偶然の産物だった古賀/福島ペア、全日本社会人Vで次なる舞台は?=バドミントン
偶然の遭遇から生まれたペアが、まさかの優勝杯を手にした。9月7日~11日、鳥取市で開催された全日本社会人バドミントン選手権で混合ダブルスを優勝したのは、古賀輝/福島由紀(NTT東日本/岐阜Bluvic)の即席ペアだった。
パリ五輪で2大会連続の銅メダルを獲得した渡辺勇大(BIPROGY)が18歳の田口真彩(ACT SAIKYO)と新たなペアを組んで臨んだことが注目を集めた種目だったが、渡辺/田口は準決勝で敗退。逆のヤマを勝ち上がった古賀/福島が、決勝戦で柴田一樹/篠谷菜留(NTT東日本)を2-0で破って頂点に立った。2人でペアを組んで練習したのは、合わせて2日分ほどしかないというが、日本は日本代表以外に混合ダブルスを継続して活動する選手は、いない状況。
何度か大会に出ているペアはいるが、多くは即席の域を出ない。古賀/福島は、その中で、ベテランとなった同級生ペアらしい、前向きな姿勢を保ったコミュニケーションで大会中に連係を改善。決勝戦では、しっかりと修正し、個々の能力の高さを発揮した。
遠征先の外食で遭遇、福島不在で即席ペアが急浮上
それにしても、意外な組み合わせだった。2人とも混合ダブルスに出場するのは、久々。2015年に大阪インターナショナルチャレンジで2人がペアを組んだことはあるが、まだ古賀が早稲田大学の学生だったときの話だ。古賀と福島は、それぞれ男子・女子のダブルスで日本A代表として活躍してきた。古賀はパートナーの齋藤太一(NTT東日本)がパリ五輪出場権獲得レースを終えて5月末に現役引退を表明。福島は、パートナーだった廣田彩花(岐阜Bluvic)が7月に左ひざの手術を行い、戦線を離脱した状態だった。だから、一部では、2人が今後、混合ダブルスに挑戦していく可能性があるかどうかも関心を呼んだのだが、実際には偶然に生まれたアイデアだった。
鍵を握っていたのは、福島が所属する岐阜Bluvicの吉冨桂子コーチだった。パリ五輪レースが終盤を迎えた3月、いつものように、古賀は男子ダブルス、福島は女子ダブルスで全英オープンに出場していた。古賀がチームの後輩と韓国料理屋に入って席を通されると、背中越しの席に座っていたのが、日本代表チームのスタッフと食事をしていた吉冨コーチだった。他チームとはいえ、同じ福岡県出身で同郷の縁もある。古賀は、五輪レース後の男子団体戦トマス杯を最後にパートナーの齋藤が引退するが、自身は現役を続けるつもりであり、今後の大会へのエントリーを迷っていた。古賀が「誰か組んでくれる人、いませんかね?」と軽く聞いてみると、吉冨コーチは、自チームの選手を思い浮かべた。男子のスパーリングパートナー2人は、ペアを組んで出場するので余らない。女子も……と思ったが、気が付いた。
「福島だったら、空いてるよ?」(吉冨コーチ)
混合ダブルスは久々になるが、日本の女子のトップ選手と組める機会は、なかなか巡って来ない。古賀は、前向きに受け取って話を持ち帰った。一方、知らぬ間に混合ダブルスへのエントリー案が浮上していた福島は、吉冨コーチから話を聞かされると「えーっ!? 私、ミックスなんてできないですよ。無理!」と当初は難色を示したが、古賀が前向きであることや、試合に出場してチームの遠征に帯同することをスタッフに勧められたことから、久々の混合ダブルス挑戦を決めたという。
混合ダブルス特有のセオリーを無視した前後逆転現象
試合が始まると、2人とも混合ダブルスに不慣れであることは、すぐに明らかになった。古賀は男子ダブルスで前衛、福島は女子ダブルスで後衛だ。しかし、混合ダブルスでは、攻撃力の高い男子が後衛から相手の女子選手に強打を放ち、甘い返球を前衛の女子選手が狙っていくのがセオリーだ。頭では分かっているのだが、普段とは逆の動きに戸惑いを隠せなかった。福島が後ろに下がり、古賀が前に出たまま。混合ダブルスのセオリーをまったく無視した前後逆転現象だった。
それでも勝ち進めたのは、個々の力が高いからだ。また、ともに日本A代表で力のある選手だが、専門外の種目へのエントリーであり、プレッシャーとも無縁だった。さらに、古賀と福島は1993年度生まれの同期で、学生時代から知る仲。終始、明るい雰囲気で話し、少しずつ連係を改善する様子が見られた。
古賀が繰り出すトリッキーな展開、福島も欺く
試合中は、耳打ちをするように話す場面が多かった。ただ、その内容が、必ずしも連係に生きるわけでもなかったようだ。古賀は、世界でも珍しい独特な動きでフェイントを入れるトリッキーな選手だ。まったく違う方向を見たまま球を打ったり、雄たけびをあげながら弱い球を打ったり。相手を欺くプレーを多く仕掛ける。
決勝戦の第1ゲームは、18-20から1点を返したが、相手のゲームポイント。古賀は、福島に小声で話すと、サービスを打つポジションを変えた。男子・女子のダブルスでは、サービスを打つ選手が前に立ち、パートナーが後ろで備えるが、混合ダブルスでは女子が前、男子が後ろの形を早く作るため、男子がサービスを打つ場合、女子選手は男子の前に入り、肩口にサービスを打つコースを空けた状態で待つのが一般的だ。1点も与えられない状況で、古賀は急に福島の前に立ってサービスを打った。福島は「前から打っていいかと聞かれたから、ショートサービスで(相手の返球を予測して)3球目を自分で攻撃したいのかなと思ったら、ロングサービスを打ったので、ビックリした」と古賀の意表を突くプレーに驚いていた。
敵を欺くには、まず味方からという諺があるが、結果的にこのラリーを制して追いついた古賀/福島が29-27の逆転でゲームを先取。第2ゲームを21-15で押し切って初優勝を飾った。
福島は女子複で新たな挑戦、古賀とのペアはどうなる?
今大会限りのつもりで組んだペアだが、8強以上で与えられる全日本総合選手権の本戦出場権を獲得した。「全日本総合でも優勝を狙いますか?」と聞くと、古賀は「まずは(組んで)出てもらわないと……」と福島の顔を覗き込んだ。福島が「今のところは、まだ分からない」と言うと、古賀は「美味しい焼肉でも、どう?」と口説きにかかっていた。
優勝の2日後、福島は、廣田と組んできた女子ダブルスのペア解消を発表。さらに9月26日には、松本麻佑(北都銀行)とのペアで11月の熊本マスターズから新たな挑戦をすることも明らかになった。福島と松本は、日本A代表同士の組み替え。主催者推薦で全日本総合選手権の出場権を得る可能性もある。
古賀は仁平澄也(NTT東日本)との男子ダブルスでも4強入りで本戦出場権を得ており、古賀/福島で混合ダブルスに臨むとなれば、2人とも2種目挑戦になる可能性もある。次は、社会人王者として狙われる立場の難しさも出てくるが、偶然が生んだチャンピオンペアの再結成は、あるのだろうか。