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元日本代表GK南雄太、「同じ時代じゃなくて良かった」と語る現代の高校生に与える刺激

平野貴也スポーツライター
流経大柏でGKコーチを務めている、元日本代表GK南雄太【筆者撮影】

 2024年も12月に入り、カテゴリーを問わず、様々なリーグが幕を下ろす時期となった。高校生年代も、12月8日に最高峰のプレミアリーグが終了した。プレミアリーグEASTで4位となった流通経済大学付属柏高校は、昨季現役を引退したばかりの元日本代表GK南雄太がGKコーチを務めた。南は引退後、広くサッカーに関わる形を希望。横浜FCのHAMABLUEコミュニケーションオフィサーなども務める中、読売ジュニアユース時代の先輩である榎本雅大監督が率いる流経大柏高のコーチを引き受けた。「まだ指導者としては、始めたばかりで、語れることはない」と話したが、選手の個性を見ながら刺激を与えている。

育成年代トップの守護神は、サイズアップが目立つ

 南は、1年を通して対戦相手など日本の第2種の最高峰レベルのGKを見た印象について、大型化と技術レベルの進歩を感じたという。

「僕たちの時代に比べれば、身体のサイズは、確実に大きくなっているし、キックを含めて技術のレベルも上がっている。自分が、同じ時代じゃなくて良かったなと思いますよ(笑)。特に、身体の部分は、努力でどうにもできないところが多い。日本代表を見ても、鈴木彩艶(パルマ)、小久保玲央ブライアン(シントトロイデン)といった選手が活躍していますが、いわゆるハーフの子がGKをやるケースが、ものすごく増えている。特に強豪チームは、将来の日本代表やプロを育成しようという狙いで身体のサイズがある選手をまず選んでいる印象があります。一方で、サッカーのスタイルは多様になっていて、Jリーグでも身長が180センチあるかないかの選手が活躍している例もある。今は、戦術次第だから、サイズはないけれども個性があるというGKを育成するチームもあってほしいなと思います」(南)

細かい技術だけでなく、試合への臨み方も指導

プレミアリーグEAST最終節のハーフタイム、流経大柏の選手に声をかける南【筆者撮影】
プレミアリーグEAST最終節のハーフタイム、流経大柏の選手に声をかける南【筆者撮影】

 南が週2日練習に参加している流経大柏は今季、プレミアリーグで個性の異なる3人の守護神を起用した。シュートストップが得意な松本陸(3年)、身体能力が高くてキックのパワーもあるU-17日本代表経験者の丸山ジェフリー(2年)もいる中、最も出場機会の多かった加藤慶太(3年)は、南が「ハイボールの処理は一番安定していると思う」と評価する選手だ。南がGKコーチに就任すると聞いて、インターネットで動画を検索したところ、キャッチしたボールを投げようとしてオウンゴールをしてしまった場面が出てきて驚いたというが「スーパープレー集みたいな動画を見たら、身体の使い方や伸びがすごかった。最近は、僕たちの練習の前に、南さんが身体を動かしている。もう全然動けないと言っていたけど、めちゃくちゃ上手い。やっぱりプロは違うなと思います」と元日本代表の存在に刺激を受けている。

 セーブ前の構え方や、至近距離からのシュートに対する腕の動かし方など、細やかな技術指導を受けているが、効果は、それだけではないという。南から「試合になったら、できることだけをやればいい。練習通りに蹴れば飛ぶ」と言われてから、自身のミスや不安に対する恐怖心が軽減されたという。加藤は「キック精度が課題。以前は、試合でここに蹴りたいとか(上手くいってほしいと)理想を持って失敗することが多かったけど、練習通りに足をボールに当てて、練習で蹴っている場所に蹴ればいいと思って蹴ると、ミスが減った」と話した。南と言えば、日本代表として世界で活躍しただけでなく、44歳まで現役を続けることができた考え方や競技に対する姿勢も評価された選手。現役高校生に示せる引き出しも多いのだろう。夏のインターハイ予選の際も、榎本監督が「南が来てから、選手の顔つきが変わった。自信を持ってプレーするようになった」と変化を認めていた。

GKの育成環境の進化、現代サッカーの多様化の中で、どう育てるか

南のようにJリーグを経験してきた指導者が次世代を育てる時代を迎えている【筆者撮影】
南のようにJリーグを経験してきた指導者が次世代を育てる時代を迎えている【筆者撮影】

 かつては、ゴールを守ることだけが評価されていたポジションだが、現代ではGKにも多くの要素が求められる。シュートストップ、最終ライン裏のカバー、ハイボールの処理などの守備面はもちろんのこと、ビルドアップのフォローやパス精度、カウンターアタックの起点となるロングキックなど攻撃面でも評価されるポイントが増えている。南は、若い育成年代の守護神たちを見てきた感想を次のように話した。

「全体的にレベルは上がっている。今は、小学生、中学生の頃から、GKコーチがいて、専門的な技術を教えてもらっている子どもが増えています。自分たちの時代には考えられなかったことで、羨ましいですし、素晴らしい環境。そういう変化もあって、日本も少しずつGKのレベルが上がっている。サッカーも多様化して、GKが求められるものも増えています。いろいろなことができないといけません。ただ、それによって、よく言えば、まとまっているけど、全体を見ると、もう少し個性のバラつきがあってもいいのではないかと思う部分もあります。器用な選手が増えて、個性が目立たなくなっているという話は、フィールドプレーヤーも同じだと思いますけど、技術は荒いけど闘争心むき出しのGKがいたり、動きが大きくて派手なセービングが目立つGKがいたり。そういうキーパーは、減っている気がします」

 大型化が進む現代で、個性を伸ばしながら、多くを求められる世界に生き残り、活躍できる守護神をどのように支え、育てていくか。GKコーチの役割も大きくなっている。南が静岡学園高校に在籍していた1995~97年は、まだJリーグが誕生して数年という時代。Jリーグを見た、経験してきた指導者が次世代を育てるサイクルを迎えている。流経大柏は、12月28日開幕の全国高校選手権に千葉県代表として出場し、17大会ぶり2度目の日本一を狙う。南もGKコーチとしてチームに帯同する予定だ。ただ、その前に、指導だけではなく、別の形でも刺激を与える機会がある。

教え子たちの大一番を前に「Jリーグ史上初、GKの引退試合」

 南は、12月21日にNACK5スタジアム大宮(13時開始)でJリーグ史上初となるGKの引退試合に臨む。南が現役時代にともにプレーした選手で構成する「YUTA FRIENDS」と、南がワールドユース(現U-20ワールドカップ)や2000年のシドニー五輪を目指す中で切磋琢磨した同世代の「BLUE LEGENDS」が対戦する形式で、南は両チームに入る。「YUTA FRIENDS」には、柏や熊本で一緒にプレーした元日本代表FW北嶋秀朗(クリアソン新宿監督)、「BLUE LEGENDS」には、日本サッカー界きってのレジェンドと言える「カズ」こと三浦知良(鈴鹿)や、ワールドカップに4大会出場した元日本代表GK楢崎正剛(名古屋グランパスアシスタントGKコーチ)ら錚々たる顔ぶれの参加選手がすでに発表されている。

 26年間ものプロキャリアで関わった現役、OBが集う一大イベントを控え、南は「来てくれるお客さんが楽しんでくれたらいいなと思っています。これだけのメンバーが集まるのは、なかなかないことだと思うので。僕も最後に良い思い出が作れたらと思っています」と笑顔を見せた。今後、指導経験を積む中で、どのような選手を育てていくか楽しみだが、指導する流経大柏の選手たちが全国高校選手権の大一番を迎える前に、スターだらけの引退試合でどんな姿を見せるのかも注目される。

【関連リンク】
・12/21 南雄太引退試合「Yuta MINAMI Farewell Game」特設サイト(大宮アルディージャ公式サイト内)

南雄太引退記者会見(大宮アルディージャ公式チャンネル)
第103回全国高校サッカー選手権(JFA公式サイト内)

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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