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バドミントン桃田の敗戦、朴ヘッドコーチが理解を示す理由

平野貴也スポーツライター
7月の世界選手権で優勝した桃田賢斗は、アジア大会でメダルなしに終わった(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 8月のバドミントン世界選手権で初優勝を飾った男子シングルスの桃田賢斗(NTT東日本)は、2016年の違法賭博店利用の発覚による出場停止処分から舞い戻って来たストーリーと、復活後の強さとで日本バドミントン界のアイコンとして知られるようになって来た。今年は特に、圧倒的な強さを見せている。1月から国際大会(親善大会を除く)で43勝4敗。世界選手権を筆頭に4つのタイトルを獲得した。ただ、インドネシアで開催されているアジア大会では、団体戦で銅メダル獲得に貢献したものの、個人戦は、2回戦で地元インドネシアのエース格アンソニー・シニスカ・ギンティンに敗れてメダルなしの成績に終わった。意外な結果だったと言って良い。

どこで休むか

 しかし、日本代表を率いる朴柱奉ヘッドコーチは、理解を示した。

「今回は、桃田選手も負けましたけど、4月からアジア選手権を優勝して、5月の(国別対抗戦の)トマス杯でも全部勝って、マレーシアオープンは決勝で負けましたけど(準優勝)、インドネシアオープンでは優勝。世界選手権でも優勝。この大会でも団体戦を全部勝っている。いつかは、絶対に(下りの)山がある。このタイミングが今回の個人戦で残念だった。個人的には別のオープン大会で来てくれれば良かった」

 少し笑いながら言った最後の一言は、チームを監督する立場の本音だ。アジア大会は、バドミントン単体でなく、他競技を含めた日本代表選手団の中で行動する上、周囲から非常に多くの関心が寄せられるし、強化対象の評価にも含まれる。どうせいつか負けるなら、あくまでも個人の成績でしかない大会で起きてほしいというのは、正直な思いだろう。ただ、問題は「どこで負けるか」ではなく「どこで休むか」である。

3連戦と3連戦の合間に世界選手権とアジア大会

 朴ヘッドコーチの上記のコメントは、大会総括で選手の疲労度について聞かれた流れで出て来たものだった。日本代表選手は、1年を通してワールドツアーを戦いながら、ときには国際大会の団体戦や国内大会にも出場するハードな日程をこなしている。日本代表の多くは、6月から続いた東南アジアでのワールドツアー3連戦(マレーシア、インドネシア、タイ)に出場し、続けて7~8月に中国で世界選手権、8月にインドネシアでアジア大会を戦っており、ダイハツヨネックスジャパンオープン(9月11日から、武蔵野の森総合スポーツプラザ)を皮切りに、今度は中国オープン、韓国オープンと大会が続く。ハイレベルな大会でも好成績を残すようになったため、以前より1大会あたりの試合数も増えている。大会の合間には、日本代表の合宿で調整を行うため、ほとんど休む期間がない。

「日本の選手は良い成績ですけど、リラックスする時間がない。日本の選手やチームだけの話ではないけれど、すぐにプレッシャーのかかる試合がやって来る。次のジャパンオープンで全部出し切っても良いかなとも考えるけど、すぐに(続けて)中国、韓国の大会がある。世界ランク(を保つためには試合に出場してポイントを稼ぐ必要がある)のことも考えると、休めない。今の(国際カレンダーの)日程では、1年間全試合に勝とうということは、できない」(朴ヘッドコーチ)

「理由をつければ、全部大事」

 休む間もないほど重要な大会が続く日程。それこそが、桃田の敗戦に理解を示した理由だ。どこで休みどころを作るか。非常に難しい問題だ。朴ヘッドコーチは「理由をつければ、全部大事。ジャパンオープンは、ホームの大会だから大事。全英オープンは、バドミントン界で一番有名だから大事。中国オープンは(ワールドツアーの中でも格付けの高い)スーパー1000だから大事……」と頭を悩ませている。

 国際バドミントン連盟は、スポンサーの獲得や世界各地への競技普及のために大会を増やしている。大会の質を保つため、五輪や世界選手権の出場に必要なポイントを大会毎に与えたり、世界ランク上位者にグレードの高い大会への出場を義務付けたりして、選手が参加する仕組みを作っている。世界トップレベルの選手は、ルールを守るためにも、ランクを保つためにもコンスタントな出場が求められる状況だ。

無理が続けば負傷のリスクも高まる

 また、日本の選手はプロではなく実業団に所属しており、国内大会に一切出ないという判断を日本代表チームが下すわけにもいかない。3月に新設の国内チーム対抗戦「トップ4トーナメント」を仙台で開催した際も、問題になったのは選手の過密日程だった。国際大会から帰国直後の選手が強行出場。選手の多くが国内の競技人気を高めるためと理解して臨んだが、モチベーション、コンディションの両面で負担になっていたことは明らかだった。ただ、トップ4トーナメントをプレーオフに充てることで国内リーグを2分化してリーグの日程を短縮させた点は評価できる。

 過密日程で試合に臨み、すべての試合で結果が望まれる状況が続けば、どんな選手でも必ず無理が出てくる。だから、朴ヘッドコーチは「選手も人間。マシーンじゃない」と現状の難しさを話した。桃田だけでなく、日本代表の多くの選手が過剰起用の状態になりつつあり、疲労が溜まれば負傷のリスクも高くなる。選手に疲労感を聞けば、否定はしないものの、他選手も同じ状況にあることへの理解や、敗戦時の言い訳にしたくない思いから、あまり強調しない。しかし、現在の日程でトップパフォーマンスを発揮し続けるのは、難しいのが実情だ。

選手がベストな準備をできる体制作りが課題

 朴ヘッドコーチは「(現状のままでは)ちょっと難しい。来年は五輪(出場権獲得のためにポイントを稼いで世界ランクを競う)レースもある。選手の身体の管理、ケガのケア、リラックスする時間を取る方法。どのようにしたら選手がベストな準備をできるのか。しっかりと腰を据えて、協会で話し合いたい」と過密日程の対策を課題として捉えていることを明かした。強化ターゲットが五輪であれば、選手層の厚さを生かして、団体戦で選手の負担軽減を図る手もある。選手個々に大会への臨み方や試合の運び方で工夫をしている印象はあるが、2020年の東京五輪を筆頭に、狙った大会で最高のパフォーマンスを発揮するために、どうやってメリハリをつけるか。好成績連発の中で、次の手を打つ必要がある。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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