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「0歳選挙権」導入の危険性と「義務教育修了者への選挙権年齢引き下げ」の提言

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
2017年衆議院選挙では未来の有権者が投票体験するイベントがキッザニアで実施(写真:つのだよしお/アフロ)

吉村洋文日本維新の会共同代表が、0歳からの選挙権を、党の公約に盛り込むと発言したことが話題となっています。少子高齢化と若い世代の投票率の低さによる「シルバー民主主義」を解決するとも言われるこの施策はドメイン投票方式と呼ばれ研究の対象になってきたものでもありますが、導入には懸念点も多いのが実状です。筆者は「0歳選挙権」について懸念点が多く導入に否定的な立場であり、それに替わる「義務教育修了者への選挙権年齢引き下げ」が効果的だと考えます。

0歳選挙権とは

0歳選挙権とは、文字通り公職選挙における選挙権を18歳から0歳に引き下げる施策をいいます。日本における選挙権は1889年に25歳以上の男性で、直接国税納税額15円以上という制限(制限選挙)がある形で与えられました。1925年には納税の有無にかかわらず男性のみに選挙権が拡大する「男子普通選挙」が実施され、1945年には年齢を20歳に引き下げた上で男女ともに投票権を付与する「男女平等の普通選挙」となります。2016年には選挙権の引き下げが行われ、年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げました。0歳選挙権は、この18歳以上を「0歳以上」とし、選挙権の付与において年齢を加味しない制度ということもできます。

いっぽう、少なくとも0歳児が投票所において立候補者の名前を書いたり、投票の意思をもって投票したりすることは不可能です。そのため、0歳選挙権の制度では、成人するまでは親が選挙権を代理行使するという前提があります。少子高齢化が進むなかで子育て世代の声を届けるため、世帯や家族という単位での政治を考えるための合理性はあるかもしれませんし、少子高齢化が続く日本社会において思い切った政策という意味では、実に日本維新の会らしいともいえます。

0歳選挙権のメリット

0歳選挙権のメリットは、まず一つに投票権を拡大することで投票者数を増やし、より多くの国民の意思を政治に反映できることです。現在、0歳から17歳までの意見を選挙に反映させる方法はありません。18歳未満であっても政治活動を行ったり、議会に対して陳情や請願を行うことは可能ですが、これらの活動が直接的に政治にどの程度影響力を与えられるかという疑問が残ります。筆者も18歳(当時は未成年かつ選挙権が付与されていない)の時に地方議会に請願を出したことがあり、高校生世代の請願として大きく取り上げてもらいましたが、請願や陳情といった制度の理解や、請願者意見陳述制度の有無などにより、請願の実効性や実現性は大きく変わります。負担も大きい請願や陳情のみならず、直接的に政治に影響力を与えることができる選挙権を付与することは、参政権の基本でもあり、わかりやすいともいえます。

また、少子高齢化や高齢者の高投票率に端を発する「シルバー民主主義」とよばれる状況を打破することにも効果があるといわれています。18歳未満の子どもも政治の恩恵や影響を受ける者であり、政策意思決定に平等に参加すべきとの考えがある一方、彼らが投票権を持たないことで、有権者人口ピラミッドは地面(0歳)から浮いた形をしており、かつ高齢者層が厚い、さらに投票率も高いとなれば、自ずと政治家が高齢者層を向いてしまうのは当然だ、との視点があります。これらを是正するために18歳未満にも選挙権を与えることは一定の効果があると期待できます。

0歳選挙権の課題

一方、0歳選挙権には課題がいくつもあります。

もっとも懸念されるのは、親による代理投票です。わが国の選挙においては、代理投票は原則として認められていません。極めて例外的に、障害や病気、けがなどで、自分で投票用紙に書くことが難しい場合には、投票者から投票する候補者の意思を確認して、代理の者が投票用紙に書く制度がありますが、①投票者の意思確認が必要であること、②補助をする者は複数名(2名)であること、③補助をする者は家族や友人ではなく投票所の係員であることが、要件として定められています。2019年の統一地方選挙では、知事選挙の0.21%、市町村長選挙の0.24%が代理投票で行われており、およそ500人に1人がこの代理投票を利用している計算となります。

代理投票制度について、広島市HP(https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/senkyo/14888.html)より引用
代理投票制度について、広島市HP(https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/senkyo/14888.html)より引用

未成年者でもある18歳未満に選挙権を付与することで親に代理投票をさせることは、さらに複数の問題を抱えています。

一つ目に、子どもと親との意見が衝突した場合です。17歳にも付与される選挙権ですが、高校生ともなれば政治的意志を持つ者も多くいることが想定されます。実際に現行法においても高校3年生は17歳と18歳が混在することで、同じクラスでも選挙権を持つ者とそうではない者がいますから、クラスの会話のなかで17歳の者が政治的意志を持ったとしても、代理投票をする親が自らの意志を反映させてくれる保障はありません。子どもの権利という観点からも、子どもの意志の反映させられる保障のない制度は極めて問題です。

二つ目に、親同士の意見が衝突した場合です。親権者は両親ですが、両親の意見が一致しないことも十分に考えられます。代理投票とはいえ、親の意思が介在するとなったときに、親の意思が割れた場合にどうするのかという問題が残ります。この問題は共同親権の民法改正と相まって、SNS上でも指摘されていました。

三つ目に、投票に行けない・意思表示のできない高齢者や障がい者との公平性の問題もあります。投票所で投票用紙に記載できない選挙人については、現行の代理投票制度があることは先述した通りです。一方、自宅から投票所に向かうことができない、寝たきりで意思表示もままならない、重度の障害を持ち投票先の決定ができない、といった者も世代を問わず存在します。一般的に「高齢になればなるほど、投票率はあがる」とされていますが、これも5歳刻みで70〜74歳までの話であり、それより高齢になると、投票率は一気に下がる事が知られています(後述の年代別投票率の図表を参考)。この理由には、健康上の問題や免許返納などにより移動が困難になることや、疾病などにより物事への判断力が低下したりすることが考えられます。投票に行けない・意思表示のできない高齢者や障がい者も同様に代理投票を認めなければ、不公平さが残るとも言えるでしょう。

このほかにも、憲法上の論点や実務上の論点も多く存在します。

現実的な対案

筆者は選挙プランナーとして、より現実的な対案として「義務教育修了者への選挙権年齢引き下げ」を提言します。

まず、ここまで述べたように代理投票は課題が多く、他国においても議論はなされても導入に至った実例はほぼありません。高齢者や障がい者との不平等が新たに生まれる可能性もあります。より高次な議論では、憲法上の議論(国民固有の権利である選挙権に代理を認めるのか、成年者による普通選挙を保障するとされる憲法条文がある以上改憲が必要ではないか)や、実務上の議論(親がいない場合はどうか、障がいにより18歳到達後は投票に行くことができないことが明らかな者について18歳未満は代理投票で選挙権を事実上認めるのはむしろ不平等ではないか、親が日本国籍を有さずに子どもだけが日本国籍を有する場合に事実上日本国籍を有さない者に投票権を認めるのか、子どもが親に投票先の希望を伝えるのは法で禁止されている未成年者の選挙運動に当たらないか)も多く残ります。

第49回衆議院議員総選挙における年齢別投票状況年  齢階層別有権者数(人)投票者数(人)投票率(%)(抽出調査)より引用。
第49回衆議院議員総選挙における年齢別投票状況年 齢階層別有権者数(人)投票者数(人)投票率(%)(抽出調査)より引用。

一方、若い世代が政治や選挙に無関心だというのは、概ね決めつけやレッテルだと筆者は考えています。一般的に高齢者の投票率が若年者より高いのは、政治的関心が高かったり、社会における立場があったり、政治が自らの生活に与える影響が大きかったり、社会的つながりが増えることで立候補者や運動者を直接知っている機会が多くなるからだと言われています。一方、若い世代の投票率を伸ばす活動は、非営利法人で様々な取り組みもなされており、期日前投票の普及なども一定の効果があると言われています。何より、18歳選挙権を認めたところ、高校内に移動期日前投票所を設置することで、若い世代の投票の意識を大幅に増やした事例も報告されています。

更に言えば、大学進学者が住民票を実家においたまま大学近辺で一人暮らしをすることで、投票のために帰省しないことから大学生の投票率が大きく下がる問題も残っています(このことにより、18歳〜19歳の投票率は、20歳〜24歳の投票率を上回る逆転現象が起きています、上図参考)。人生最初の投票の機会を棄権してしまうことは、その後の投票行動でも「既に一度棄権しているし」と考えてしまうことにつながりますから、「最初の投票機会を棄権させる」ことは原体験として望ましくないのは明らかです。

そこで、筆者は「選挙権の中卒者までの引き下げ」を提言します。わが国は義務教育制度で、義務教育を修了すれば「国家・社会の形成者として共通に求められる最低限の基盤的な資質の育成」(文部科学省)がされます。投票先を意志決定するのには十分な知識があると考えます。

また、現行法においても未成年者は政治活動をすることができます。極端なことを言えば、選挙期間中に例外的に政治活動を認められている確認団体制度を用いれば、選挙期間中であっても政治活動の範囲内で活動をすることが認められます。

そして、すでに高校生世代の政治活動は各党においても行われています。例えば国民民主党には「学生部」が存在し、満15歳の義務教育の全課程を修了していることを入部の条件としています。日本維新の会にも学生部が存在し、「高校生以上」を入部の条件としていますし、立憲民主党の「りっけんユース」も、16歳以上をエントリーの条件としています。

国民民主党、日本維新の会、立憲民主党の学生部(ユース)ホームページに記載されている年齢の条件
国民民主党、日本維新の会、立憲民主党の学生部(ユース)ホームページに記載されている年齢の条件

仮に中学から高校、大学と進学をする者を前提に考えれば、参院選が3年半数改選のため、高校生活3年間のあいだに必ず一度は国政選挙を経験することになり、先述した「大学進学で実家を離れていて、人生最初の投票機会を棄権する」という原体験を防ぐことができます。

「諸外国の選挙権年齢及び被選挙権年齢」(国立国会図書館)https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9578222_po_077907.pdfより引用
「諸外国の選挙権年齢及び被選挙権年齢」(国立国会図書館)https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9578222_po_077907.pdfより引用

選挙権を16歳から認めている国は世界にもわずかしかありませんが、「0歳選挙権」といわれるドメイン投票方式を導入している国はなく、わずかながらでも導入実績があることも「義務教育修了者への選挙権引き下げ」が優位な理由ともいえるでしょう。

早い年齢から社会参加・政治参加をさせることは、その後も投票を継続する要因にもなると考えられ、全体の投票率の中長期で向上させることにもつながります。吉村共同代表は、「0歳選挙権」を「政治的な影響力があるのが子ども」という環境をつくることが目的だと述べましたが、「義務教育修了者への選挙権引き下げ」は対象は広くないために不十分だとしても、一定の現実的な効果はあると考えられます。

まずは極めて不公平さの残る代理投票制度が必要な「0歳選挙権の導入」ではなく、中長期的にも投票率を向上させる「義務教育修了者への選挙権引き下げ」が現実的ではないでしょうか。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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