよく考えてみることも大切だ。

 職員室では言い出せない。その声がいま、ツイッター上にあふれ出てきている。それが、ここまで改革の気運を高めてきているのである。

■今日もまたツイッター

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 とある記者が教育委員会に対して、「『部活顧問やりたくない』という先生の声が大きくなっているがどう考えるか?」と尋ねたところ、教育委員会の回答は「先生は皆、責任感もって指導にあたっている。『やりたくない』なんて声は、聞いたことがない」との答えが返ってきたという。

 「『やりたくない』なんて声は、聞いたことがない」ということの真偽はともかくも、今日における部活動改革のうねりのなかにあっても、そのように回答できてしまうのが、教育界である。

 ツイッター発の部活動改革は、この数年で驚くほど急速に進んだ感がある。それでも総じて多くの学校や教育委員会は、いまだ何事も起きていないかのように振る舞っている。

 だから私も、声をあげている先生方を見習って、今日もまた「ひたすらツイート、リツイート」する。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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