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今週末、どこ行く? はじめての「女性ひとり温泉」で”絶対に外さない”オススメの宿

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
清流・吉井川沿いに「奥津荘」はある(写真:イメージマート)

岡山県奥津温泉 美しいお湯にうっとり 

人生で一度は入って欲しいお湯。それが「奥津荘」にある「鍵湯」だ。

岡山県の名湯・奥津温泉は美作三湯のひとつとして江戸時代から親しまれてきた。町の真ん中に清流・吉井川が流れ、ほんの数軒の小さな宿が並ぶ。

今でも静かな地であるが、かつては熊や猪が出没したほどの秘境だった。そこで女性たちは、吉井川沿いに湧く温泉を洗濯に使う際に、出没する獣を警戒し、洗濯ものは足で踏んで洗った。

現在は、この風習を伝承し、観光客向けに毎週日曜に足踏み洗濯が行われている。吉井川の川岸に、絣の着物に赤いたすきをかけて、手ぬぐいをほおかぶりした女性たちが奥津小唄に合わせて洗濯をする。観光客もその場で参加OK。

地元の人たちはこの湯を洗濯に使うだけでなく、共同湯で毎日浸かっている。

初めて奥津を訪ねた時に、共同湯で地域のご高齢の方とご一緒したが、肌が綺麗なこと。それも首から上と、首から下の肌の状態が異なることに目を見張った。毎日、湯に浸かっている部分と浸からない部分の違いなのかと、勝手に推測したが、あながち間違っていないように思う。

「温泉の効果は、日々、お湯に浸かる地元の人の肌を見れば一目瞭然」という私の判断基準は、奥津で得た。地元の方の「肌力(はだりょく)」こそが、何よりもの証である。

ちなみに、世界に名が通った板画家の棟方志功も日本の温泉が大好きだった。棟方志功が愛した湯は全国各地に存在するが、たいがい名湯中の名湯。つまり温泉の目利きでもあったのだ。その棟方志功は「鍵湯」も愛した。

棟方志功が奥津温泉にやってきたのは戦後まもなく。友人を訪ねて津山へ来た時に、奥津の湯の評判を聞きつけて出かけ、「鍵湯」に一目ぼれしたという。

「鍵湯」は、約400年前に津山藩の藩主・森忠政が自分専用の温泉にしたいと番人を置き、鍵をかけたことで、この名がついた。 

今もそのままの形で「奥津荘」に残っている。

開放的な露天風呂でもなければ、風情あるヒノキ風呂でもない。ただ、素朴に組んだ岩の間からぷく、ぷく……っと気泡が現れる。湯船の至る所から湯が湧く。温泉が地上に生まれてきた瞬間そのもの、鮮度が命の温泉にとってこれ以上ない貴重な体験ができる湯船、それが「鍵湯」である。

足元までくっきりと見えるほどの透明度が高いその湯は、ゆ~らゆら、ゆったり、ゆっくりと揺れる。眺めているだけでも心と身体が浄化されていくような気がするし、何時間でも浸かっていたくなる。

※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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