部活問題 教員の全国ネット始動 中学校の部活動で勤務時間大幅増の現実
■現職教員による新たな活動
ブラック部活の改善を願って、新しい全国組織が立ち上がった。
その名は、「部活改革ネットワーク」。現職の教員ら44名から成る。水面下での約2ヶ月にわたる準備期間を経て、4月30日に公式ツイッター(@net_teachers_jp)を開設した。全国の同じ思いをもった教員をつなぎ、情報と知恵と戦略を共有し、学校現場からの部活動改革を目指す。
■10年ぶりの教員調査 最大の増加は中学校の部活動
先月28日に公開されたばかりの、文部科学省による10年ぶりの「教員勤務実態調査」の結果(速報値)は、教員の過酷な勤務実態を改めて浮き彫りにした[注]。
報道では「過労死ライン」という見出しが並び、教員の勤務時間が10年前よりも増加して、長時間労働がより深刻化したことに関心が集まった。
たしかに2006~2016年度の間に、平日一日あたりでは小学校教諭で43分、中学校教諭で32分、休日一日あたりでは小学校教諭で49分、中学校教諭で109分も勤務時間が増えている。長時間労働が問題視されてきたなかでの、さらなる増大である。
だがここで私が注目したいのは、その内訳である。グラフを見るとわかるように、小中学校の各種業務内容のなかで、突出して増加したものがある――中学校の休日における「部活動」だ。休日の一日あたりで、64分もの増加である。教員の働き方改革のなかでも、部活動のあり方の改善は、最優先事項であると言える。
■44名の先生たちで構成されるチーム
新たに立ち上げられた「部活改革ネットワーク」(以下、改革ネット)は、部活動のあり方を草の根で改善していく。
部活動改革を主導してきたインターネット上の組織としては、「部活問題対策プロジェクト」(2015年12月に設立)が知られている。6名の教員らから構成され、ネット署名を中心にさまざまな活動を展開し、その活躍はメディアでもたびたび取り上げられてきた。
部活問題対策プロジェクトが少数精鋭による世論構築の活動であるとすれば、改革ネットは多くの教員による草の根的な世論拡散の活動である。
事務局の回答によれば、改革ネットは公式ツイッター(@net_teachers_jp)を活動の拠点にして、現職の教員ら44名(一部に元教員)が連携している。ただし個々の教員は、匿名性を保つために、公式アカウントを必ずしもフォローしているわけではない。賛同者の総数は、このゴールデンウィーク中にも50名に達する見込みであるという。
改革ネットは現在、北海道・東北/関東/中部/近畿/九州・沖縄の計5つの「地域ネットワーク」を開設している。5つの地域ネットワークは、それぞれにツイッターのグループDMを設けて、そこに賛同者が登録される仕組みになっている。各地域ネットワークには地域代表が1名ずつ就いており、その地域代表5名が集まり、改革ネット全体の運営方針を決定している。
さらには、教員やその関係者らの「声」を集めたサイト「教働コラムズ」においても、改革ネットの活動を応援するためのページが特設されている。
■活動の目的
改革ネットの活動目的は、明快だ。冒頭の「設立趣旨」にもあらわれているように、問題意識をもった全国の教員たちが情報を交換し、戦略を練り、それぞれの地域や学校において声をあげていくことを狙っている。
この活動の背景について、改革ネットの全国代表を務める斉藤ひでみ氏(@kimamanigo0815)に取材を依頼したところ、快く応じてくれた。
▼部活問題はタブー
- 内田:なぜいまネットワークを立ち上げたのでしょうか。
- 斉藤:部活問題についてこれだけ世論が高まっているけど、その一方でじつは職員室では、ぜんぜん議論がないんです。世論とは対照的に、職員室では部活問題は存在しない。部活を熱心に指導して当たり前の文化だから、部活問題はタブーなんですよ。
- 内田:なるほど。世論との温度差がある。では、そこにどう切り込んでいくのでしょうか。
- 斉藤:部活のあり方を問題視している先生たちは、もっといるはずなんです。ただ、職員室で声をあげていないだけで。だから、そこでまずは、自分たちがどうやって声をあげていったらよいのか。そのためには、情報を交換して知識をつけていくことが必要で、ネットワークがその場を提供するということです。
▼本当は自分たちが変わるべき
- 内田:問題の改善についてどのような展望をもっていらっしゃいますか。
- 斉藤:改革ネットとしては、対外的には教育行政にこの問題にもっと向き合ってもらいたいと思っています。でも、根源にある思いは、私たち自身が変わらなきゃいけないということ。教育行政から助けてもらうんじゃなくて、本当は、職員室のなかのタブーを自分たちで変えていこう、と。だから、改革ネットのメンバーが、学校で少しずつ声をあげて仲間を増やしていく。それが全国的に展開すれば、きっと教員の負担も、生徒の負担も、それを軽減するための方法が見えてくるのではないかと考えています。
■リアル社会でのつながりを大切に
改革ネットはツイッターを活動基盤にしているため、完全なインターネット社会での連携のように思われるかもしれない。
だがじつは、改革ネットの出発点は、3月に全国各地で同時多発的に開催された教員のオフ会にある(詳細は拙稿「部活対策 教員のオフ会 拡がる」)。教員として学校に勤務するなかで、学校のあり方を問題視するというのは、大きな勇気がいるし、お互いの信頼関係がなければ自己開示も容易にはできない。
だから、先生たちはリアル社会での集まりを大事にするのだ。時空間をリアルに共有することで、その後のインターネット上での活動展開に安心して進んでいけるというわけだ。このゴールデンウィーク中にも、全国各地でまた、オフ会が開かれるとのことである。
4月下旬にとある地域で開かれたオフ会について、そこに参加した世良蘭丸氏は、その様子を次のように綴っている。
あなたが住む地域のどこかでも、部活動改革のために先生たちが熱心に議論を交わしている。先生たちは、本気で集まり、本気で声をあげている。
- 注:小学校400 校、中学校400 校(確率比例抽出により抽出。)に勤務する教員(校長、副校長、教頭、主幹教諭、指導教諭、教諭、講師、養護教諭、栄養教諭で、当該校のフルタイム勤務職員全員)を対象とし、2016年10月~11月のうちの連続する7日間に実施。得られた回答数は、小学校が397校(99.3%)、中学校が399校(99.8%)で、教員数は小学校が8,951名、中学校が10,687 名。なお2006年度調査は長期間にわたって実施されており、2016年度調査との比較対象は第5期調査の結果である。第5期調査は、2006年10月23日~11月19日に実施され、回収状況は、小学校が171校(86.2%)で教員数は3,715名、中学校が172校(89.0%)で教員数は4,372名。