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「3連休、どこ行く?」【ひとり旅】こそ食事にこだわる! 『ブランド金目鯛』が食べられる“ご利益“温泉

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
日中は真っ青な空と海を眺めて 熱川プリンスホテル露天風呂「薫風」にて(撮影筆者)

まだまだ残暑は厳しいが、日によっては秋風を感じる。そろそろ出かけようか、旅へ。それもご利益ある温泉へ、おめでたい温泉ごはんを求めて。

※この記事は2023年4月に発売された『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

“ご利益”温泉と“めでたい”温泉ごはん

静岡県熱川温泉「熱川プリンスホテル」

朝日を浴びながら、温泉入浴をしたことがあるだろうか。目を開けていられないほどに陽光は強いが、大きな力が宿る。

海上から昇る朝日を最上階の露天風呂「薫風」から眺める(撮影筆者)
海上から昇る朝日を最上階の露天風呂「薫風」から眺める(撮影筆者)

朝日の力がみなぎる最たる温泉地は静岡県伊豆半島東伊豆エリアに湧く熱川温泉や稲取温泉、白田温泉など。海上から朝日が昇るため、温泉に浸かりながらご来光が望めるのだ。

「熱川プリンスホテル」もそうした絶景の宿のひとつで、最上階の露天風呂「薫風」は海にせり出すかのような構造で、温泉にいながらにして空と海とひとつになれる。ここは源泉2本を保有し、湧出量も豊富。温まるナトリウム成分と肌を整える硫酸塩泉の成分を含むから、美肌効果が期待できる。

熱海から下田まで続く国道135号線の東伊豆エリアの旅館は、海に面しているゆえの風光明媚と、名物・金目鯛の食事がセットで待っていてくれる〝おいしい温泉〟だ。

海を眺めながら食事できる個室に料理が並んだ。東伊豆で生まれ育ったまさに地元のお2人がご一緒してくださった。おひとりはおじさんが漁師だそうで、話題は郷土料理の話へ移る。

「『稲取キンメ』はブランドになってしまい、今では地元では高価でなかなか手に入りにくいけれど、かつては親戚からいただくもので、買うものじゃなかったわよね」と贅沢な話を聞いている間に金目鯛の姿煮が出てきた。

金目鯛の煮つけ(撮影筆者)
金目鯛の煮つけ(撮影筆者)

「金目鯛は包丁を入れたら味が落ちますから、姿煮で出して、いただく時に箸で取り分けるんですよ」と、地元の方が手際よく分けてくださる。「この辺りではどの家庭にも、金目鯛の姿煮を作るために大きな鍋と盛り付ける大皿があるんです」。

もうひとりの地元の方が説明して下さった。

「慶事は『腹合わせ』といって、2匹の金目鯛を煮つけ、腹を合わせるのがしきたりです」。取り分けた皿を渡してくれながら、「煮汁が美味しいんですよ。うちの孫は、『キンメの汁かけごはん』と言って、煮汁をごはんにかけて食べるのが好きなんですよ」と、顔をほころばせた。

金目鯛の身に箸がすっと入り、身離れがいい。脂がのっている。甘くしょっぱいタレがしみ込んだ金目鯛は、辛口のお酒が欲しくなる。 

食べ終わる頃、「頭をお皿に入れて、お湯を注いで飲むのが漁師風で、『骨湯』って言います」と勧めてくれたので、トライ。風味豊か、磯の香りが口の中で広がった。 

名物となる由縁を教えてもらいながらいただく食事は、一層味わい深くなる。

夕食後に「薫風」に行くと、空には満月に近い大きな月が煌々と光を放っていた。海上には月の光がひと筋の道を作っている。地元では「ムーンロード」と呼んでいる。

帰りは伊豆急行で「キンメ電車」に乗った。目立つ金赤の車体に、金色の金目鯛が泳いでいるかのように描かれていた。車内では金目鯛の食べ方が展示され、東伊豆の観光名所の案内や温泉についても触れられている。

金目鯛を食べて、乗って。大満足。

ご利益を期待して、『温泉ごはん 旅はおいしい!』のカバーイラストは金目鯛の煮付にした。

ご利益ありそうな金目鯛の煮つけ(撮影筆者)
ご利益ありそうな金目鯛の煮つけ(撮影筆者)

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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