肝臓を壊すアルコール~勝谷誠彦さんの死から考える
肝不全で…
この前兵庫県知事選挙に出てたじゃないか…。その訃報に耳を疑った。
まだまだこれからというときの訃報に、心からお悔やみ申し上げる。
勝谷さんは以前私が所属する全国医師連盟の集会に来られ、講演されたことがあるが、医療に関する鋭いご意見は私たちにもとても参考になった。こうしたご意見が聴けないと思うととても残念に思う。
報道によれば、勝谷さんは8月に重症アルコール性肝炎で入院したという。
10月に退院したが、黄疸は続いていたという。今月再入院されたのち、病態が急変し亡くなられた。
重症アルコール性肝炎とは何か
勝谷さんが入院するきっかけとなった重症アルコール性肝炎とは何だろうか。
肝臓は私達が生きていくために不可欠な臓器の一つだ。とても重要なことを「肝心(もしくは肝腎)」というが、それは肝臓と心臓、腎臓が命の維持に不可欠なことからきている。
飲酒は肝臓にダメージを与える。こうした人が大量飲酒をすると発症することがあるのが、重症アルコール性肝炎(重症型アルコール性肝炎)だ。
「肝性脳症」は以下のようなものだ。
脂肪の分解を助ける胆汁の成分であり、肝臓で作られるビリルビンは、肝臓の細胞が壊れると体のなかに溜まってしまう。これが黄疸だ。黄疸があるというは、肝臓がダメージを受けていることを意味している。
勝谷さんは「奇跡的」と言われるほどの回復を見せたものの、肝臓の働きはもとには戻らず亡くなられた。
アルコールは肝臓を削る
勝谷さんには長年飲酒の習慣があったようだ。
こうした飲酒習慣が、肝臓にダメージを与えていたのだろう。
アルコールが肝臓を痛めつけるのはよく知られているが、肝臓を顕微鏡でみている病理医の視点から解説したい。
まず、アルコールを摂取し続けると、アルコールやアルコールの分解産物であるアセトアルデヒドが肝臓にダメージを与える。また、肝臓がアルコールの分解にかかりきりになって、脂肪の分解などの正常な働きが邪魔される。
だから、次第に肝臓の細胞に脂肪が溜まり(脂肪肝)、肝臓の細胞が壊される(慢性肝炎)。壊された部分は再生するが、次第に壊れた部分がもとに戻らなくなっていく。だんだんゴツゴツになって硬くなり(肝硬変)、がんができることも多い(アルコール性肝がん)。
肝硬変になると、もうもとには戻らない。血液の流れが邪魔されて、食道や肛門に静脈瘤ができることもある。この静脈瘤が破裂して、大量出血で死に至ることもあるのだ。
私の祖父も、大量飲酒の末肝がんになって死んだ。
アルコールは肝臓を削る恐ろしい毒物なのだ。
肝臓だけではない
アルコールの害は肝臓だけではない。私達病理医は、アルコールに壊された膵臓を見ることも多い。アルコールにやられた膵臓は細胞が壊れ、原型をとどめなくなることもある(病理学会コア画像)。また、食べ物を消化する膵液が自分を溶かし出す急性膵炎を引き起こすこともある。
アルコール摂取は食道がんを引き起こすこともある。このほか、体の様々な臓器に悪影響を与える(参考 お酒の飲み過ぎが原因となる身体の病気)。
誰でもなりうるアルコール依存症
体を破壊しても酒を飲み続ける…。これは病気だ。そう、アルコール依存症だ。
過去1年間に次の6項目中、3項目以上に当てはまる場合、アルコール依存症と診断される(参考 アルコール依存症治療ナビ)。
- お酒を飲めない状況でも強い飲酒欲求を感じたことがある。
- 自分の意思に反して、お酒を飲み始め、予定より長い時間飲み続けたことがある。あるいは予定よりたくさん飲んでしまったことがある。
- お酒の飲む量を減らしたり、やめたりするとき、手が震える、汗をかく、眠れない、不安になるなどの症状がでたことがある。
- 飲酒を続けることで、お酒に強くなった、あるいは、高揚感を得るのに必要なお酒の量が増えた。
- 飲酒のために仕事、付き合い、趣味、スポーツなどの大切なことをあきらめたり、大幅に減らしたりした。
- お酒の飲みすぎによる身体や心の病気がありながら、また、それがお酒の飲みすぎのせいだと知りながら、それでもお酒を飲み続けた。
一つくらい当てはまる人は多いのではないか。そう考えると、アルコール依存症は誰でもかかりうる病気だと言える。
現在、アルコール依存症は日本国内に100万人程度いるとされるが、医療機関にかかっている人は僅かだ。
アルコール依存症はきちんと治療すれば治る。しかし、治療には時間がかかる。
アルコールを含む酒は様々な害を及ぼす飲み物であることを認識し、行政、医療機関を含め対策が必要だ。
近年「ストロング系」とされるチューハイが人気だという。
こうした高いアルコール度数の酒がコンビニエンスストアなどで手軽に手に入る。電車のなかでも飲酒している人がいる。大阪の繁華街では、昼間から酔っ払って転がっている人をよく見かける。このような毒物がいわば野放しになっているのが、今の日本の現状なのだ。
私自身、決して酒が嫌いではない。だから自分自身注意しなければならないと自覚している。
勝谷さんには、まだまだ日本の社会に毒舌を振りまいてほしかった…。酒が憎い…。