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米国の威信回復を目指すバイデン新政権の「脱炭素」推進チームは超強力布陣

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
エネルギー長官への就任が確実視されるジェニファー・グランホルム氏(写真:ロイター/アフロ)

「脱炭素」をテコに、トランプ大統領の4年間で失われた国際社会での米国の威信回復を目指す、ジョー・バイデン次期大統領。その政策の立案や推進にかかわる「チーム」の陣容が明らかになってきた。脱炭素はバイデン氏の看板政策だけに、人選にメディアも強い関心を寄せている。

自動車業界からの厚い信頼

これまでの報道によると、カギとなるエネルギー省(DOE)長官には、あえて自動車業界と関係の深い元ミシガン州知事を指名。政策の取りまとめ役となるホワイトハウス内の新設ポストには、環境保護局(EPA)長官や環境保護団体トップを歴任し、高い実務能力を兼ね備えた専門家を据える。気候変動問題に関する大統領特使となるジョン・ケリー元国務長官らと合わせて、超強力布陣となる見通しだ。

DOE長官には、自動車の街デトロイトを抱えるミシガン州の知事を2003年から2011年まで2期務めた、ジェニファー・グランホルム氏が就任する見通し。知事時代は、経営破綻したゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーをオバマ政権が救済する際に、副大統領だったバイデン氏らと緊密に協力した。また、知事時代には、米自動車産業の競争力回復のために、電気自動車の開発・普及のための政策も進めたことから、自動車業界からの信頼が厚いと言われている。

もともと環境問題に熱心だが、石油に代わる新たなエネルギーを開発しないと米国は他国との競争に負けるとして、代替エネルギーの開発にも強い関心を持っている。前回の大統領選では、民主党のヒラリー・クリントン候補のエネルギー政策の顧問を務め、クリントン氏が大統領に当選した場合は入閣が約束されていたと言われている。

今月7日には、ザ・デトロイト・ニュース紙に寄稿し、「脱炭素はミシガン州の未来に欠かせず、自動車業界も脱炭素を強力に推進しているが、実現のためには政治の強力な後押しが不可欠だ」などと、官民挙げて脱炭素に取り組む必要性を改めて主張した。米メディアによると、グランホルム氏はバイデン政権入りを熱望しており、地元紙への寄稿は、バイデン氏へのアピールが目的だったという。

バイデン次期大統領は、石油経済からの脱却や、気候変動問題を解決するための国際的枠組み「パリ協定」への復帰など、脱炭素を公約に掲げて当選したが、脱炭素社会の早期実現のためには、二酸化炭素を最も多く排出している輸送業界の協力が不可欠と考えている。自動車業界との太いパイプを持つグランホルム氏をDOE長官に据えることで、自動車業界の協力を得ながら脱炭素を確実に推進する狙いだ。

環境保護団体のトップも

バイデン氏はまた、各省庁の脱炭素政策を調整し政策実行の司令塔役を果たす部署をホワイトハウス内に新設し、責任者に元EPA長官のジーナ・マッカーシー氏を就任させる見通しだ。国内の政策調整はマッカーシー氏が担い、日本や欧州など海外との政策調整はケリー氏が担うことになる。

マッカーシー氏は、オバマ大統領の2期目にEPA長官に就任。各州に温暖化ガスの排出削減を義務付ける画期的な「グリーン・パワー・プラン」の立案を主導したが、同政策はトランプ氏が大統領に就任後、廃止になった。

退任後、ハーバード大学が新設した気候変動問題を研究する機関のディレクターに就任。今年、環境保護団体「天然資源保護協議会」(NRDC)の代表に就いた。NRDCは主要環境保護団体の1つで、政策提言や訴訟を通じ、自然環境の保護や農薬・化学物質の追放などに取り組んでいる。米メディアによると、NRDCはトランプ政権に対して100を上回る数の訴訟を起こしており、絶滅の恐れがある野生生物の保護などいくつかの成果をあげてきたという。

対中国包囲網を再構築

一方、脱炭素政策の推進に重要な役割を果たすEPA長官は、まだ内定していない。一時有力視されたカリフォルニア州大気資源局(CARB)のメアリー・ニコルズ局長は、同氏の政策や姿勢が低所得層への配慮が欠けるとして就任に反対の声が多く、候補者リストから外れたという。

トランプ大統領は、パリ協定からの脱退や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの一方的離脱など、国際社会との協力を軽視する政策をとってきたため、同盟国との間に不協和音が生じた。これが、中国が国際社会で影響力を強めることを許した一因とも言われている。

バイデン次期大統領は、脱炭素政策をテコに、同盟国との関係を再強化し対中国や対ロシア包囲網を再構築するとともに、新エネルギーの世界的な開発競争で優位に立つことを狙っていると言われている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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